2024/01/31/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

応需率改善に向けた問合せ記録票の運用と分析時のポイント

コンサルタント 石川昴志

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症の5類移行後、コロナ病床を廃止し、病床稼働を上げるために、新規入院患者の受入を積極的に行う病院が多く見受けられます。一方で、一部の病院ではコロナ前の新規入院患者数に戻すことができず、病床稼働が大きく低下しているケースもあります。

新規入院患者を増やす方法としては、営業活動を行い新規の問合せを増やす方法と、これまで断っていたような問合せを受けることで応需件数を増加させる方法があります。その中でも、応需率を高めることは、近隣医療機関からのイメージアップに繋がり、その他の問合せについても優先的に相談してくれるようになることも多いため、非常に重要です。

応需率を上げるための方法として、原則断らないことをルール化してしまう方法もあります。しかし、これは幅広い疾患に対応できるような一部の病院では可能ですが、中小病院などでは難しいのではないかと思います。また、自院で対応可能な疾患を超えて受けてしまうことは、スタッフの疲弊にも繋がりデメリットも大きくなります。

そのため、応需率を上げるためには、現状の応需状況を把握し、不応需となっている問合せの中で、どの問合せであれば受けることができそうか、また、そのために何を改善しなければならないのか検討する必要があります。

弊社が支援している関東都市部の病院(199床)においても、応需率を高めるために、各問合せに対する記録を付け、分析を行いました。本稿では、問合せ記録の運用と分析のポイント、課題解決に向けた取り組みについて、支援先病院の事例を交えてご紹介します。

2.問合せ記録の運用方法

フォーマットの作成
まずは問合せ記録を取るためのフォーマットを作成する必要がありますが、項目の設定は特に重要です。どのような項目を入れるべきか各病院によって異なりますが、一例として、支援先では下記フォーマットを作成しました。

項目を設定する際には、どのような分析が必要になるか考えた上で検討することが重要です。例えば、上記フォーマットを作成する際には、診療科や問い合わせ元別の受入状況、時間帯別のお断り理由として多いものは何か、などを分析できるように項目を設定しました。
また、各項目の回答は、記述式ではなく、可能な限り選択形式にすると集計しやすくなります。

問合せ記録を付けるスタッフへの記入方法の説明
フォーマットが完成したら、問合せを受けるスタッフ(記録を付けてもらうスタッフ)に、記入方法を説明する必要があります。
記入方法を正しく理解してもらわなければ、間違った内容で記録されてしまい、正しく分析を行うことができない可能性があります。そのため、各選択項目の意味などをしっかりと理解してもらうことは非常に重要です。
支援先でも、記入方法が正しく理解されていないケースがありましたが、何度か説明することで理解してもらうことができました。

定期的な集計、分析
記録を開始した後は定期的に集計、分析を行います。分析する際には、項目ごとに集計するだけでなく、項目と項目を掛け合わせて集計していくと様々な角度から分析を行うことができます。
例えば、支援先では一例として各項目を掛け合わせて集計し、下記のようなことを分析しました。

項目分析方法目的
時間帯別応需率時間帯×応需率時間帯によって応需率に差が無いかを確認する
診療科別応需率診療科×応需率 特定の診療科で不応需が多く発生していないか確認する
時間帯別不応
需理由
時間帯×不応需理由日勤帯、夜勤帯で特定の理由による不応需が多く発生していないか確認する
時間帯別診療科別
不応需理由         
時間帯×診療科×
不応需理由           
日勤帯、夜勤帯でそれぞれ、診療科ごとに特定の理由による不応需が多く発生していないか確認する
担当医別応需率担当医×応需率特定の医師で不応需が多く発生していないか確認する

課題が把握できたら、それらの課題を、何らかの対策により改善することができるのか、対応することが難しいのか分類する必要があります。また、改善可能な問合せを受けるようにすることで、何人程度新規入院を見込むことができ、それによって目標稼働に到達するかも含めて検討します。

3.支援先で得られた結果

支援先では問合せ記録を開始したことで、下記結果を得ることができました。
① 応需状況を可視化でき、経営層と共通の課題認識を持つことができた。
特に救急からの問合せで不応需となる件数が多く、不応需理由として日勤帯は個室満床や対応ベッドが無いことによるベッドコントロール(以下、BC)関連の不応需が多く、夜勤帯は専門外による不応需が多いことを確認することができた。
③ ②の内、BC関連の不応需は改善可能と考えられ、院内で共通認識の元、改善に取り組み始めることができた。

課題が明確になった後は、病棟看護師へのヒアリングを行ったことで、BC関連の不応需が発生する原因が明確になり、現在は課題解決に向けて、下記のような取り組みを始めています。

(ア)個室や2人部屋の不足による不応需が多かったものの、これまでBC担当者がそれらの病室を空けるための転室指示を行うことができていなかったため、受入病床を確保するための転室指示を業務化する。
(イ)上記転室業務も含め、予定外入院を積極的に受け入れる看護師体制が整っていなかったため、それらを行うことを前提とした必要人員配置を明確にし、採用を強化する。
(ウ)地域包括ケア病床への転室会議の頻度を増やし、転室を促進することで受入病床を確保する。
(エ)各病棟で主科が決まっており、一部の病棟では主科以外で受入可能な疾患が限定的になっていたことによる不応需が発生していたため、各病棟での受入診療科、疾患の見直しを行う。

その後も課題解決までスムーズに進んでいるわけではなく、転室業務の増加や、受入疾患の拡大に対して一部病棟で反発があるなど、新たな課題も発生しています。そのため、病棟ごとに受入可能な疾患の案を出してもらう、BC業務を見直しに向けて、改めて現在適正なBCができているのか、日々の記録を元に見直すなど、無理のないように一歩ずつ改善活動を進めています。

まとめ

今回は応需率を改善するための問合せ記録の運用方法についてご紹介しました。応需率を上げていくことはスタッフの負担増加にも繋がるため、現状と課題をしっかりと把握し、確認できた課題の内、無理なく実現可能な施策を検討していくことで、現場スタッフの理解も得られ、改善施策を進めやすくなります。