2024/07/08/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 長島/【監修】取締役 小松大介
目次
「地域包括ケアシステム」という言葉が浸透して10年以上が経ちますが、現在でも地域医療連携、病院間連携、病診連携、医療介護連携など、様々な言葉で連携の重要性が謳われ、地域単位で暮らしを支える体制が求められています。
各自治体でも医療機関同士の連携強化を図る事業が実施されていますが、連携推進のためには共通目標の設定や利害関係の調整、論点の整理など、個別のケースに応じたコーディネートが必要となり、実現に至りづらい事業の一つであることは多くの自治体担当者が認識されているのではないでしょうか。
弊社では、医療機関連携推進に資する事業の委託をいくつかの自治体から受けています。今回は、「医療機能再編に関する病院間連携支援」と「在宅医療推進に関する医療機関間連携支援」の2つの事例をご紹介します。
1つ目は、病院の機能分化と連携を促進するため病院間連携の支援を行った奈良県の事例です。弊社では令和2年~5年にかけて医療機能再編支援事業の業務委託を受けていました。
医療機能再編支援事業は、主に「県内の医療提供状況の分析および医療需要の推計」、「機能再編を行う病院への支援」、「病院間連携を行う病院への支援(以下、病院間連携支援事業)」の事業で構成されます。
その中の病院間連携支援事業では、病院間の連携強化を推進するために、地域の連携状況や医療提供体制を考慮し、連携強化を図る相手病院の選定と連携強化に向けた実行可能な具体策の提案、病院間協議の場の設定と継続的な関係構築のための体制づくりをコンサルタントが支援します。
事業は病院からの手上げを募る募集型で、救急対応、転院促進など、様々なテーマでの病院間連携促進を支援しています。応募病院およびその連携先となる病院に対して、連携上の課題整理や、取り得る対応策の検討、実務担当者同士での具体的な取り組み方法の検討と実行、継続的な連携協議の場の設定などを支援し、病院間で連携関係を継続的に強化していける基盤の構築に繋がっています。
【具体的な取り組み例】
テーマ | 内容 |
救急応需率の向上 | ・地域の救急受入病院および消防を交えた搬送ルールの協議 ・2病院間の当直医配置ルールの検討 ・救急医療管制システムへの入力ルールの統一 |
重症急性期・高度急性期病院からの早期転院促進 | ・転院調整に係るITシステムの導入検討 ・転院受入疾患拡大のための情報連携 ・併存疾患を有する患者の転院受入強化 |
相互理解の促進 | ・転院困難ケースの共同分析 ・両病院スタッフによる双方の病院見学 |
人材採用 | 看護助手の人材確保のためのノウハウ共有 |
2つ目は、在宅医療の供給体制拡充のために病診連携、診診連携の支援を実施した山梨県の事例です。山梨県では訪問診療提供件数の増加を目的に、在宅医療アドバイザリー事業を実施しており、弊社では令和3年~5年にかけて業務委託を受けていました。
事業自体は、在宅医療の導入や規模拡大を検討する医療機関向けに、コンサルタントを派遣し個別に具体的な助言を行う事業であり、医療機関間の連携強化のみを目的とした事業ではありません。しかし、在宅医療は患者の急変対応のため24時間365日の対応が求められ、特に1人医師の診療所などが自院だけで対応するのは、負担が大きく、参入の障壁となっています。そのため、同県でも地域における連携体制構築に課題を感じている医療機関や地域は多く、様々な連携関係の構築を支援してきました。
(事例A)在宅医療に関する病診連携
支援内容 | 地域の機能強化型在宅療養支援診療所から、往診や困難事例についてのサポートを得ている病院に対して、自病院で在宅医療に対応できる体制の構築を支援。 |
効果 | 当該地域の在宅医療は1箇所の在宅療養支援診療所の医師ひとりによって提供されてきたが、当病院が在宅医療を拡充することで地域における在宅医療提供体制が増加及び強化された。 |
(事例B)在宅医療に関する入退院支援を円滑化するための病診・行政の連携
支援内容 | 在宅療養支援診療所と地域の病院との間で、急性増悪等によって入院が必要になった際の依頼や、在宅への退院についての情報共有の円滑化を検討する機会を作った。加えて、地域の中で入退院支援や医療・介護連携の議論を継続するために、行政も交えた連携を図った。 |
効果 | 地域単位で在宅医療に関する課題の共有ができるようになり、継続的に連携に関する議論できる場を設けられた。 |
(事例C)在宅医療を行う医療機関が少ない地域における診診連携
支援内容 | 在宅医療の開始を検討している医療機関に対し、在宅医療を始めるために必要な知識のレクチャーを行い、業務設計を支援。当支援内で連携強化を検討していた別の在宅療養支援診療所との連携を打診し、診療所間の連携を提案。 |
効果 | 当支援を契機に在宅医療を本格的に開始した医療機関が、近隣の医療機関の在宅医療開始を後押しするとともに、時間外対応の連携も検討を進めている。 |
連携推進を支援する上で重要なポイントの一つは、「連携によって目指す目的や姿の明確化」だと考えます。収益改善、業務負荷の軽減、サービスの質向上など、連携する目的が必ずしも医療機関同士で一致するわけではありません。医療機関の種別や機能、規模別の事業特性を理解し、経営上のポイントを理解している弊社では、双方が連携によって実現したい目的を整理し、お互いにとってメリットのある姿をご提案することが可能です。
また、連携の目的によらず、医療機関同士の具体的な連携協議を推進していくためには、コーディネートを担う第3者の存在もポイントだと考えます。連携関係が深まっていない医療機関同士が議論すると建前上の議論に留まり、上記のような連携の目的が十分に共有されないどころか、利害関係の調整、具体的な仕組みやルールの検討がまとまらず、実行に至らないまま議論自体がフェードアウトしてしまいがちです。第3者が間に入って、双方から本音を聞き出し、利害関係を調整し、具体的な仕組みに落とし込んだ提案をすることで、連携の基盤を築くことができるとこれまでの支援を通して実感しています。
弊社では、病床機能再編事業、在宅医療体制整備事業、医療介護連携推進支援事業など様々な目的の連携強化に対してご支援をしております。医療介護分野の連携強化でお困り事がございましたら、お気軽にご相談ください。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他