現場レポート

2024/10/25/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

白衣のバックパッカー放浪記 vol.18/セブ編

モアルボアルという町で

マニラからセブパシフィックという飛行機に乗ってセブ島にやってきた。地図をみてみると分かることだけど、フィリピンって本当にたくさんの島がある。その数はなんと76411)。多いなと思って日本の数をみてみると141252)。やっぱり日本って島国なんだと気付かされる。セブ島はフィリピンの中央に位置する南北に細長い形をしていて、周囲が他の島で囲まれている。島中部の東海岸にはマクタン島という高級リゾート地があり、空港もここにある。

ご存知の方も多いだろうが世界一周で有名なマゼランは実は一周していない。このマクタン島で戦死していて、残った船員たちが世界一周を果たしている。そのマクタンに泊ってみたい気持ちももちろんあるが、私が宿泊することにしていたのは西海岸にあるモアルボアルという小さな町だ。結局何をしにセブに来たかと言えば青い海を眺めるためだなと思い、調べた結果ここが一番ビーチが綺麗そうだったのでこの町を選んだ。

早朝5時18分、空港に着くなりタクシーの客引きが寄ってくる。本当かどうか知らないけれど、ネット情報によると白いタクシーが安全らしい。行き先はサウス・バス・ターミナルでここからモアルボアルに向かうバスに乗車した。3時間弱乗ったところにあるバトというバス停でおり、そこからトライシクルに乗って宿へ向かった。

道は当然のように舗装されておらず、犬もウロウロしている。狂犬病ワクチンを打っていても日本ではあまりみない野良犬を見る度ビビってしまう。宿は古民家のようなところで老夫婦が経営しているらしい。まだチェックインできないとのこと(朝便だったので到着したのは9時30分)だったのでとりあえず水着に着替えさせてもらって散歩することにした。

モアルボアル一帯は観光地になっていて欧米からたくさんのバックパッカーが集まっていた。そのためピザ屋とかおしゃれなカフェ、バーがポツポツと立ち並んでいる。朝ごはんを食べていなかったので宿の人に薦めてもらったベランダというカフェで朝食を食べることにした。名もないビーチは青く清んでいて、何人もの人が泳いでいる。それを眺めながらオムレツと焼きたてのトースト、ピクルスのように添えられた輪切りのトマトをジンジャエールと一緒に飲み込んだ。

夜のモアルボアル、いろんなお店が立ち並ぶ

夜のモアルボアル、いろんなお店が立ち並ぶ

いつも通り、ほとんど何も事前リサーチすることなくこの場所にやってきた。アイランドホッピング(船で行く島巡り)だけは予約していたが、他に何をしようかなと思っているといくつものツアー紹介屋の看板にキャニオニングと書いてある。「キャニオンは渓谷だからカヤックで川下りっぽいな」と思い、楽しそうだったので翌日のツアーに申し込むことにした。

初めてのキャニオニング

翌日、宿の横にある駐車場に集合し、目的地であるカワサン滝に向かった。写真でみる限りはラオスのクアンシーの滝に似ている場所だ。会場に着いてライフジャケットと赤色のヘルメットを渡された。そこから渓谷まではジップライン(有料)か徒歩で向かうことができる。同じ組になったイギリス人カップルが当然徒歩という感じだったので、ツアースタッフと私を合わせた4人で歩いていった。

このカップルは理学療法士とテレビ局で働く2人がマッチングアプリで結ばれ、旅に出ているとのことだった。理学療法士の方と話していると「イギリスのプライマリーケアは15分しか話す時間がないんだ、そんな短時間で話せる訳がないのに」と言っていた。日本の外来は5分とかのこともあるよと伝えると「それって診療なの?」と驚いた表情をしていた。さらにイギリスの理学療法士の業務を聞いてみると、患者さんが医師の紹介などなしで直接受診できるらしい。めまい治療のひとつであるエプリー法や麻痺で硬くなった筋肉をほぐす時に使用するボットクス注射もルーティーンワークとして行っているとのことだった。日本よりも業務範囲が広く、違うなと感じる。あと勝手なイメージだけど理学療法士の先生って運動が得意な人が多い気がしている。それは国が変わっても同じようで歩く速度が早かった。運動不足系デスクワーカーだった中年にはかなり応えた。

しばらく歩いて、渓谷に到着した。お目当てのカヤックがない。というかカヤックが進んでいけそうな真っ直ぐな川のようなものがない。辺りは岩でできた渓谷を曲がりくねった水色の水が流れている場所だった。ツアーの先導者が「それじゃあ付いてきて!」と言い、言われるがままに付いていく。川の中を泳いだり、ゴツゴツした岩を登りながら下流へと進んでいった。

渓谷を進んでいく様子

渓谷を進んでいく様子

ある程度行ったところで、「じゃあこの崖からジャンプしよう」とスタッフが伝える。そういうものだと思っていないし、全員できる訳じゃないと思っていたので「他の道で行きたいんだけど」と聞くと「いや、他の道はないよ。進むにはここから飛ぶしかないんだ。」とのこと。高さは12mで他のところはもう少し低いけど、残り3ヶ所はジャンプしないといけないらしい。「キャニオニングってマジで渓谷遊びって意味なんだな、というかカヤックだったらカヤッキングとか書いてあるよな。」とここで不意に言葉の理解を深める。当然、カップルは先にダイブし終わっている。

周りから「Go、Go!」と謎の盛り立てあり。「お願いだから自分のペースでやらせて」とよくテレビでみる芸能人がバンジージャンプさせられる状況と同じ場所に追いやられてた。もう行くしかないんよねととりあえず可能な限りの助走をつけて飛び出した。飛んでいる瞬間のことは何も覚えていない。ただ「うわ」と思った次の瞬間に水が体を打ち付けて、水が空気と混ざる音が聞こえてちょっと苦しくなったところでライフジャケットが顔を水面の外に出してくれた。なんとかその後の難所もなんとか超えて行くことができた。ここで一番伝えたいこと、それは「やればできる」とかそういうことではなく、「キャニオニングが体一つで渓谷下りをするもの」ということ。もし行かれる方は間違えないようにして欲しい。

電気のない村

セブからアイランドホッピングで1時間くらいのところに天国に一番近い島と呼ばれるバンダノン島というところがある。白い砂浜が青い海に並走して天国まで伸びて行きそうな場所だ。直前に申し込んだツアーで行ったので、結構高いなと思っていたらプライベートツアーだったらしく通りで高い訳だなと思った。ツアー当日、バンカーボートという羽のようなものが着いた船を貸切にした上に私1人に対してスタッフ5人が付いていたので経費的にはそれくらいはかかりそうな内容だった。パンダノン島に着くと確かに綺麗な海岸があるのだが、その横にある集落の方にどうしても目が言ってしまった。綺麗な海に並ぶ赤、黄、青の原色で塗られた屋根を持つ家々が興味を引いた。どのみちプライベートツアーなのでガイドにあそこに行きたいというと物珍しそうにこちらを見つめた。

パンダノン島の集落とバンカーボート

パンダノン島の集落とバンカーボート

どうやらこの島には電気が走っていないらしい。全ての電力は太陽光発電で賄われている。Wi-Fiを使うには小さい機械に5ペソ(12円)を入れて20分使用させてもらうらしい。何ヶ所もこの機械が設置されているのを目にする。主に漁業で成り立っている村だからか、漁師であろう男性達は仕事を終えてその辺で寝転がっていた。家の壁もコンクリート、石、竹と様々なものでできていて、あるもので補っている印象だ。小学校はあって、それ以上の教育はセブ島にいく他なく船で通学するらしいがとにかく子どもが多い。診療所もあるにはあるがいつ開いているのかは全く分からずこの日も診療はされていなかった。人口は2000人程度のの島らしい3)。2013年に行われた日本人を対象とした研究では1ヶ月間で平均1000人のうち206人が診療所を受診していたらしいが、その倍の412人が診療所を利用していそうな気配はこの島にはなかった4)

罹患率の差なのか受診しようと思う閾値の差なのか分からないが、とにかく医療アクセスはここに住んだ瞬間から途絶されている。でもそれが単に悪いことだとも思えないくらい人々は幸せそうだ。希望するしないにかかわらず、ここで生活を営み、その生活以外の手段なくここで人生を過ごしている。携帯のカメラを向けるとみんな笑顔でピースしてくれる。村のベンチでは電池で動くカラオケで人々が歌い、コンクリート床のバレーコートで球技をしてみんなが楽しそうにしていた。ここは本当に天国に近い島なのかもしれないーそう思わせる島だった。

更新は毎月第2、4(金)12時、次回は11月15日、内容はブルネイ編となります。次回もお楽しみに

【参考文献】

1)フィリピン基礎データ|外務省. (n.d.). Retrieved October 22, 2024, from https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/data.html#
2)日本の島の数 | 国土地理院. (n.d.). Retrieved October 22, 2024, from https://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/islands_index.html
3)Pandanon, Getafe, Bohol Profile – PhilAtlas. (n.d.). Retrieved October 22, 2024, from https://www.philatlas.com/visayas/r07/bohol/getafe/pandanon.html
4)Takahashi, O., & Ohde, S. (2014). The Ecology of Medical Care in Japan Revisited. Value in Health, 17(7), A434. https://doi.org/10.1016/j.jval.2014.08.1115


白衣のバックパッカーのSNS