2025/05/09/金
寄稿:白衣のバックパッカー放浪記
目次
バスで4時間25分、ラトビアの首都リガに到着した。バルト南北縦断はヨーロッパ旅行の旅程としてはまずまずポピュラーなものらしい。ミュンヘンからここに来るまでの間にバスで顔見知りになった人が何人も乗っていたからだ。その人達に「次はどこに行くのか?」と聞くとエストニアかフィンランドだと答えた。大体2週間くらいかけて南北に移動しているようだった。リガのバス停は誰が見てもバスターミナルだと分かるものだったからとても安心できた。次のバス停が「どこにあるか分かっていること」のありがたみを感じながらドミトリーへ向かった。
リガで予約したドミトリーは予約サイトの評価で10段階のうち9。宿代は3600円/泊。今まで見てきたヨーロッパのドミトリーの中では1番賑やかで活気がある場所だった。評判が各国からバックパッカーを寄せ集めていた。さらにスタッフも住み込みで各国から集まっていて、テキパキと動いていた。共有スペースには人をダメにしそうなソファーが並び、バルコニーでは若者たちが煙を吹かしていた。
受付をしてくれた人の身長がやたらと高い。おそらく190cmはありそうだ。調べてみるとラトビア男性の平均身長は181cmらしい1)。日本男性はが172cmであることからもその高さが窺い知れる。ちなみに一番平均身長が高い国はオランダだそうだ。
それからラトビアには自然信仰をするラトビア神道というものがあるらしい。大半はキリスト教のようだが、一部で自然を神様として崇めている。そのため鳥の名前を人の名前につけるらしい。試しに受付のラトビア人に聞いてみたら「そんな名前の人はいない」と言っていた。
とにもかくにも、ビリュニスよりも観光地としてのレベルが上がっているような感じがする。バックパッカーがこれだけ揃っていれば見どころもたくさんあるのだろうと思わせた。実際リガの人口は60万人とビリュニス(人口54万人)と比べるとそこまで大差はないのかもしれないが、バルト海の真珠と呼ばれる美しい港町になっている。旧市街は世界遺産に登録されており、アール・ヌーヴォー※と呼ばれる建築が街を彩っているらしい。
最近は訪れる国の旧市街が全て世界遺産で新しさがなくなってきているなと感じる。日本との違いがあるとすれば首都に旧市街があることだろう。東南アジアでも旧都と首都が違う国はいくつかあったからアジア人は場所を変える傾向にあるのかもしれない。ちなみに都内の世界遺産は国立西洋美術館と小笠原諸島だけで、私はそのどちらにも行ったことがない。この辺りの人からすると京都が首都になっていないことを疑問に思っている人がいても不思議ではない。
とりあえず旧市街に繰り出して街の雰囲気を掴んでみることにした。リガ旧市街はかつてロシアとヨーロッパの拠点として要所となっていたらしい。そのため様々な文化が混ざり合う場所となっている。確かに見どころはたくさんありそうだ。「どこを回るか考えるため」という口実を使って、謎にメキシカンパブでアペロールを頼んでみる。
アペロールとはオレンジ味のリキュールでヨーロッパではレモンサワーのように飲まれている飲み物だ。子どもの頃に飲んだシロップ剤の味がするから、好んで飲むものではないのだが、何となくヨーロッパを感じたい時には飲むことにしている。アルコール度数はどのくらい炭酸で薄めるかで変わる訳だが、この店は濃いめだった。さらにハッピーアワーとかで2杯持ってくるものだから顔色もアペロールみたいにオレンジ色になって、口実はやはり口実になってしまった。
あまり頭が回らないながらも、現地の人がよく行く食堂みたいなものを探すことにした。その土地のことを知りたかったら、地元の人がよく足を運ぶ場所に行くのが良さそうだと考えたのだ。これは妙案で調べているとLido(リド)というチェーン店が有名らしいことが分かった。しかも今いる場所から歩いてすぐに行けそうな場所にある。少し酔っている方がいい情報を掴めるのかもしれないとよく分からないことを思いながら店に向かった。
Torgonu通りの角にその店はあった。店先のテラス席にはビールを片手に料理を摘む人々が楽しそうに会話をしている。店内の人々の動きからこの店がビュッフェ形式で料理を皿に盛り、最後に会計をするシステムだということが理解できた。何が並んでいるか見てみるとサラダやソーセージ、マッシュポテトなど見慣れた料理の中で一際輝きを放って見える料理があった。魚だ。
ミュンヘンから8°緯度を上がるまでの間、一度も目にしなかった魚料理が並んでいた。内陸をずっと移動していたため肉料理中心の生活になっていたが、やはりたまに魚を食べないと嫌になる。迷わずサーモンのテリーヌを皿に入れて、足早に会計を済ませて口に放り込んだ。「おいしい」という感覚で満たされていることが分かる。よく「空腹は最高のスパイス」というが「久々に食べる」ということも負けず劣らないマジックスパイスのようだ。結果滞在中に私は3回リドに行き、次のエストニアでもリドに行くぐらいハマってしまうこととなった。
ありがたいことに、この放浪記はメディヴァのサイトにアップさせてもらっている。この連載では、家庭医をしていた経験を通して世界を見た時にどのように感じるかを伝えるべきであると感じている。どうして突然こんなことを書き出したかというと日本に帰った時に読者から「医療ネタはどうしているのか」と聞かれたからだ。当然、こういうネタは降って湧いてくるものではない。経験があるからと言ってただ黙って観ていれば、景観が網膜に映っているだけで何の情報にもならない。
通常、医療情報だけを得たいのであれば医療機関や企業にお願いして見学させてもらった方が効率はいいだろう。そんなことは分かっているのだ。しかし私の旅は放浪が前提かつ基本1つの国を2泊3日で回っているので、そんなことをしたら観光の時間がなくなってしまう。だから観光の途中で薬局や診療所に行って情報を集めたり、ドミトリーのスタッフや街の人に声をかけて話を聞いたりしながらネタらしいものを集めている。
リガではどうやってネタを探すか。プラハで市役所に行き、保険システムのことを聞いたのが意外とネタ集めに良さそうだと味をしめていた私は市役所で医療ネタを集めることとした。市役所は旧市街の中心地にあるのでアクセスはしやすかった。中にもすんなり入れたのでうろちょろして医療ネタを探していると声をかけらる。「どうやって中に入ったのだ、ここは観光地ではない」と警察らしき人に引き留められた。何だか怒っていそうな雰囲気で詰められる。
事情を説明すると不審者ではないことは理解してくれたが、これ以上は市役所内には留まることができない雰囲気だ。「医療システムについて知りたい、どうやったら保険に入れるんですか」と聞くと、住所をメモ書きして渡してきた。「まずはここに行け」とのことだったので向かってみるとそこは旅行代理店だった。どうやら警察にうまく巻かれてしまったようだったので、とぼとぼドミトリーに帰ってスタッフに話をすると「自分の家庭医を見つけるためには住民ライセンスを取得しないと行けないから旅行代理店を紹介されたんだと思うよ」とのことだった。なるほどそういう感じに理解していたんだなと腑に落ちた。
1人ひとりに家庭医が付くこの国では住民ライセンスと医師が結びついていることが分かった。しかもライセンスは市役所ではなく何故か旅行代理店。試しに調べてみたが、どこにも住民ライセンスを旅行代理店で取るとは書いていなかった。「こんな事ならばいっそ見学先でも予約してみようかしら」という気になりエストニアの医療系企業に連絡をしてみる。バルト三国、最後の国には何があるのだろうか。
次回は5月23日(金)、タリン編です。お楽しみに。
【注釈】
※アールは「アート」、ヌーヴォーは「新しい」を意味するフランス語
【参考文献】
1)【2025年最新】世界の男女の平均身長ランキング | 日本人男性平均身長は112位、日本人女性平均身長は141位に|セカイハブ. (n.d.). Retrieved May 7, 2025, from
https://sekai-hub.com/posts/wpr-average-height-ranking-2024
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