2025/06/27/金
寄稿:白衣のバックパッカー放浪記
目次
今回はオーロラを見るためにフィンランドの北側にあるロヴァニエミという町を訪れた。一生に一度はしてみたい旅ランキングで1位になったことがあるくらい「オーロラ鑑賞」は人々に望まれるコンテンツだ1)。私もそのうちの1人だが、日本人がオーロラを観に行くのは意外にもハードルが高いように思う。
なぜならオーロラのシーズンは9月から4月の間で夏休みからちょうど外れているからだ。さらに言えば「仕事で疲れた体を癒すための長期休み」には、運要素が強いオーロラ鑑賞よりも、私はリゾート地で過ごしたくなってしまう気がする。周遊で北欧に来たのだから観に行かないわけにはいかないだろう。
タリンで一緒だった丸山さんと合流して一緒にオーロラを見に行くこととなっていた。丸山さんも「一度はオーロラアタックをしたい」と言っており、ヨーロッパ周遊勢にとっては欠かせないコンテンツであることが再認識された。2人の集合場所はCafe Kotiというカフェ兼ドミトリーで、当たり前のようにサウナがついている宿だった。夕方を目処にお互いが集まり、食事に行くことになった。
どこに行こうかと少しぶらついて、なんとなく目に止まった中華料理を食べることにした。そして2週間ぶりの米(チャーハン)を食べた訳だが、これがめちゃくちゃ美味しく感じる。実際に美味しい店なのか、久しぶりだったからなのかの区別はつかないけど、とにかく美味しかった。味が体に染みていく。
馴染みがあるということは幸せの要因の一つなのかもしれない。馴染みのものに久々に出会うと安心感が出てきて嬉しい気持ちになる。この感覚って一体どういう構造になっているのだろうか。
ロヴァニエミには2泊する予定になっていた。オーロラは3日挑戦すると95%鑑賞できるとのことだが、チャンスが2日の私たちにとっては鑑賞確率は単純計算で60%くらいかなと思っていた。
初日は観測点に進むに連れて雲が厚くなり、しまいには雨が降る天気となり観ることができなかった。もちろんこういうこともある。チャンスは残り1回。「観れなくてもいい」と口に出して観れなかった時のがっかり感を事前に軽減しようとしてみるが、やはりここまで来たからには絶対観たい。
2日目の夕方に丸山さんとイタリアンレストランで夕食をとってから、近くのスーパーでラップランドというビールを買った。丸山さんはオーロラ鑑賞用のアプリを使いこなせるようになっていて、どうやら今日の観測確率が高いらしいことを教えてくれた。20時を過ぎると徐々に日が暮れ、辺りが暗くなっていった。
今日の目的地は町から北側にある川原のキャンプ場だ。なんだか雲もなくて見えそうな雰囲気が漂っていた。夏とは言えど夜の川原はかなり寒くなっていてバーベキューの火がないと薄手のダウンを着ていても少し肌寒かった。「お願いだからみせて欲しい」という気持ちがだんだん隠せなくなっていき、暖を取るのも忘れて空を見上げた。
すると次第に白い雲のような光がスーッと伸びていくのが分かった。どうやらこれがオーロラらしい。なんだか街を照らすサーチライトのような見え方をしていた。ちょっと思っていたのと違うなと思いながらもスマートフォンを向けると「思っていたオーロラ」が映り込んでいた。オーロラの明かりはかなり弱いらしく、カメラで光が強調されると見慣れたオーロラになるようだ。次第にオーロラは強さを増して淡い緑色に変化していった。
思ったよりは色調が薄い感じだったが、カーテンのように揺れる光景は素直に綺麗と言える。これで人生でしたいことをまた1つクリアすることができた。
ツアーで一緒になった医師夫婦の妻と近い場所に座っていたのでその方と会話することになった。話をしているとどうやら医師だけでなくコーチングの会社もやっているらしい。フィンランドのテーマの一つである「幸せとは何か」を聞いてみたくなり聞いてみると「happinessとjoyfulnessを区別しなくてはならない」とその妻は言っていた。多くは語らなかったがその言葉を繰り返し教えてくれた。
宿に帰ってから調べてみるとどちらも幸せを指す言葉のようだがhappinessは比較的穏やかで持続的な幸福感を意味しているのに対して、joyfulnessは瞬間的で強い喜びを指すようだった。自分が幸せを考えているときに浮かべるのは前者のような気がするが、どちらも人生には必要なことのように思われる。刺激やスリルからjoyfulnessを感じることはあるが、その連続が必ずしもhappinessではないだろう。皆さんは「幸せ」を考える時にどちらのことを言っているだろうか。
フィンランドでの旅の経験を通して私なりの幸せの意味について考えてみる。フィンランドで感じた私が考える幸せはjoyfulnessというよりはhappinessに近い。自然が豊かな場所で、自然をいつでも感じられる。そして自然の中に身を置く時間が長くなり、自分が「人間」というより「生き物」であるという感覚が強くなった。そのことで自分自身の生きている感覚が強くなったような気がした。
世界幸福度ランキングでフィンランドが1位になった理由として「自然が身近にあること」が挙げられている。自然に身を置くことで「自分が生きているという感覚」をフィンランドという土地は高めてくれて、些細なことからも幸せを感じやすくなっているのではないだろうか。
日本にいると時々何に素直に喜んでいいのか分からなくなる。元々、天邪鬼な性格もあるかもしれないが、感情を表立って出していいのか迷う時がある。自然に身を置くことで感覚器がより洗練されて、敏感になり、自分の感情がつかみやすくなる。そのことで「素直な自分らしさ」に気づく。自然は何も拒むことなく、その素直な気持ちを外に出しても受け止めてくれるような気がしている。
次の目的地であるストックホルムに向かう前にヘルシンキのサウナに入った。フィンランド湾の風が体に当たる。自分が生きていると感じる。太陽風がオーロラとなり地球を彩るように、この風がこの土地の人々の幸福感を高めているのかもしれない。
次回は7月11日(金)、ストックホルム編です。
【参考文献】
1)一生に一度はしてみたい旅は? 「オーロラ鑑賞」や「スキル磨き」など体験型が人気、おばあちゃんインスタグラマーが実現したリストも公開|トラベルボイス(観光産業ニュース). (n.d.). Retrieved June 25, 2025, from https://www.travelvoice.jp/20171230-103016
2)世界幸福度ランキング、フィンランドが8年連続1位 – BBCニュース. (n.d.). Retrieved June 25, 2025, from https://www.bbc.com/japanese/articles/cpq28dzx7j3o
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