2026/09/09/水
医療業界の基礎解説
NEW
目次
前回9月7日に公開した「診療報酬改定で変わる『外来データ提出加算』」では、充実管理加算・外来データ提出加算における令和8年度診療報酬改定の影響と制度変化の全体像を解説しました。
本記事では実践編として、充実管理加算・外来データ提出加算の算定を開始するための「5つのステップ」と、現場担当者が直面しやすい実務上の障壁、その乗り越え方を詳しく見ていきましょう。
充実管理加算・外来データ提出加算の算定を開始するには、踏むべきステップが5つあります。(図1)。算定開始後も、提出したデータに対しての疑義確認があり、期限内に対応(必要に応じて再提出)する必要があります。
(参考)外来データ提出加算の概要と算定開始までの基本的な手順について:外来データ提出加算の導入に向けて|医療コンサルティングのメディヴァ
<図1:算定開始までの5つのステップ>

中でも「ステップ3:提出ファイルの作成」における外来様式1(FF1)は、データ作成対象患者全員の診療情報を電子カルテと照らし合わせながら入力する必要があり、多大な作業時間を要する場合があります。また、データ作成前の準備段階(ステップ1、2)とデータ作成後の処理段階(ステップ4、5)にも、つまずきやすいポイントが数多く存在します。
そこで、新制度の下で加算を算定する際に注意すべきポイントを「令和8年度診療報酬改定による変更点」と「これまでと同様に算定の障壁となる点」の2つの側面から説明します。
今回の改定における重要なポイントは、①名称の変更と対象の拡大、②外来様式1(FF1)の入力項目の大幅な変更・簡素化、③3段階の評価設定 の3つです。
①名称の変更と対象の拡大
従来の外来データ提出加算は「充実管理加算」という名称に変わり、新しい「外来データ提出加算」が設けられたことで調査対象範囲(データの作成対象)が拡大しています。算定する加算によってデータの作成対象が変わるため、図2で対象となる患者を確認し、データ作成リストに加える必要があります。
<図2:データ作成の対象患者>

②外来様式1(FF1)の入力項目の大幅な変更・簡素化
従来の加算で大きな業務負担となっていたFF1は大幅に見直されました(図3)。これまで手入力が求められていた身長、体重、血圧、採血データなどが削除されたことで、入力時間が短縮されるだけでなく、人為的な入力ミスが少なくなり、その後のエラーチェックにおけるエラーや警告が減少するため、ファイル修正にかかる工数も削減できると考えられます。
一方で、介護保険制度における主治医意見書の作成の有無や、特定健康診査の受診の有無などの項目が追加されました。今回新設された項目は、レセプトに含まれる情報ではないため、手入力が必要です。主治医意見書の発行日や特定健康診査の受診日等を記録する運用が整備されていないと、入力に時間がかかることが予測されます。これらの情報を一元管理するファイルを用意する、カルテの決まった場所に記録として残す運用にする、といった対応が望ましいと考えます。
<図3:外来様式1の入力項目と削除項目>


③3段階の評価設定
診療報酬改定により、これまで一律50点であった診療報酬に、疾患(脂質異常症、高血圧症、糖尿病)ごとの管理実績に応じた3段階の加算(充実管理加算1〜3:30点・20点・10点)が導入されています。
定められた期間内に提出されたデータをもとに診療実績の評価が行われ、加算の段階が判定されますが、加算の段階が変わった場合には、その都度、施設基準の届出が必要です。また、生活習慣病管理料の主病とする疾患ごとに加算の段階が変わる可能性もあるため、患者ごとに加算の段階を把握して算定しなければならず、医療現場の混乱を招くことが予想されます。電子カルテ・レセコンベンダーと情報共有を図りながら、段階の変化に柔軟に対応できる運用を整備していくことが求められます。
外来データ提出加算の算定の開始時に踏むべき5つのステップ(図1)の中では、FF1の作成(ステップ3)に最も時間を要するため、加算の算定にあたり苦労する最大のポイントであると考えられていました。今回の診療報酬改定によりステップ3が大幅に簡素化され、算定に対するハードルが低くなった部分はあるものの、実はそれ以外にも現場の担当者が苦労するポイントが残っています。各ステップにおける課題や障害を図4に整理しました。
<図4:各ステップの実務上の障壁>

まず、厚生局および調査事務局のマニュアルを確認し、制度やスケジュールを把握する必要があります(ステップ1)。膨大な説明資料の中から重要ポイントを読み取り、定められたスケジュールに沿って作業を進めます。
特に重要なのがスケジュールの管理です(図5)。試行データ提出のための届出や算定開始のための届出について、それぞれの提出タイミングや、どの時期の診療データをいつまでに提出すべきかを事前に把握しておかないと、期限に間に合わない恐れがあります。さらに、本番データの提出開始以降は、提出期限の遵守と、提出データに対する疑義確認への対応が並行して発生することにも留意が必要です。
<図5:算定継続のためのスケジュール>

制度を把握した後は、必要なファイルの確認です(ステップ2、3)。提出には、外来様式1(FF1)、EF統合ファイル、Kファイル、外来様式3(FF3)の4種類のファイルが必要です(図6)。このうちE・F・Kファイルは電子カルテやレセコンから出力しますが、機種やバージョンによっては出力に対応していない場合があるため注意が必要です。
<図6:用意するファイルと作成ツール>

ファイルが出力できることを確認したうえで、データ作成に進みます。その際、事前に匿名化データを作成するための「データ識別番号」の付与ルールについて、電子カルテ・レセコンの担当者に確認しておくことが重要です。これを確認せずに作業を進めると、エラーチェック時に「同一のデータ識別番号でありながら生年月日が異なる」「EFファイルに存在するデータ識別番号がFF1に存在しない」といったエラーが発生し、修正に時間を取られる原因となります(図7)。
<図7:データ識別番号の不一致エラー>

その他にも、エラーチェック(ステップ4)で指摘される項目は多岐にわたります。FF1、E・F・Kファイル、FF3の全てのファイルにおいてチェックが必要であり、エラーの詳細は図8のような画面で確認します。発生したそれぞれのエラーの要因を理解し、どのファイルをどのように修正すべきかを正しく把握していないと、提出用フォーマットでのファイル出力が行えません。
<図8:実際のエラー表示画面>

今回の診療報酬改定では大きな見直しが行われ、従来は検査会社や電子カルテベンダーと連携して効率化を図っていた入力作業の一部が簡素化されました。一方で、データ作成に向けた環境整備や、ファイル準備後のエラーチェック以降のステップについては変更がありません。データ提出に至るまでの各段階を正しく理解して作業を進めることが、従来同様、充実管理加算・外来データ提出加算をスムーズに算定するためのポイントです。また、単にデータを提出するだけでは評価されない仕組みへ移行したことを踏まえ、評価につながる実績を構築するためのノウハウを蓄積していく必要があります。
前編で述べた通り、今後は単にデータを提出するだけでなく「受診の継続性」や「適切な検査の
実施」といった『実績』を構築していかなければなりません。
多忙を極める外来現場において、医師やスタッフの個人の記憶や努力だけに頼って理想の診療サイクルを継続することは困難です。現場の負担を増やさずに標準化された診療を提供するためには、仕組みによる支援が不可欠です。
当社では現在、システムベンダーと連携し「外来診療版クリニカルパス(仮称)」の構築を進めています。このツールを活用することで、受診の継続性や各種検査の実施時期、さらには他科・他院の受診状況までが簡単に把握できるようになります。診療の合間にスケジュールを把握する医師やコメディカルの負担を大幅に軽減しながら、患者に対しても「いつ、なぜこの検査が必要なのか」を視覚的に提示でき、スムーズな合意形成(インフォームド・コンセント)を支援できます。
診療報酬改定への対応は、単なる「加算を取得するための事務作業」ではありません。データの提出と実績評価が求められる中で、これを「自院の診療の質を高め、患者との信頼関係を深めるための機会」と捉え、現場を支えるシステムを上手に取り入れながら、患者と向き合う丁寧な診療サイクルを構築することこそが、選ばれ続ける医療機関への一歩となるはずです。
※本文は2026年8月31日時点の情報をもとに記載しております。
監修者
林 佑樹
上智大学経済学部卒業。新卒で大手企業向け基幹システム開発企業に勤務。従業員規模1万人以上の企業向けにITシステムの提案営業からプロジェクト規模数十名程度のプロジェクト管理を行う。地域医療に興味を持ち、2013年よりメディヴァに参画。人生100年時代における医療介護モデルづくりを担当。地域医療を担う医療機関のコンサルティングを行いながら、国内外の医療介護のITサービス開発を行う。ウェラブル端末やIoT機器等を活用した医療者と患者の新しい関わり方や次世代に即した医療モデル開発を担当。