2023/07/05/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

健診事業における契約とキャンペーン活動の失敗例と解決例 

コンサルタント 星野宏仁 

1.はじめに 

健診事業に携わる経営陣とって、売上拡大に向けた受診者の集患は、大きなテーマであると思います。 
私も健診事業の事務長として勤務しているので、このテーマには日々悩みながら取り組んでいます。 

その経験から受診者と医療機関との繋がりの入口である「健康保険組合との契約」とその後の「健康保険組合に対するキャンペーン活動」に課題がある事も多々起きていると感じているので、失敗事例と解決例を整理しました。 

皆さまが、同じような失敗を事前に把握し、回避するための参考となれば嬉しいです。 

2.健診事業における主な契約の種類 

本題に入る前に、健診事業における医療機関と健康保険組合の主な契約の種類について、簡単に記載します。 健康保険組合との主な契約の種類は、①代行業者、②総合健保、③協会けんぽ、④直接契約の4種類があると考えます。 

No. 主な契約の種類 備考 
 ①代行業者 健康保険組合などが実施している健康管理業務(医療機関との契約、健診予約手配、請求業務など)の受託運営会社と医療機関が契約。 
 ②総合健保 一定数以上の同種・同業の事業所が集まり、設立した健康保険組合と医療機関が契約 
 ③
協会けんぽ 主に中小企業が対象である全国健康保険協会(略称:協会けんぽ)と医療機関が契約。 
直接契約 1つ1つの健康保険組合と医療機関が、個別に契約。 

3.契約時の失敗例 

①~③に関しては、代行業者、総合健保、協会けんぽが窓口となり、医療機関と契約を締結します。その為、契約内容が一定の範囲内で決められているので、問題にはなりにくいです。失敗しやすいのは、個別に契約していく④直接契約です。 

④の特徴として、契約内容に関する自由度が高くなりやすい印象があります。④の契約内容が、①~③の契約内容と統一感が無い場合、気付いた頃には健診コース、オプション内容、料金設定、請求方法などが多岐に増えてしまい実務面の運用が煩雑化し、それに連動して健診システムも複雑化していきます。 

具体的な影響としては、健康保険組合ごとによって、 

  • コース内容に含まれている検査項目が異なる。 
  • コース内容に追加可能なオプション選択肢が異なる。 
  • 受診者の自己負担額や割合が異なる。 
  • 結果及び請求締日が異なる。 

などが考えられます。 その結果として、 

  • 受診者ごとにコース内容が異なるので、検査項目が多い受診者と少ない受診者の構成割合が日々変動し、効率的な予約枠の設定が難しくなる。 
  • 予約受付スタッフや結果請求に携わる事務スタッフの業務内容が複雑化し、効率的な人材育成が難しくなる。 
  • ミス漏れを防ぐ為にチェック業務も必然と増えてくるので、必要以上にマンパワーが必要となり、効率的な人員配置が難しくなる。 

などの実務レベルでの弊害が出てきてしまいます。 これらの原因である④で、契約内容に関する自由度が高くなりやすい理由には、 

  • 健康保険組合ごとに要望が異なり、医療機関側としても契約締結を優先し、対応しようと思えばどこまでも対応できてしまう。 
  • 医療機関側として、契約内容のフォーマット自体が存在していない。 
  • 契約フォーマットが存在していても医療機関の営業担当が、健康保険組合の担当者と交渉する際に、先方からの要望を受入、営業担当者の判断で変更してしまう。 

などが、主な要因として考えられます。 

4.契約後におけるキャンペーン活動の失敗例 

よくある失敗例としては、集客目的で行ったキャンペーン活動により、現場及び健康保険組合の負担が増えてしまい、結果として、受診者や健康保険組合からのクレームが増えてしまうパターンです。 

キャンペーン活動として多いのは、閑散期である4-5月に早期受診を促す為に、 

  • 特定オプションの無料化 
  • 自己負担額の軽減 
  • クーポン券などの配付 

などが考えられます。そもそも代行業者経由の④では、キャンペーン活動自体が行えない先も多いです。その為、契約内容に関する自由度が高くなりやすい④に中心する印象があります。受診者数が多い主要な企業は、①~③が占める割合が高い印象なので、受診者数も少ない特定の健康保険組合のみ行うキャンペーンは、現場スタッフからすと業務の複雑化をより一段と高める要因となります。 

キャンペーン活動先の受診者数が、年間あたり100名未満の健康保険組合に対して、キャンペーンした場合、キャンペーン対象期間中の受診者数は、月当たり十数名程度になります。どんなに現場スタッフに周知し、現場スタッフも注意したとしても人間なので、受付時、会計時、結果票作成時、請求時のどこかで、キャンペーン内容の反映漏れなどが発生してしまいます。その際は、医療機関側は、手戻り業務や謝罪対応が発生します。また、健康保険組合にも受診者からキャンペーン内容について問合せが行ってしまうと、健康保険組合から医療機関へのクレームに繋がります。 

結果として、良かれと思い実施した閑散期対策キャンペーン活動の事後処理によって、事務側スタッフのマンパワーが取られてしまい、繁忙期に備えた事前準備も後手になってしまう悪影響がでてきます。 

5.解決例 

これら失敗例に対する1つの解決例としては、下記3つに係る意思決定を仕組化することです。 

  • 新規契約 
  • 契約変更 
  • キャンペーン活動の提案 

健診業務の主な業務フローとしては、「予約→受付→健診→会計→結果請求」になります。その中で、事務業務である予約、受付、会計、結果請求に携わる部門も巻き込みながら、意思決定できる仕組み作りが大切になってきます。具体的な例としては、2点あります。 

  • 要件定義書の整備:部署ごとの運用面で必ず確認が必要な項目について、契約締結前に契約内容を確認する為の資料になります。運用方法は、営業担当者が、新規契約時などに要件定義書の項目に沿って、契約内容を健康保険組合側に確認していきます。 
  • 意思決定機会の整備:部署ごとの責任者が、要件定義書に沿って、運用面的に支障が無いかどうかを確認し、決議する場になります。運用方法は、事前に要件定義書の内容は確認しておきます。意思決定機会の場では、どうすれば運用面も考慮しながら、キャンペーン活動などが行えるかを検討し、決めていきます。 

6.おわりに 

今までは、健診事業における契約とキャンペーン活動の失敗例と解決例を記載してきましたが、前向きな集患方法例についても記載して終わりたいと思います。一般的な集患方法としては、 

  • ネット広告
  • SEO、MEO対策
  • SNSの活用 
  • 健康保険組合への営業 
  • 事業所への営業   

など多岐に渡りますが、私が健診事業の経営に携わっている中で、ある程度の即効性と効果が期待できると感じているのが「代行業者が提供しているインターネット予約システムの活用」です。 

代行業者は、健診施設と受診者の間に立って、予約業務の代行も行っています。具体的には、電話やインターネットを通じての受診予約の受付、予約情報の管理、変更やキャンセルの対応などです。 その中でも健診施設が代行業者に予約枠を提供して行うインターネット予約システムは、24時間365日、受診者都合で予約できるので、上手く活用できると集患が期待できます。 

活用例としては、常に受診者がインターネット予約できるように、 

  • 日次で、インターネット経由の予約申し込み状況を確認し、申し込み状況を健診システムに反映し、また代行業者に枠を提供する。 
  • 時期によって、人間ドックや生活習慣病予防健診など予約が埋まりやすい枠に振り替えていく 

です。 

健診業務における契約とキャンペーン活動は、医療機関と受診者及び健保を繋ぐ入口です。契約内容やキャンペーン内容は、営業部や契約部のみで完結させずに、医療機関全体として最適な内容になるよう運用設計し、受診者の集患に向けて取り組むことが大切です。 

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