2023/06/30/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルタント 福地 悠
目次
コロナが一旦の落ち着きを見せるなか、特例的な診療報酬が段階的に廃止されています。これにより、患者数の減少を単価上昇によってカバーしていた医療機関はその底力が試されると理解しています。
そんな中、新たな収益源として自費診療の導入について支援先から相談をいただくシーンが増えてきました。 そこで、内科クリニックが新たに自費診療を導入するにあたっての検討のポイントを整理してみたいと思います。
まず、いきなり新規患者の獲得を自費メニューの導入により狙うのはお勧めしません。一つに、新規患者の獲得のためには、一定規模のプロモーション費用が掛かるためです。確実に利用されるとは限らない自費メニュー実施のための投資(原材料や設備、スタッフ教育のための人件費など)とプロモーション費用への大きな投資を一度に行うことはリスクが高いと考えます。
保険診療クリニックの強みは「今すでに当院を受診してくれている患者さんが一定数いる」点にあります。当院を継続的に利用してくれる患者さんへ向けての自費メニューの認知プロモーションであれば、より少ない投資で済みます。
また、既存患者さんは、当院の保険診療に既に支出をおこなっているため、全くの新規患者さんに比べ支出を行う心的なハードルが低いことも想定されます。これをマーケティングではクロスセルといい、医療以外の業種でも非常に重要視される増収戦略となります。
では、何から検討を始めればよいでしょうか。
まずは、自院の既存の患者層を分析し深く洞察することから始めたいとおもいます。男性女性どちらが多いか、どこに住んでいるか、年齢層の分布はどうか、どういった疾患が多いのか。これらは電子カルテとレセコンから抽出が可能です。また、上記の情報と加入健保情報を掛け合わせると、ある程度の可処分所得を類推することもできます。それらのデータを元にスタッフも交えてモデルとなる患者像を描ければ、「どのような自費メニューであればこの患者さんは試してみてくれるだろう?」と自然な検討の流れができます。
また、現状の患者層の分析は意外な発見があり、保険診療そのものについても見直す副次的な効果もあると考えます。
患者さん(需要側)についての分析ができたら、クリニック側(供給側)にも注目してみます。
まず、「当院がその自費メニューを提供する意義を語る“無理筋ではない”ストーリー」ができるか、が重要な指標となると考えます。 無理のないストーリーは、既存の患者さんからみた納得感や安心感につながります。なにより、先生やスタッフが胸を張ってそのサービスを提供できます。これがあやふやなままサービスを導入してしまうと、無理な営業につながり、これまで築いてきた患者さんからの信頼を棄損し、スタッフのモチベーションダウンにつながるリスクもあります。ここはよく検討をお願いいたします。
続いて、ストーリー構築のために市場にある自由診療メニューについて調査する必要があります。 単に「自由診療」といっても保険診療レベルの“安心・安全”でみるとかなりの差があるものが多く、現在の当院の信用を棄損せずにどこまでやれるかが勘所になります。メニューは大きく以下のように分類できると考えます。
調査が済んだら、まずは既存の保険診療と地続きか周辺領域にあるものから始めてみては如何でしょう。ワクチン、検診・健診などから始め、男性疾患や美容点滴、防風通聖散など漢方をもちいたダイエットなどが無理のない範囲となりそうです。そこから、売り上げと患者さんやスタッフの声、先生ご自身の興味が広がればメニューの幅を広げていくのがよいと考えます。
自院の既存医療からかけ離れた先進的な技術や適応疾患外の目的での薬剤使用などは慎重になるべきといえます。
ここで注意点ですが、患者からの需要が見込め、ストーリーに無理がなくとも大きな設備投資が発生するメニューの採用には慎重になるべきです。 これまでお伺いしてきたクリニックの中には、旧式の温熱療法ベッドや疼痛緩和機器などが院内に眠っているシーンを多々お見掛けしてきました。
自費診療は収益改善の一助となり得ますが、過度な期待は禁物です。大型投資による飛躍的な増収ではなく、まずは少ない投資で地道な積み上げでの収益向上を狙うべきと考えます。
今後の市場環境の見通しは大きな患者数の減少が予想されるため、厳しさを増す一方です。
これまでお話ししてきたように、自由診療は、自院の患者さんを見つめなおし、単価向上につながる可能性があり、保険診療だけではつかめない独自のノウハウを得る機会ともなりえます。一方でメニューの選択を間違えばレピュテーションリスクにつながる側面も秘めており、保険診療とはまた異なるチャレンジができる分野です。
過度に期待をせず、まずは既存の患者さんが喜ぶ工夫として検討してみてはいかがでしょうか。