2026/10/26/月
事例紹介
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【執筆】コンサルタント皆元/【監修】取締役 小松大介
目次
課題:
人口5万人未満の地方都市で地域医療を支えてきたクリニック。承継にあたって「買い手探し」や「後任医師の確保」の難しさに加え、想定外の「行政手続きの遅延」などが発生。
支援内容:
●売買条件の見直しと、広域展開する医療法人へのアプローチ
●後任医師の採用や従業員の処遇、不動産取扱いに関する調整
●買い手側のFAや外部弁護士との連携
など
結果:
体調に不安のあった院長が望んでいた時期に引退でき、また、地域医療を途切れさせることなく承継できた。
医療業界では、経営者の高齢化や後継者不足を背景に、第三者承継(M&A)の検討が増えています。しかし、その進めやすさは地域によって大きく異なります。特に地方都市のクリニック承継は、都市部とは異なるハードルがあり、途中で交渉等が停滞するケースも珍しくありません。
地方都市の承継において大きな課題となるのが「後任医師の確保」です。買い手となる法人が見つかっても、実際にその地域で勤務してくれる医師を確保できなければ、承継は成り立ちません。また、県外の医療法人が買い手となる場合には、管轄行政との手続きに想定以上の時間がかかることもあります。
本記事では、2024年4月から2026年3月末までの約2年間にわたり、弊社が支援した地方都市の個人クリニック(以下、Aクリニック)の事業譲渡事例をもとに、地方特有の課題にどう対応し、承継を実現したのか、その実務上のポイントをご紹介します。
対象となったのは、人口5万人未満の地方都市で長年にわたり地域医療を支えてきたAクリニックです。院長の体調への配慮もあり、事務長を務める奥様からのご相談で、できるだけ早期の承継を目指してプロジェクトが始まりました。
しかし、地方都市という立地もあり、当初はプラットフォームに掲載しても、なかなか具体的な交渉に進まない時期が続きました。そこで弊社はアプローチを少し変え、売買価格を現実的な水準に見直すようご提案し、ご納得いただいたうえで条件を調整しました。同時に、広域で展開する医療法人へ直接お声がけする活動も行いました。その結果、地方展開に前向きな医療法人(以下、B法人)との面談が実現し、譲渡に向けた協議がスタートしました。
買い手法人が決まった後も、いくつか乗り越えるべきポイントがありました。当初、B法人は自法人に所属する医師を派遣する予定でしたが、諸事情により実現が難しくなりました。医師が決まらなければ、話が白紙に戻る可能性もあるため、B法人は急遽現地での医師採用活動を開始しました。結果的に、地元にゆかりがあり、Aクリニックの近隣に住む医師を採用でき、一番の懸念点をクリアすることができました。
また、承継後の運営で欠かせない「職員の処遇」についても、弊社が間に入って細かく調整しました。 雇用主が変わることで職員に不利益が生じないよう、例えば有給休暇の残日数を新法人へ引き継ぐ手続きや 、退職金精算の取り扱いなどを明確にしました。さらに、不動産(土地・建物)についても、売り手の希望と買い手の資金計画を丁寧にすり合わせ、双方が納得できる条件での合意を図りました。
条件が整い、4月1日の譲渡実行に向けて準備を進めていたところ 、想定外の問題が発生しました。 県外の法人であるB法人が当該地域でクリニックを開設するための行政手続きにおいて、事前の契約状況などの要件により、正式な認可が数ヶ月遅れることがわかりました。
3月末での引退を望まれていた院長にとって、スケジュールの延期は体力面でも負担となります。一方で買い手側も、採用したばかりの後任医師を長期間待機させるわけにはいかない状況でした。
この課題に対応するため、弊社は買い手側のFAや外部の専門弁護士と連携し、法的に問題のない範囲で暫定的な業務継続の体制を整えました。
行政上の正式な開設者変更が完了するまでの間、院長の「早期の引退」と、B法人の「4月からの診療開始」という双方の希望を実現できるよう、実務上の運営に関する取り決めを交わしました。
実体的な運営の移行: 正式な認可を待たず、4月からはB法人が採用した医師が診療を行い、実質的な運営もB法人が主導する体制へと移行。
契約上の補償と合意: 認可までの移行期間中に発生し得るリスクに対し、売り手側に想定外の負担が生じないよう、買い手側の補償責任について契約上で明確化。
適法性と透明性の確認: 今回のような暫定的なスキームを進めるにあたっての医療法上の懸念や契約の妥当性についても、事前に外部の弁護士へ確認をとり、後々のトラブルを防ぐフローを整備。
こうした柔軟な対応により、院長は予定通り3月末で現場を退かれ、地域医療を途絶えさせることなく、引き継がれました。
地方都市におけるクリニックの承継は、買い手探しや医師の確保、手続き面での調整など、都市部とは異なる難しさがあります。
今回、無事に承継できたのは、予定通りに進まない事態が起きた際にも、双方が納得できる実務上の対応策をスピーディに用意できたこと、そして売り手と買い手の間に立ち、こまめにコミュニケーションを取りながら不安を解消できたことが大きかったと感じています。もし当事者間だけで交渉を進めていたら、手続きの遅れが出た時点で話がまとまらなくなっていたかもしれません。
承継は単なる手続きではなく、地域医療を次の担い手に繋ぐための大切なバトンタッチです。想定外のことが起きやすい地方都市だからこそ、状況に合わせて解決策を考えられる第三者の存在が役立ちます。地域医療の存続にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他