2024/08/09/金
寄稿:白衣のバックパッカー放浪記
▼前回はこちら
https://mediva.co.jp/report/backpacker/14738/
目次
プーケットにはいくつかのビーチがある。歓楽街と隣接しているパトンビーチ、空港滑走路の裏にあるマイカオビーチ、そして夕陽が有名なナイヤンビーチの3ヶ所に私は行った。どのビーチも水が透き通っている綺麗な海だ。今回はこのビーチでの話を書いていこうと思う。まずはパトンビーチの話をしよう。パトンビーチは宿のある旧市街からは15kmの道のりを山を超えて行かなくてはならない。行こうと決心したのはピピ島のツアーから宿に帰ってからだった。明後日の飛行機の時間が朝早すぎるため明日、宿を空港近くに移動することにしていた。夜に余裕があるのは今日しかないなという感じで、ツアー帰りで休みたがってゴネている体に鞭を打ってGrab(東南アジアの配車サービス)でバイクを呼んだ。せっかくプーケットに来たのだから、プーケットらしいところにも行ってみないなという感じだ。
バイクタクシーは私を乗せて大渋滞の山道を進んでいく。山頂付近にパトン・シティーと書かれた大きなモニュメントが見える。それを通過すると下り坂になり、車とバスの合間を縫いながら私を連れて行った。特に予期していた訳ではないけど、バイクの方が小回りが効くから着くまでの時間は早い。おまけに風とか街の雰囲気とかを感じることができる。車内から窓を開けて眺めるのとは伝わり方がはっきり違う。ちょうど花火を直接みると体に鮮明に響くような感覚に似ている。だから私は車よりバイクを選んでしまう。きっとバイクが好きなんだと思う。
目的地のバングラ通りが近づくに連れて、だんだんと人と明かりの数が増えていく。「パトンビーチ」と青いライトで装飾された門が見えるところで降ろしてもらった。ふとクアラルンプールのドミトリーで会ったシンガポールの大学生が「パトンはカオスだよ。うるさくてどうしようもない」と言っていたことを思い出す。人だかり、鳴り響く音楽、ネオンライト。確かにここは歓楽街だ。お腹が空いていたので客引きに乗っかってレストランに入り、タイガービールを片手にパッタイという麺料理を啜る。本当はレモンが欲しかったけど、混み合う店内で店員が忙しない感じだったので許容した。
食事を終えてさらに歩いてみた。歩行者全員が酔っていそうな酒池肉林のバングラ通りを歩き進むと目当てのパトンビーチが見えてきた。人の数と波の音が酔い覚ましにちょうどいい。気球みたいな仕組みのランタンと星が夜空でキラキラしている。気分が良いのでビーチを右手にしながら端っこまで歩いてみた。30分くらい歩くとビーチが終わったので今度は車道を歩きながら元いた場所まで戻る。戻る途中、2軒ほど「ウィード、カンナビス」と書かれている店の前を通った。店内は少しエロティックな雰囲気のカフェのようだった。どうやら大麻を楽しむ場所のようで、何人かの欧米人が店内に居座っていた。「日本では見ることのない空間でこれも海外らしさだな」と思いながら、汗だくになった体を潤すために見慣れたスターバックスに入った。
夜のパトンビーチ、空で光っているのはランタンと月
翌日、宿を空港近くに移した。旧市街のドミトリーでチェックアウトするときに鍵と名前の入ったチャームをもらった。こういう気遣いがドミトリーであるなんて驚きで何となくほっこりした気分で旧市街を後にした。空港までは意外と距離があって、車で40分くらいかかる。空港近くのドミトリーでチェックインするとSAPPOROという部屋に通された。オーナーが日本が好きらしく、部屋の名前は全て日本の地名だ。受付の少年も日本の漫画が好きらしく、ずっとスラムダンクの話をしていた。ちなみにスラムダンクの主人公は桜木という苗字なのだが、おそらくこの少年と私では「桜木」という名前から受ける印象は多分違うのだろうなと思う。そもそも桜なんてプーケットに咲くのだろうか。そんな意味のない疑問を浮かべながら次のビーチに行くことにした。
マイカオビーチは滑走路が隣接していて、着陸する飛行機を間近で見ることができるビーチだ。もちろん離陸する時はエンジンによって引き起こされる強風でビーチの物が吹き飛ぶ。危険と書いてはあるが、怖いもの感じたさにみんな滑走路の柵に近づいて離陸を楽しむらしい。直線的には歩いて行けそうな場所なのに空港が広がっているため迂回して行かなくてはならず、またGrabした。ある程度のところまでは連れて来てもらったが、地図で見る限り目的地のだいぶ手前で降ろされてしまったらしく歩くことになってしまった。ビーチまで行く間、松のような木の隙間から遠くに飛行機が見える。発着便の時間にピークがあるらしく、早く行かなきゃと足取りはそのままに気持ちだけが焦る。
ようやく到着したビーチはダナンのように真っ直ぐな海岸で、人数はぼちぼち、そして圧倒的に綺麗な海が広がっていた。なだれ込むように汗だくの体を海に沈めた。マイカオビーチの砂浜は少し急な角度をしていた。なだらかなグラデーションのように砂と海が混じるのではなく、どちらかというとコントラストがついている感じだ。ぷかぷかと浮かびながら空を眺めていると飛行機が横切っていく。少し滑走路から離れれば、私と紫色したクラゲしか泳いでいないプライベートビーチだ。瞑想を2時間くらいしてから、元きた道を戻る。歩いているとタイ人のおっちゃんが話しかけてきた。「タイのマリファナ、最高、素敵、どう?」と日本語だ。「いらない、いらない」とあしらうと、少し粘られてからどこかに消えていった。タイには大麻が溢れているらしい。大麻とかマリファナと聞いてもヤバそうくらいにしか思っていなかったので、少し調べてみることにした。
マイカオビーチと飛行機
日本での大麻の扱いは現在大麻取締法という法律の第三条で「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない」とされている。日本での使用は治験に留まっていたが令和5年12月13日から大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律が公布*1されたことにより大麻から製造された医薬品の施用、交付、受施用の禁止規定が削除され、大麻及びその有害成分であるテトラヒドロカンナビオール(THC)を麻薬とした1)2)。
これによりモルヒネなどの麻薬と同様に大麻由来の医薬品も医師は今後、処方可能になる。ちなみに麻薬由来の医薬品の具体例としては難治性てんかんに用いるエピディオレックス®や多発性硬化症のサティベックス®などがあり、今後はこれらの薬が医療現場にも出てくることになるだろう。さらに今までは使用罪という罪がなかったが麻薬の扱いになったことにより使用した場合は7年以下の懲役が科されるようになったらしい。
一方のタイはどのような状態かというと、2018年に医薬品としての大麻を解禁し、2022年には娯楽目的の使用も容認した。これにより大麻関連製品を取り扱う店舗が数万店に増加したらしく、タイの大麻市場は1700億円に達するらしい3)。解禁によりタイにおける大麻中毒者は4倍近くに増えた4)。これによって政府は再度娯楽目的の使用を制限する方針になっているとのことだ5)。確かにプーケットみたいな楽園であれば、こうしたドラッグの流通は顕著なのかもしれない。でもビーチ沿いまで大麻の商人がいるとは驚きで、数字だけでは見えにくい事実を体感した気分だった。
パトンビーチの大麻屋
宿に戻ってきて、シャワーを少し浴びる。そしてエアコンをガンガンにつけて涼む。海に入っているからそこまで気にならないが、それでもプーケットの気温は34℃と高い。汗を流してさっぱりしたくなる。一度、体をクールダウンするとまた活動欲が湧いてきて、どこに行こうか考えて始める。「そうだ、夕陽を観にいこう」と思い立ち、パッタイを食べてからGrabを呼んだ。日没までの時間と予定到着時間が一致していることに気がつき、運転手に「急げるか?夕陽が観たいんだ。」と自分勝手な注文をする。運転手は「OK」と一言だけ告げてバイクを走らせてくれて、なんとか間に合った。運転手と握手をしてから足早にビーチへ向かう。ナイヤンビーチに着くとインド洋の縁海であるアンダマン海に日が沈んでいくところであった。何人もの人がビーチに腰掛け、動画をとったり黄昏たりしていた。私も倣う。こんなにしっかりと日没を見るのはいつぶりかと思う。ただその様子を眺めて、日が海に沈んだその後も、オレンジと紫と青が混じり辺りを暗くも明るくもしている。波の音はいつもと変わらず心を癒すBGMになっていた。
ナイヤンビーチの夕陽
更新は毎月第2、4(金)12時、次回は8月23日、内容はラオスの古都、ルアンプラバーン編になります。次回もお楽しみに!
執筆:溝江 篤
編集:神野真実、半澤仁美
【参考文献】
1)大麻取締法 | e-Gov 法令検索. (n.d.). Retrieved August 5, 2024, from https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000124
2)厚生労働省医薬局 監視指導・麻薬対策課. (2024). 大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法 律の成立について 厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会 資料1-1. https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001206962.pdf
3)比呂田弥次郎. (n.d.). タイで爆発的に増えている大麻販売所、その想像を超える経済効果 いま、世界で見直されている「大麻」と、合法化という潮流(1/7) | JBpress (ジェイビープレス). 2024. Retrieved August 5, 2024, from https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79847
4)タイの大麻中毒者4倍に 解禁後半年、政権内に亀裂 – 日本経済新聞. (n.d.). 2023. Retrieved August 5, 2024, from https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS153B80V11C22A2000000/
5)Panu, W., & Panarat, T. (n.d.). タイ首相、大麻を年内に規制薬物指定する方針表明 解禁から2年 | ロイター. 2024. Retrieved August 5, 2024, from https://jp.reuters.com/world/55RJ7CWYZNNPBNOS2S7KZNO6PA-2024-05-09/
【注釈】
*1 法律改正などがあった場合には公布と施行の2つがあります。公布は法律が変わったことを広める段階で、その後に施行され実行力を持ちます。施行は公布された日から1年を超えない範囲で行われます。ちなみに大麻取締法は2023年12月13日に公布されました。
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