2024/03/05/火

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

薬局におけるオンライン診療の受診について

ある調剤薬局からオンライン診療について質問を受けました。「薬局内の一画にブースを作り、そこから患者がオンライン診療を受診できるようにしたいのですが、規制上許されるでしょうか?」とのこと。
調剤薬局は医療法第一条の二の2で定義される「医療提供施設」であり、感染対策もしており、ブースはプライバシーが守られるようにしつらえているので、問題は無いのでは?というのが先方の法務部の見解でした。

薬局は「医療提供施設」かもしれませんが、患者がオンライン診療を受けられる場所は「医療機関」か「居宅」(職場等の居宅に類するものを含む)に限られ、薬局はそのいずれかでも無いので不可ではないか、と私は認識していました。ただ、念のために規制改革推進室に問い合わせると、厚生労働省保険局に聞いてくれました。
結論から言うと、法的には不可では無いが相当ハードルが高いことが分かりました。同じような疑問を持つ方もいらっしゃるだろうと思いますので、ここに「どうハードルが高いのか?」を記載します。

先ほど、オンライン診療の受診場所は「医療機関」か「居宅」でないといけない、と述べました。しかし薬局は「居宅」には該当しません。では「医療機関」たり得るか、が論点となります。令和6年1月16日の厚労省の通知により、オンライン診療を受診するためだけの「医療機関」(診療所)は、医師非常駐でも可能となりました。
※「特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」R6.1.16厚生労働省医政局総務課長通知
https://www.mhlw.go.jp/content/001191694.pdf

しかしながら、開設するためには、開設理由含め事業の詳細を都道府県へ申請し、都道府県の開設可否を仰がなくてはなりません。
では仮に医師非常駐の「医療機関」(診療所)の開設を試みたとしましょう。次の問題は、療養担当規則の定めにより、当該診療所と薬局は、経営・資本関係が別であることが求められます。
具体的には、当該診療所の開設者が保険薬局の開設者と同一でないこと、開設者間の資本関係がないこと、経理事務等が区分されていることだけではありません。薬局の従業員がオンライン診療機器の操作をサポートすることも、できない可能性があります。

さらに当該診療所の設置場所も問題となります。「店舗内(売場)の一画にオンライン診療専用のスペースを設置すること」は、平成28年3月31日の事務連絡における事例5に当たり、保険薬局の指定を外される可能性が発生するのです。
※「保険薬局の指定について」H28.3.31厚生労働省保険局医療課事務連絡https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/tsuchi/documents/002_1.pdf

「『保険医療機関及び保険医療養担当規則の一部改正等に伴う実施上の留意事項について』の一部改正について」H28.3.31厚生労働省保険局医療課長通知
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000119346.pdf

保険薬局としての許可を得るためには、事例1のように店舗とブースの間の行き来ができないよう仕切りを入れるか、事例4のように駐車場の一画にオンライン診療専用の(電話ボックス型)ブースを設けることが考えられます。
ただ、そこまでしたとしても、医師非常駐の診療所としての許可が都道府県から得られるかどうかは、不明です。さらには個別の事例はケースバイケースなので、これ以外の課題も出てくる可能性があります。
この一連のやり取りの中で、医療界において規制をクリアしていくことの難しさを再認識しました。そもそも何故「居宅」か「診療所」でないといけないのか?オンライン診療を受診できる「医師非常駐の診療所」の開設許可は、何故都道府県の許可まで取らないといけないのか?この課題意識は以前より持っていましたが、仮にこれらをクリアしても、今度は療養担当規則が立ちはだかるのです。個人的には薬局でオンライン診療を受けて、その場で薬も貰えたら便利ですが、保険薬局指定を賭けてまでオンライン診療を推進する薬局は無いだろうと思います。
制度上は問題なくても診療報酬上は点数が付かないので誰もやらないケースと同じく、この業界では常に思わぬ伏兵に遭遇するのです。