2024/02/09/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

白衣のバックパッカー放浪記 vol.1/香港編①

日本から香港エクスプレスというLCCで香港へ飛び立った。香港はトランジット(飛行機の乗り換え)でのみ降り立ったことがある土地で、入国したことはなかった。最初の国として香港を選んだ理由、それは私のバイブルである深夜特急1)の影響が大きい。(前回参照:https://mediva.co.jp/report/backpacker/13085/)韓国と迷ったがこの時期は寒い。バックパッカーにとって気温は重要だと想像できた。衣服の枚数は増えるし、野宿をしても暖かければ低体温症になることもない。迷った挙句、私の背中を押してくれたこの本に敬意を示すためにも最初の土地を香港にすることが最も適しているように感じられた。

飛行機の座席は窓側から通路側まで横一列、私以外は乗っていなかったので座る場所は自由自在であった。「これはツイてるな」とたったそれだけのことなのに心が上擦った。機体が香港に近づくと機内アナウンスで時間、天気、気温が順番に告げられる。今まではそうなんだ〜くらいに思っていた情報へより一層の当事者意識が沸いた。窓側へ移動して景色を眺めると港珠澳大橋が細長い光の線となって伸びていた。港珠澳大橋は香港と珠海(中国の地名)、澳門(マカオ)をつなぐ全長55kmの世界最長の海上橋だ2)。東京湾アクアラインの全長が15kmなので約3.7倍と考えるとその長さに驚いた。いつか渡ってみたいなぁと思っていると気づけば高度が下がりきり、滑走路へと降り立った。

入国審査を終えて、空港の出口から外へ出ると少し曇った空と生暖かい気温が体に伝わってきた。気温は20℃、日本を出た時が12℃くらいだったこともあり南下したことが肌で感じられた。空港からドミトリーのある尖沙咀(発音が難しいのですが英語表記はTsim Sha Tsuiと記載される)という港街へはA21というバスで向かった。香港ドルすら持たずに入国したためバスに乗れるか不安になったが、クレジットカードを使えたため、難なく移動できた。そこからバスに揺られること45分、目的の尖沙咀に到着した。

バスを降りて5分ほど歩いた海防通りに、これから5日間宿泊するUrban Packという宿があった。ウェブサイトでみた外観に辿り着くと少し安心したのも束の間、担当者らしき中年男性が鍵を持って出てきた。中に入ろうとすると「場所はここじゃない、ついてこい」と私に告げた。そのお告げが怖すぎて、「うわーマジかぁ、ヤバいとこ取っちゃったかな」と胸から臍まで何かが落ちていった。とはいえ私に他の選択肢がある訳でもなく、付いていく他なかった。そこから2分ほどの場所にある築60年近い雑居ビルに通された。エレベーターの扉の前にもう一つ手開きの扉があり、担当者は私を手招きする。すくみ足を踏み出し、乗るとガタガタと音を立てながら私は8階にある部屋へと通された。

部屋は3畳くらいの共用スペースと2段ベッドが2つある4人部屋であった。その奥に2人部屋が2つあり、トイレ、バスは共用で当然だがアメニティーなどはない。トイレットペーパーとボディーソープ、シャンプーがあるのが救いだった。荷解きをして必要なものを取り出すと南京錠で残りの荷物が入ったバッグに鍵をかける。日本で宿泊するときには経験しない動作だ。「ちょっと新鮮だなぁ」と思いながら近くのセブンイレブンで水を買って、その日は床についた。

翌朝目覚めるとお腹が空いていた。お腹に従うまま、宿の外に出ると仕事に向かう香港人がそれぞれのペースで歩いていた。とりあえず、こっちに行く人が多そうだという方向に流されるがままに歩いていくと中港城(China Hong Kong city)の2階にある飲食店にたどり着いた。どんな食べ物があるかも分からず、店員にオススメを聞くととりあえず座れとのことだった。座ってメニューを眺めていると、おそらくオススメという意味のグッドマークが描かれていた。料理の写真などはなく、蛋麺-egg noodleと書いてあるオススメ疑いのその印を頼りに注文をした。egg noodleの意味も分からず何が来るのかと待っていると料理がテーブルにバサッと置かれた。注文した料理はミネストローネの中にインスタントラーメンのような麺が入った料理だった。egg noodleは卵と麺ではなく卵と小麦で作った麺という意味でした。じゃあパスタはなんて言うんだろうと思い調べると

「意多利面-Pasta」 

それはそうかと思う。と同時に「イタリアって伊じゃないんだ」と言葉の違いを実感した。出てきた料理を食べてみると想像範囲内のミネストローネ+インスタントラーメンの味がした。テーブルの上にラー油っぽいものが置いてあり、かけてみると辛いがとてつもなく美味しい。日本のラー油ともまた違う感じで山椒なのか少し舌を刺す感じの味であった。ほぼ反復作業のように麺を口に頬張り食べ終わると、なんとなく気持ちに余裕が出てきて辺りの人を見回し始めた。相席の人が注文すると少ししてからお湯がテーブルに置かれた。20歳半ばの彼がなんでお湯なんか頼むのかよく分からなかった。

少し観察してみると彼はお湯を飲まずに黙々と料理を口に運んでいた。彼が料理を食べ終わると徐にカバンから粉の入った袋を取り出してお湯に溶かし始めた。「そうか、漢方か」私はそこでなぜお湯を頼んだのか合点がいった。店を後にして街をぶらついていると薬局が目に入る。どの店にも確かに乾物のようなものがたくさん置いてあり、どう見ても漢方の原材料っぽいものだった。とりあえず試してみるしかないなと思い、薬局に入った。

若目の店員が対応してくれる。店員は一言目に「improve liver」と私に声をかけた。なんで肝臓が悪いのが分かるのかと思ったが、パッと見た目で判断できるくらい脂肪肝っぽい体型なのですんなり受け入れることができた。私はまたもオススメを聞くと、肝臓と腎臓にいいというDendrobiumu huoshanenseと言うものを薦められた。1ユニット380香港ドル(約7200円)。高い。1ユニットがどのくらいかも分からないが多分5回分くらいだろうと想像して購入した。ガタガタとその小さな生姜のようなものを電動ミルにかけて粉末にして瓶詰めしてくれた。瓶詰めされた粉末は2ヶ月くらいは持ちそうな量だった。

ドミトリーに持ち帰り、瓶詰めされた粉の写真をとってみる。無機的でもあり、有機的とも言える何とも形容しがたい雰囲気をまとったその容器がとても凛々しく見えた。

翌朝、私は早速この漢方を試してみることにした。本来はお湯の中に溶かしてお茶みたいに飲むとのことであったが、お湯が店内になかったのでお粥の上にかけることにした。味はそんなにしない。うまくもまずくもないのであった。もちろん今何かの症状がある訳ではないので、この粉の便益はすぐには見えてこない。でも何となく体が良い気分になった。

プラセボといえばそれまでだが、こういうふっと軽くなることがストレス低下に繋がっているように思う。翌る日、お湯に混ぜて飲んでみると、粉砕され切っていない漢方が生姜のようにシャリシャリした食感を出していた。味はカツオ出汁のような味、それでお粥にかけた時はあんまり気にならなかったのか、ともかく独特な味だった。

世界の漢方薬市場規模は2023年で2164億米ドルとされている。3)成長率は異なるが2022年の世界のデジタルヘルスの市場規模が2232億米ドルでほぼ同等の規模感だ。4)身近なような遠いような微妙な距離感のように思う。ただこれからも成長していく産業ではあるらしく、今後ますますこうやって粉を飲む人が増えるかもしれないと思うと面白い。

もう少し漢方のことを聞いてみたいなと思い、街で若めの男性に声をかけてみた。ドヤ顔で「漢方どれくらい飲むの?周りもみんな飲んでる??」と聞くと、

「あんなん、じいちゃん、ばあちゃんが飲むもので、何かあったら俺は日本のEVEを飲むよ」

とのこと。帰路に着きドミトリーで粉の入った瓶を見つめる。2ヶ月分はあるだろうその粉はこちらをみて何とも言えない佇まいで「世界を知るにはまだ早い」そう語りかけてくるようだった。とりあえず、なくなるまでは飲んでみようかなと思い、少し休んでからまた街に繰り出した。

次回へ続く


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【参考文献】

1)「深夜特急」公式サイト | 新潮社.  新潮社. (n.d). Retrieved January 27, 2024, from https://www.shinchosha.co.jp/special/midnight-express/

2)世界最長の橋とトンネルによる海上交通手段のすべてが明らかに | Hong Kong Tourism Board. South China Morning Post. (n.d). Retrieved January 27, 2024, from https://www.discoverhongkong.com/jp/greater-bay-area/longest-bridge-and-tunnel-sea-crossing-in-the-world.html

3)漢方薬市場規模、成長 |業界動向【2030年】. Fortune Business Insights. (2023). Retrieved January 27, 2024, from https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/漢方薬市場-106320

4)デジタルヘルスの世界市場-2023年~2030年 | NEWSCAST. (2023). NEWS CAST. .Retrieved January 27, 2024, from https://newscast.jp/news/8338327