2023/07/25/火
事例紹介
保健事業部産業保健チーム・産業医兼コンサルタント 澤井 潤
課題:
●高齢化と人口減少が進む中、多くの介護施設は従業員確保と定着が課題に
●介護施設では、従来から言われている腰痛などの身体の問題のほか、メンタル不調が増えている
●従業員の健康を支える産業保健専門職のケアが機能していないケースがある
解決策:
DX健康管理を導入することで、介護ケアの提供者が十分にケアを受けることができる状態を構築。
結果:
DX健康管理の導入後に、離職者数の減少が見られた。特に不調時に踏みとどまれないで辞める、という選択をしている従業員が大幅に減少した。
2021年7月に厚生労働省は、第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について発表をしました。その発表によると2025年度には243万人(2019年度+32万人)、2040年度には280万人(2019年度+69万人)が必要と推計されています。すでに多くの介護施設は従業員確保と定着が課題で、様々な手立てを講じていますが、十分な効果を得られていないと感じている施設が多くあります。
今回は、弊社が支援した社会福祉法人で、従業員の採用・定着の課題解決としての健康管理体制整備が効果を奏した事例をご紹介いたします。
令和3年度介護労働実態調査によると、介護職員について不足感を感じている介護老人福祉施設が全体の約70%を占めていました。しかし同調査では離職率は全産業と比較して大差はありません。一方で介護関係の有効求人倍率は全職業の3倍以上であり、非常に採用が難しいということがわかります。辞める人の割合は変わらないのに、不足感は強いのは以下の図式が考えられます。
①職員が辞める
②採用が困難な中、なんとか現場努力で運営する(不足感と現場の疲労)
③即戦力は採用できないので、未経験を採用する(不足感と現場の疲労)
④教育の仕組みはできていないので、教育者はさらに疲れる(現場の疲労)
⑤一人前になってきたと思っていた段階で離職してしまう
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事実、離職者のうち勤続1年未満での離職は約30%、3年未満で見ると約56%と、多くの方が長く続いていないことも、人材不足感に影響していると考えられます。
施設側もこの現状に何もしていないわけではありません。介護労働実態調査を見ると、労働条件の改善や相談窓口の設置、コミュニケーションの円滑化、報酬など、様々な取り組みをされていることがわかります。
しかし、これらの取り組みの多くは、実際にやめてしまっている従業員のニーズに応えているとは言い難いのが現状です。というのも、社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士就労状況調査結果では、以前の介護職場を辞めた理由として2番目に多いものが心身の健康状態の不調でした(驚くべきことに給与水準や勤務体系よりも上位です)。これほど心身の不調が離職の理由になっているにも関わらず、施設の施策としてはあまり取り組まれていないのが現状です。
介護施設では、従来から言われている腰痛などの身体の問題のほか、メンタル不調が増えています。事実、精神障害による労災請求件数は、介護サービス職業従事者で年々増加しています。少なくとも、メンタル不調の発生に業務が起因していると考えている職員が増えている、ということが言えます。
一般的にメンタル不調のケアとしてセルフケア、ラインケア、産業保健職専門職のケア、事業場外サービスのケアがあります。このうち介護職場は、以下の理由で産業保健専門職のケアが機能していない可能性があります。
①従業員数50人未満の事業場(産業医の選任義務がない)
体制:産業医は不在。保健師もいない。地域産業保健センターは利用していない。
相談:内部の看護師スタッフが相談に応じる体制をとっている。
健診・ストレスチェック:健診を受けさせているだけ。
②従業員数50人以上の事業場(産業医の選任義務がある)
体制:産業医を選任。場合によっては配置医が産業医を兼任。中には定期的に訪問しておらず、契約だけのこともある。
相談:産業医訪問日に設定可能だが、従業員目線では、日程が合わず、かつ不定期なのでほぼ発生しない
健診・ストレスチェック:法令対応はしているが、活用まではいたらない。
少し極端ではありますが、決して珍しくはないと思います。このように従業員の健康を支える仕組みが機能不全状態にあると、介護職員は二つの段階で仕事を辞めるという選択を取っていることがわかりました。
①不調が出現、蓄積、悪化した段階(踏みとどまれない)
②さらに休職に至った段階(復職に至らない・選択肢をもてない)
いずれも、一般的に産業医や保健師の目線からは復調や復職がイメージできる状態であっても、機能不全の状態では従業員ご自身の体調が改善して、元気に仕事をするイメージがわかないことが原因と考えられます。
今回我々が支援させていただいたのは、特養3施設を運営する社会福祉法人で、総従業員数が約150名でした。産業医が月に1回、各施設1時間程度の滞在で1日かけて3施設を訪問。健診やストレスチェックなどは実施されていましたが、受診勧奨などの健診事後措置やストレスチェクの集団分析などは不十分な状況でした。
そこで弊社のサービスであるシェア型オンライン健康管理室を導入し、「現在の産業医と連携」し、以下のように各健康管理業務を整備しました。
①平日の日中は毎日、従業員と関われる体制を構築
月に1回の産業医の訪問は変更ありませんが、平日の日中は毎日、主に保健師が従業員と関わることが可能な体制としました。
②産業医と連携をしつつ、産業保健職として一般的なサポートを徹底
健診事後措置、ストレスチェックと集団分析、一定の残業者への疲労度の確認等を行いました。
③健康相談や休復職面談を実施
様々な仕掛けを行いながら、健康管理室に対する従業員の認知を向上させることで、従業員と直接関わる面談件数を飛躍的に増加させました。
本支援を開始して、約1年が経過しました。単純に比較はできませんが、2022年下期の離職者数が23名であったのに対し、2023年上期の離職者数は13名と大幅に減少しています。さらに2023年4月以降は、勤続年数1年以上の離職者が0の状態が続いています。特筆すべきは、賞与支給後の退職者で、2022年下期は5名だったのに対し、2023下期は1人も発生していません。
離職者が減少した要因として、特に「不調時に踏みとどまれないで辞める」という選択をしている従業員が大幅に減少しています。施設担当者の所感では、従業員の不調の相談先として健康管理室が機能し、結果として回復、あるいは不調を悪化させずに勤務を続ける道筋を作ることができているからと考えています。
介護ケアの提供者が、十分にケアを受けることができる状態を構築することで、多くの従業員が安心して元気に働き、介護を継続することができた好事例をご紹介させていただきました。弊社のDX健康管理は、100社以上の支援実績をもとに構築した標準的な仕組みをご提供しています。単純に健康管理システムを入れるのではなく、システムを活用しながら、現在の規模や体制を問わず導入することが可能な仕組みとすることで、現場に大きな負担をかけることなく健康管理を機能させ、健康管理のデジタルトランスフォーメーションを実現させています。