2024/07/05/金
医療業界の基礎解説
介護業界では人材不足の問題が深刻化しています。加えて、離職率が高く、心身への負担が大きい業務にもかかわらず給与水準は全職種と比べて低い傾向にあります。
人手不足への対策や定着率向上のためには、業務改善を通じて職員の負担を軽減し、働きやすい環境を整えていく取り組みが必要です。
今回は、効果的な業務改善策とその進め方について解説します。ご紹介する内容を参考に、自社にあった改善策を検討してみてください。
目次
まずは、なぜ介護の職場において業務改善が求められているのか、その理由を見ていきましょう。
介護業界では慢性的な人手不足が大きな問題となっています。職員が不足すると一人あたりの仕事量が増加し、業務負担が大きくなります。それにより退職を検討する職員が増え、離職率が高まるというマイナスのループにつながるケースも少なくありません。
また、介護の仕事は「体力的にきつい」「仕事量と給料が見合っていない」など労働環境においてネガティブなイメージを持たれる傾向から、人材が増えにくいという側面もあります。
そのため業務改善を図り、一人あたりの負担を減らして職員が安心して働き続けられる環境にする必要があるのです。
高齢化の進展に伴い、介護を必要とする人が増加の一途をたどっています。
以下は内閣府が発表した65歳以上の要介護者数の推移を表したグラフです。
グラフの推移を見ると、要介護者数は右肩上がりで増加しているのがわかります。
介護需要の高まりに確実に対応していくためには、業務改善を行い効率的なサービス提供の体制を構築していくことが急務です。
ここからは、厚生労働省のガイドラインを参考に、介護業界における代表的な業務改善策を3つ紹介していきます。
まずは、日常的に行っている業務を見直すことから始めましょう。長年行っている業務の中には、効率化を妨げている作業や不要な業務が含まれているケースは珍しくありません。
例えば、同じ内容を複数の書類に手書きで記入したり、慣習としての業務や非生産的になっている会議を継続したりするなどです。
思い切って不要な業務を削減し、時間帯の変更や備品を変えることで、大幅な業務改善が見込めます。日常業務の中で、効率化やスリム化できる部分がないか、改めて見直してみるとよいでしょう。
職員の業務分担を明確にすることで、各自が担当業務に専念できるようになります。分業にすることで全体の作業効率が上がるため、業務改善の施策として有効な策の一つと言えるでしょう。
分担例として、次のような分け方が挙げられます。
業務を適切に分担すれば、各職種の専門性を存分に活かしたサービス提供が可能になります。施設規模や人数に応じて柔軟に分担を行い、実践をしながら改善点を見つける姿勢が重要になります。
デジタル機器やICTシステムを活用して、業務の電子化・自動化を行うことで職員の業務負担が軽減されます。
システムやICT機器によって導入コストは安くはありません。しかし、業務負荷を軽減することによる離職率の低下や残業時間の削減を見込めるため、長期的に見ればリターンが大きいと言えるでしょう。
介護の職場で業務改善を進める具体的な手順を解説します。
まずは、誰がどのような業務にどの程度の時間をかけているかを見える化することから始めましょう。負担の大きい業務や時間帯が集中している業務など見える化することで、より効率な業務内容やスケジュールを検討することができます。業務改善を進めるためには業務量調査を行い、定量的に業務を把握することが重要です。
弊社が独自開発した業務量調査アプリ「MIERU」を活用すれば、簡単に自院の業務量を把握できます。見える化を行う中で手詰まりを感じた場合は、利用を検討してみてください。
※「MIERU」はコンサルティングサービスの一部として提供し、“業務量の調査のみ”のご依頼はお受けしておりません。ご了承ください。
課題を正しく理解していなければ、的確な改善策は立てられません。そのため、業務量調査の結果を踏まえて現場の課題を明確にする作業から始めましょう。その際には、以下のような施策が有効です。
業務内容やプロセスを書き起こしてミスが起こりやすい箇所を洗い出したり、ヒヤリハットや事故の事例を分析したりすることで課題が浮かびあがってきます。その際、職員の声にも丁寧に耳を傾けることで、課題の根本原因や優先的に取り組むべき課題が見えてくるでしょう。
課題が明らかになったら、次はその解決に向けた施策を考えます。施策を立案する際は、以下3つの視点をもつことが大切です。
施策 | 具体的な取り組み例 |
---|---|
業務整理(タスクチェンジ) | プロセスの見直しや不要な業務を削減して業務の効率化を図る |
連携強化(タスクシェア) | 介護助手の活用などにより、専門業務に専念できる環境を整え、職員間の連携強化により業務効率をあげる |
ICT活用(タスクICTシフト) | ICTシステムを導入して書類作成・介護記録をデジタル化し事務作業の簡略化を図る |
これらの視点をもち、自社の状況にあった施策を考えれば、効果的な業務改善を進められます。
施策が決まったら、いよいよ実施段階に入ります。新しい取り組みが定着するまでは、職員全員で協力し合い、建設的に議論して前向きに取り組む姿勢が大切です。慣れるまでは試行錯誤が必要かもしれませんが、取組みやすい施策から始め、小さな改善事例を創出し、職員の成功体験を得ることが継続へのポイントになります。
業務改善は一度行っただけで完了するものではありません。一定期間実施したら、必ず施策の効果を検証しましょう。
新しい取り組みを始めると、新たな課題や改善点が見つかるものです。効果を最大限に引き出すためには、検証を繰り返し、継続的に改善を重ねていく姿勢が欠かせません。
例えば、ICTシステム導入による記録業務の効率化を図った場合、作業時間の短縮効果や生み出された時間をどれくらい利用者ケアに充てられたかなどを評価します。時間は創出されたにもかかわらず、その時間を利用者ケアには充てられなかったという結果になった場合、原因となった事象や別の業務がないかなど、検証を行うことで新たな課題が見えてくるでしょう。
このように効果検証と改善のサイクルを回せば、業務改善の精度をより高められます。
ある支援先の特別養護老人ホームでは、業務プロセスの見直しと、不要な業務の削減を通じた業務整理(タスクチェンジ)を実施しました。また、介護助手を導入することで、スタッフが専門業務に集中し、業務効率を高めることができました。その結果、スタッフは入居者と向き合う時間を増やし、イベントの実施など、ケアの質を向上させる活動に注力することが可能になりました。
また弊社では北九州市の依頼を受けて「北九州先進的介護モデル」の構築・分析・実証支援をしています。ICT活用等による業務改善や介護の質向上向けた北九州での取り組みについては、以下のページをご覧ください。
https://mediva.co.jp/report/consultant-blog/3478/
介護業界が抱える人手不足や離職率の高さなどの問題に立ち向かうには、業務改善が必要不可欠です。無駄な業務を削減し、デジタル技術を活用して業務効率化を図れば、限られた人材でもサービスの質を維持・向上させ、円滑な運営を実現できるでしょう。
ただし、業務改善を進めるにあたって課題の洗い出しから施策立案、実装、効果検証までの一連のプロセスを、自社の力だけで進めるのは簡単ではありません。
メディヴァでは、業務量調査アプリ「MIERU」を活用しながら、医療・介護分野に精通したコンサルタントが、業務改善をサポートします。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他