2024/02/13/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

医業承継の検討はいつからが良いか

コンサルタント 金銀実

はじめに

医業承継において重要なのは縁とタイミングですが、医療・介護業界では一般的なビジネスの承継に比べて進行が遅く、計画的な行動を早めに起こさないと適切なタイミングを逃すことがあります。現在院長や理事長の立場にある方々もいずれその活動を終える日が訪れます。しかし、先生方は経営者でありながら医療を提供する現役医師でもあるため、最優先事項は患者のケアです。そのため、事業承継について深く考える時間が限られていることがよくあります。医業承継を考え始めるのが遅ければ、承継先が決まる前に施設の閉鎖を余儀なくされることもあります。今回は、医業承継の適切なスタート時期について、事例を交えて考察します。

地域に密着したクリニックの事業承継事例

事業承継の背景

東京都内で長年クリニックを運営してきた高齢の先生。患者様との関係性も良く、使命感を持って地域医療へ貢献してきました。しかし病気となり、お子様たちは医師ではなかったため後継者がおらず、急遽譲渡の検討を開始。突然診療ができなくなると、来ている患者様にご迷惑をおかけするため、譲渡まで診療は継続することに。しかし、事業譲渡がすぐに決まることはなく、病気の症状も段々深刻となり、患者様と接することや診療に影響が出ることが確認できたため、譲渡に向けた検討のペースを上げる必要がありました。

事業承継方法

方法1:医師採用
患者様も多く、立地が良いため事業承継を念頭に置いた医師採用を積極的に実施。将来譲渡を行う想定であること等条件を明記して、事前に不必要なコミュニケーションミスを防ぐことに注意しました。
ただし令和2年度医師・歯科医師・薬剤師統計によると、全国・全年齢で見た医師の勤務場所は7割が病院です。従い診療所における医師採用は、医師の全体数の3割の候補者の中から診療科が一致する医師を見つける作業と言え簡単ではありません。そのため経験上長期化するケースが多いです。

方法2:医療法人への譲渡
事業の拡大を求めて個人クリニックの買収を検討している医療法人も譲渡先として検討しました。本件は数件の医療法人より興味を持ってもらえて、うち1つの法人は現在運営している病院と連携しつつ、より地域内での事業拡大を狙って本格的に事業承継を検討いただきました。医療法人傘下にて複数回の人員調整を行い、最終的に院長交代に向けて調整を行いました。

事例から見える問題点

上記の方法をとっても、承継までの猶予がない場合は譲渡先が見つからないこともあります。院長がご高齢で、後継者がいないという問題は現在数多くの診療所が直面しおり、かつ、今後更に増加する可能性があります。

医業承継は早期の検討開始が重要

厚生労働省の「令和2年度医師・歯科医師・薬剤師後継の概況」によりますと、診療所(クリニック)に従事する医師の平均年齢は以下の通りで、平成20年以降上昇基調にあります。

(出展 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_toukeihyo.pdf

個人のクリニックでは医師が院長一人であることが多く休暇を取りにくいこともあって、過労による健康問題が発生することがあります。もし院長が健康を害すると、休診を検討するか、代理の医師を探す必要があり、診療時間を短縮せざるをえなくなる可能性もあります。診療時間の不安定な状態が長期間続くと、通院患者が離れていき、経営やクリニックの価値に悪影響を及ぼす可能性があります。

また必要に迫られてから対処すると、時間が限られてしまい上記例のように、譲渡成約させることが出来ない場合もあります。そのため、特に問題がなくても、早期に医療施設の将来について検討する機会を設けることをお勧めします。

医業承継について検討し始める最適なタイミングは案件によって異なるため、一概にこの年齢からと判断することは難しいと思いますが、将来を見越し、誰に病院を引き継ぐのか、第三者の承継を望むのかなどを考えて時期を早めて事前に行動する必要があります。しかし、経営者であり医師である院長は、日々の診療業務に追われ、将来の計画をじっくり立てる時間が限られているかもしれません。「60歳前後」頃から徐々に承継について検討し始めることも良いと思います。早い時期から検討し始めることで、大切に経営してきた医療機関の後継者選定について、ゆっくりと時間をかけることができます。

事前の行動の一つとして自身の引退後を含む今後の事業計画を早期段階で策定することは非常に重要です。早い段階で老後の資金計画を策定しておけば、医療機関で働くスタッフへの退職金を用意し、理事長や院長自身の老後の生活資金を確保するために必要な譲渡益の見積もりを行うことができます。

さいごに

後継者が不在で医療機関の将来に不安を感じる方、医業承継を検討しているが具体的なステップが不明瞭な方、また、必要性は認識しているけれども日々の診療業務に追われている方に向けて、メディヴァのコンサルタントがお悩みをお伺いし、解決策を提供いたします。お気軽にご相談ください。

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