2024/05/10/金
寄稿:白衣のバックパッカー放浪記
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https://mediva.co.jp/report/backpacker/13881/
目次
ハワイという単語ほど日本人をウキウキした気分にさせる言葉もないのではないだろうか。
青く綺麗に伸びる海と砂浜、
陽の光をめいっぱい吸収するヤシの木、
マンゴー、パイナップル、ココナッツ、
後はカクテルとフライドポテト。
どれか1つは連想させ、人を浮かれさせる。
私たちの住むアジア圏内には「東洋のハワイ」と呼ばれる場所がいくつもある。日本の指宿温泉、韓国の済州、中国の海南、そして私が今回来たベトナムのダナンだ。南北に伸びる国のちょうど中間に位置し、ホイアンというランタンで有名な町と併せて東南アジア有数のリゾート地となっている。実は日本のお隣の韓国ではダナンが人気の観光都市となっており、街の看板には韓国語が必ずといっていいほど書かれている。そもそもベトナムへの観光客は韓国人が多いらしく、レストランでもキムチが出てきたりもする1)。日本語はもちろんない。まだダナンは日本人にとってハワイほど有名ではなさそうだ。
なぜ私がここに来たかというとベトナムに住む友人の和と合流して、のんびりと過ごすためだった。一瞬気持ちにブレーキがかかったように「バックパッカーの旅路にリゾートが入るのって、何だか楽していないか」とも思えた。しかし海が好きな私としては、写真でみた真っ直ぐに伸びるビーチを味わいたかったし、物価も安くて治安もいいベトナムのリゾートなら行かない理由がないのではと心がクリープし、最後には10年来の友人と海外で現地集合して時間を過ごすことを想像してアクセル全開となった。
周りくどく言語化するとこのような表現になるのだが、単にリゾートで友人とウキウキしたかったというのが本音だ。やはりハワイという単語の威力は凄まじく、羽があれば飛んでいただろう。
ホテルには待ち合わせの2時間も前についてしまったので、先にチェックインをした。スタッフは20代、大学生くらいにも見える年齢のベトナム人達だ。話してみて驚いた。英語が堪能で、さらに要点の説明が上手でホスピタリティがあったからだ。しかも、とてもきびきび動いてくれる。ベトナムは香港、マカオより確実に英語が通じやすい印象だ。観光客がたくさんきているからか、コミュニケーションを取る時には英語を使わざるを得ない。あるいは話せる人を雇っているのか、雇われてから練習するのか、いずれにせよスラスラと話していた。
集合時間になったのでフロントまでいくと和がタクシーから出るところだった。アイアンマンレースの練習のための自転車をトランクから取り出している最中だった。2週間後にレースがあるらしく、そのトレーニングをダナンでするためにホーチミンから空輸してきていた。どうやら朝4時から50km自転車に乗るらしい。私としてはその時点でアイアンマンなのだが、さらに走って泳ぐらしいのでアイアンで済ませていいのか分からないくらいハードなイベントだ。私がやれば社会復帰できなくなるだろう。
ただ、そんな私でも道を挟んで向こう側に広がるミーケビーチ沿いを観ながらサイクリングするのは気分がとてもいいだろうなと思った。和が到着するまでの空き時間で少しビーチ沿いを歩いたのだが、本当に綺麗なビーチだった。白砂と水平線が九十九里浜のように真っ直ぐ長く伸びている。海は透明で海岸の左手にはソンチャー半島の山々があり、ダイアモンドヘッドのような景色になっている。ハワイとの違いはその山に白い観音様が聳えていることだ。あの場所が教会であったなら、ここがどこなのか分からなくなりそうだ。
ミーケビーチとソンチャー半島とカフェのプール
和は開口一番に「私たちはどこにいても会えますね」と言葉を発した。私は社会人になるまで海外にほぼ行ったことがなかった。そんな私がこうして現地集合できているのは旅に小慣れてきた証拠かもしれない。私たちはまるで近所の公園で待ちあわせをするようにダナンで落ち合った。場所を問わずに友達に会えることは嬉しいことだ。
和が準備を終え、フロントで集合すると「カフェに行ってこの旅の作戦を立てて、まずホイアンに行っちゃいましょうか」と予想外の旅程。意外だったことを伝えると「近いですし、全体像を先に押さえちゃった方がいいですよ」と確かにそれもそうかと妙に納得した。カフェでおいしい浅煎りのコーヒーを飲んだあと、私たちは黄昏のホイアンに向かった。
ホイアンは世界遺産に選ばれている古都で、日本が江戸時代に鎖国するまでたくさんの日本人が住んでいた国際貿易港だ。貿易中に中国のランタンが幸福を呼ぶということで家に飾る文化が広がり、夜になるとランタンの灯りが街を照らす。街の中心にはトゥボン川が穏やかに流れ、その上を小舟が何艘も行き交う。なんとも幻想的な町である。ランタンが明かりを灯すにはまだ早い時間だったので私たちはホイアンの近くにあるレストランに入った。
私たちはマグロのパッションフルーツソースとロゼワインを飲んだ。東南アジアで食事をしているとトロピカルフルーツと意外な組み合わせの料理がたまに出てくる。「マンゴーと餅米」とか、「パイナップルとチャーハン」とか。でもどれも美味しいと感じてしまう。
さらにホイアンに住んでいるという西洋人が隣の席で飲んでいたロゼが美味しそうだったので私たちもロゼワインを注文して口に含んでみる。口の中でパッションフルーツと謎のクリームとマグロとロゼが混ざり合って説明不可能な味だ。強いて書くとすると「美味」と言う言葉になると思う。私は少し酔って気持ちが良くなって、すぐそこにあるホイアンに辿り着くことがとても難しいことのように思えた。
食事を終えると私たちはホイアンへと向かった。辺りは暗くなっていて、町の中心地に近づくにつれてランタンの数が増えていく。小道を抜けると開けた場所にでてトゥボン川が流れる場所にたどり着いた。パブのような店が並ぶ川岸に無数のランタンが飾られている。川の水面にも色とりどりのランタンの灯が反射してネオンサインのように輝いていた。私たちは気づけばまたバーに入ってお酒を飲んでいた。
ホイアンの町とトゥボン川
私たちは3泊4日のダナン・ホイアンの旅行で常にコーヒーか酒を積極的に飲んでいたように思う。そしていろんなことを話した。よく分からないけど、一生懸命ビーチで砂の山を作ったりもした。なんとなく優雅で、気持ちが安らぐ感じがあった。リゾートに来ると心が回復するのかもしれない。
少し調べてみると世界ウェルネス機構が作成したグローバルウェルネスエコノミーモニタリングという報告書の中で「ウェルネスツーリズム」という言葉を見つけた2)3)。なんとなくスパとかヨガと断食とをやるために旅にいくことをイメージするが単にそうではなく、旅行や仕事の際についでに自分がいい状態*1であることを積極的に目指すものも含まれる。
定義は「個人のウェルビーイングを維持または強化することの追求に関連する旅行」とされていて、市場規模は2022年で6500億米ドルで2027年までの年平均成長率は16.6%と推定されている拡大産業のようだ4)。非日常すぎる金額で全くイメージが湧かないし、定義もかなり広い。ウェルネス自体は受動的なものではなく、身体だけでなく心などの健康を目指して活動やライフスタイルを積極的に「追求する」ことということは明確に記載されていた。
多分私は心を健康な状態にしたくて積極的にダナンというリゾートに来たのだろう。年齢や状態によっても人の健康観は変わると思うけど、今の私にとってはこの体験が自分のウェルビーイングを維持、強化するための旅なのだと思う。そう、これもある意味ウェルネスツーリズムだったのではないかと。少しこじつけ感はあるが。
ともあれ、バックパッカーがリゾートにくることもまた放浪の醍醐味だと感じる。この先いくつもドミトリーを回るがベトナムに行ったバックパッカー達はほぼダナンに行っていた。バックパッカーは自分が行きたいと思う場所、綺麗なところで自分を癒したいという欲、思うままに移動すればいいのだ。もし海外で体と心を癒したいとい方がいれば、ぜひダナンを選択肢に入れてみて欲しい。ミーケビーチで海岸線を歩いたあと、ホイアンの灯に誘われて一杯飲んでみてはいかがだろうか。
更新は毎月第2、4(金)12時、次回は5月24日になります。
次回はあの動物と戦うお話。次回もお楽しみに!
【注釈】
※1 ウェルビーイングをかなり大まかに解釈した表現となります。
【参考文献】
執筆:溝江 篤
編集:神野真実、半澤仁美
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