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2024/09/06/金

コラム

仕事がうまくいく「お願い」の技法について考えてみました。

人事ブログのテーマについて相談する中で、採用チームから「(上手くいく)お願いの技法」について書いてほしいという要望をもらいました。

仕事の中ではよく「お願い」をする場面が出てきますし、お願いの成否が仕事の成否に関わることも多いように思います。さらに、お願いに絡んで起きる”良い思い”・”嫌な思い”が仕事のやりがいや楽しさにも関わっているように思います。

ともかく「お願いはどうすればよいのか?」について疑問を持つことは納得できます。

もらった要望にあるようにお願いには「技法」というものがあるのだろうか?と疑問にも思います。技法というのは、誰がやっても上手くいく、再現性のある技術、テクニックといった意味でしょう。お願いについて考えていく中で、その疑問にも答えが得られたら良いと思います。

【そもそも仕事のお願いはなぜ必要なのか?】

ーまずは仕事における普通の「お願い」の場面を想定するー

「お願い」について考えるにあたっては、誰が誰にどんな状況で何をお願いすることを想定するかを定めた方が良いと思い、ここでは考え易いように、仕事においてごく普通に発生する場合を想定します。すなわち、

・誰から:上司から
・誰に: 仕事のライン上にいる社員に
・状況は:通常のルーチン業務から少し外れることが必要となった状況で
・何を :定型業務ではなく、考えて企画、計画して状況に応じて対応する必要がある事項

ということです。
仕事なんだから、お願いじゃなくて「指示」とかじゃないの?と違和感を持つ方もいるかもしれませんが、お願いというニュアンスを感じにくいので、敢えて深く考えていないかもしれない(それでいて成否が明確である)仕事上の依頼について突き詰めてみることで、お願いの本質が見えるかもしれない、という考えもあります。

ーお願いの必要性ー

そもそも仕事の中で、お願い(依頼)はなぜ必要なのでしょうか?
最低限の答えとしては、

・会社として必要な仕事をこなすために、組織メンバーに仕事を割り振る必要があるから、
ということだと思います。

しかし、よほど細部までマニュアル化できるような定型的、固定的な仕事でない限り、仕事をただ割り振るだけでは足りないと思います。仕事を行うのが人間であるということと、価値の高い仕事には考えて知恵を出しつつ非定型な対応が必要となること、などを考えると、お願いの必要性は上記に加えて、

・担当する業務に対して、組織メンバーが能力を使って工夫をして価値ある成果を出すこと
ということになると思います。

では、そのためにどのようにすれば良いのでしょうか?
メンバーが能力を使って工夫をする、という場面を考えると、
目指すべき成果は分かっているけど、それを達成する方法がまだ分からない、という場面を想定するべきだと思われます。

ーお願いが満たすべき最低限の要件(レベル1)ー

そこで最低限の要件として必要となるのが、

1.何を達成する必要があるのか?
2.そのために既に決まっていること(方法や締切、使える・使うべきリソース)
3.やる人(お願いする相手)が能力を用いて考え、探り出し、達成する必要がある部分
4.予想される課題や難しさ
5.使えそうな情報やヒント
  (それについて知っていそうな人、使えそうな事例や方法論など)

というあたりでしょうか。

この順番は、ベーシックで土台になるものを先に書きましたが、お願いの難しさを考えた時に重要なのは3ではないかと思います。

一般的には2のあたりに目が行きがちかもしれませんが、私は仕事の上で本当の価値を生み出すことを考えると、3を除いた部分だけでは「当初できると想定した範囲での価値」しか出ない、あるいは一馬力(一人だけの頭の範囲)での価値しか出せないと思います。

昔、経営の神様・松下幸之助さんが部下の人に「僕が言った通りやるんやったら、君がいる意味がないわ」ということを言われたそうです。部下の知恵や努力を引き出すことで会社としての価値を高め、さらに部下の成長を促すという意味があったのではないかと思います。この言葉を聞いて本当にそうだなと感銘を受けました。

お願いしている相手にどんな能力を発揮して、どこに向かって頑張ってほしいかを明示し、それが1を満たしているか?をチェックしながら試行錯誤を繰り返していくことで、目指すことを達成できる可能性が高まるものだと思います。

ーより能力を引き出すための要件(レベル2)ー

形としては、ここまで書いたことで仕事上のお願いは成り立ちそうですが、実はまだまだ足りないと思います。仕事の中で上司から渡された業務はやるのが当たり前かもしれませんが、それで充分に力が出るでしょうか?

普通の力はそれで出るかもしれませんが、人は機械ではないので、それほど単純ではないと私は思います。
人が普通の範囲を超えて力を出せる状況は、それをやることが、

1.自分にとって意味がある
2.会社にとって、会社の誰かにとって意味がある
3.お客さんやその先の社会にとって意味がある

と思えるときではないでしょうか。これは「より力を出すための要件」という感じです。

ですから、それをやることにどんな意味があるのか、誰にとっての何に繋がるのか?ということを明示することが非常に重要だと思います。ここで一番重要なのはやはり1だと思います。

1はさらに、いくつかに分解できるはずです。ざっと考えると、

A 会社の制度の中(評価や処遇)の中での意味
B 自分の成長につながる意味
C 自分の気持ちにとっての意味

などでしょうか。

Aは、お願いのたびに言葉にするというよりは、評価制度や評価者に対する信頼の部分が大きいと思いますが、もし業務をするにあたって、そこに疑念があって払拭する必要がある場合は説明する必要があり、そのあたりに敏感になることが重要だと思います。

Bについても、その業務が長い目で見た時に何が成長につながるかを理解するには、それなりの経験の長さや、さまざまな人の成長を見ることが必要だと思います。もし、相手が目の前の分かりやすい成長に囚われすぎているようであれば、上司としては説明が必要になると思います。

Cについては、気持ちよく仕事に打ち込めるかどうか?というところで、たとえばその業務が好きで得意な人であれば、問題ありませんが、そうでない場合には頑張るためには励ましが必要であったり、「あなたに助けてもらいたい」と頼りにされることで気持ちがその業務に向かっていくことができたり、といったことです。

「より意味を感じることで集中して能力を発揮できるよう心を配る」という話を上にしましたが、実はこれらに気を遣っていなければ、逆にやる気を無くさせてしまうリスクがあることも理解しておくことが重要です。

【応用問題:上司→部下の関係でない場合】

ここまで、上司から部下への「お願い」の場合を考えてきましたが、仕事の中では以下のようなお願いの場面もありますので、応用問題として考えてみます。

・直接の上司ではないが上のポジションの人から
・先輩から後輩
・同僚同士の間
・部下から上司へ

このような場合はどう考えれば良いでしょうか?

基本的な骨格は同じですが、上司から部下のように職務として正当に依頼される場合と違って、これらにはお願いされる側が「なぜ自分がお願いされなければならないのか?」という正当性に対して納得するプロセスが必要です。

もちろん、会社として正当なプロセスを踏んでいることは前提としての話で、その上での納得の話です。
例えば、他部署のマネージャからの依頼であれば、上司への話は通っているという上での納得ということです。その場合には、上に説明した中での

・レベル1の1、2、3(なぜやる必要があるか+前提条件)
・レベル2の全般、特にCの部分(本人の気持ちの部分)

について注意を払う必要がより重くなると思います。

レベル1の1、2、3について言えば、何をどのように達成するのか?どのように、の中身についても既に決まっている、合意できているものと、これから探っていく必要のある内容について、どうやって決めていくのか?

職務上の責任や上下関係などが関係ない場合には、中身について根拠のある議論をして考えて合意していく必要があります。

何をどうするのか?について、上下関係がない場合には、単に自分がそう思うからということをぶつけ合っても不毛な水掛け論となる可能性が高く、なぜそうなるのか?という理由や、根拠を示しながらお互いに正しい方法を探っていくプロセスを踏む必要があります。

本来は上下関係があっても同じで、大事なのは中身をどうやって詰めていくかということなのですが、残念ながら世の中を見渡せば、純粋な中身ではなく上下関係に影響されて純粋な議論が行われずに”スムーズに”物事が決定されてしまうことが多いとか感じます。

それはともかく、上下関係の枠が嵌められていない場合にも、中身について正しい議論が行われないリスクが多く、ここはお互いに強い意識を持つことが望ましいと思います。

もうひとつの注意ポイントはレベル2のC、気持ちに対する配慮です。

スタート地点で「なんで自分がやるの?」というモヤモヤがあるわけですから、少しでもやりたい気持ち、やる意味を感じるところを高めることがお願いの中には求められます。

例えば、本当に苦し紛れのお願いで、相手の好意にすがるしかない場合、正当な納得は何も得られない場合でも「助けて欲しい」、「ありがとう」とか「お願いします」というたった一言があるかないかによって人の気持ちは変わってくるものだと思います。

会社での仕事という想定からは外れますが、非営利の団体でなかなか参加者が目標に向かって気持ちを揃えるのが難しい、という悩みを何度も聞いた経験があります。これらの場合も、上下関係や職務権限という枠が嵌まっていないことが背景にあると思いますので、同様の配慮をかなり強く行わなければ上手くいかないのだと思っています。

最後に上げた「部下から上司」の場合ですが、まず基本は同じだと思います。担当している仕事がうまくいくために必要なことをお願いするとか、より良い結果を得るために提案してOKをもらいたいといった場合など、部下から上司へ正当に依頼することは普通にあることです。背景や何のために何を依頼したいのかを明示することが重要で、それによってスムーズに進むのがあるべき形だと思います。

ただ、現実としては上司にお願いするときに、難しさを感じるということもよく耳にします。これは上司の感じ方や会社のカルチャーによる難しさだと思います。「部下から上司に何かを依頼するものではない」と決めつけていたり、部下から上司へ意見を表明すること、もしくは質問をするだけでも「反抗」といった受け止め方をする人や組織は存在します。このような場合にはどうすれば良いでしょうか?

最終的に言えば、その受け止め方やカルチャーが変わらないのであれば、そのような会社、上司の元からは離れた方が良いと思いますが、せっかく入った会社、組織において得られるものがまだあるとか、まだ状況が良くなる可能性を捨てきれないという仮定で、それでもお願いがうまくいく可能性を少しでも高くするにはどうすれば良いかを考えてみます。

まず、上記のように上司からネガティブな受け止められ方をする要因を見極め、さらに、それに対して出来るだけ曲解されないような方法を考えてみます。

ネガティブに受け止められる要因としては、

・上司が決めたことに対して非難、批判をしている
・上司のこれまでの仕事に対する否定の表明である
・職場や業務の現状に対する不満の表明である
・検討が不足している内容で、目先の不服に止まっている

といったことでしょうか。


物事や状況の良し悪しを通じて、個人に対する攻撃、否定などと解釈されていたり、不満が表明されると受け止められるようなことだと思います。

これに対してどんな対処をすればうまくいくのでしょうか?

・人や過去の実績に対する否定ではなく、現状よりも良くなる方法を考えていることを明示
・上司に対する助力であるという位置付けをとる(情報提供、アイディア提案、検討結果の提供など)
・自分に関する範囲、目の前のことだけでなく、全体が上手くいくように広く、深い提案を行う
、、このような感じでしょうか。

もう一つ、違った視点で表現をすれば、
・人に対峙するのではなく物事に対峙する
・過去ではなく未来を考える
・良し悪しの判断ではなく結果を出すために思考・行動する
・意見の対立ではなく共同で検討・アウトプットする
・批判でなくサポートする、方法を考える

といったことも思います。

ただし、上司に何かを依頼、提案するときにこういった事に頭を使うかどうかは、あくまでもご自身にとってそうした方が良いと思う背景があれば、ということだと思っています。そこまで気を遣わなければ、上司に依頼、提案ができなくて、それが自分にとってさしたる意味もないのであれば、やはり離れることを考えた方が良いということを再度補足しておきます。

以上が「お願い」について、どうすれば上手くいくのかについて私が考えた内容です。

振り返ると、これは技術、技法というよりは人間が能力を発揮するための原理と、そのための環境設定についての考察だろうと思います。

それを踏まえて、どのような場合の「お願い」なのかをパターン分けしていけば、より具体的な「技法」まで落とし込むことができるかもしれません。ですから、お願いに技法があるのか?という問いに対しての答えはYESであろうと思います。

私自身の好みを言わせてもらえば、人間が仕事をすることにまつわる原理について考えることは大事だと思いますが、それを技法まで落とし込むと、物事がつまらなくなってしまったり、細部に渡ってピッタリな方法が考えられなくなると思います。目先のパターンが変わろうとも根本は変わらない原理をしっかり押さえつつ、目先のパターンに対応すべく知恵を絞るのが仕事の面白さなのではないか?と今回の原稿を書きながら思った次第です。(岩崎克治)

筆者プロフィール
岩崎克治 Katsuji Iwasaki 株式会社メディヴァ取締役
大阪大学大学院 情報工学分野 修士課程修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て、1997年に(株)インクス入社。ITによる高速金型事業の立上げ、クライアント企業の製品開発プロセス改革等に従事。2002年メディヴァに参画。

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