面接ではその方の強いところ・弱いところをお聞きすることがよくありますし、自己アピールとして強みをお話しされる方もおられます。その中で、「コミュニケーション能力が強み」という話がよく出ます。

　私は元々「コミュニケーション能力とは何か？」をそれほど意識していなかったので、その中身について質問したり、お話しの中で感じとろうとしました。その結果、多くの方が言われる「コミュニケーション能力」の中身は以下のようなものであると理解しました。

　・誰とでも/初対面の人とも人見知りせず/フレンドリーに会話ができる
　・多くの人の前で物怖じせずに話せる
　・自分の主張を強めに押し出すことができる
　・途切れずに流暢に話し続けることができる

　これらは、主に口頭でこちらが話す場面や、その時の状況が想定されており、話す内容よりも話し方・スタイルに言及されていることが多いように思います。聴くことに着目される方もおられますが、その場合は「傾聴力が高い」といった表現を使われる方が多いと感じます。

　上に列挙したようなことが不得意な方が多くおられると思いますので、それが出来ることが貴重であるとは思いつつですが、私の中には「コミュニケーション能力とは本当にそれらのことなのか？」何か違うのではないか、という疑問や違和感が湧き上がります。

　もちろん、どんな言葉であろうと解釈は個人の自由なので、「コミュニケーション能力」という言葉の正式な定義を主張しようというのではなく、一般に（特に仕事の場面で）「コミュニケーション」と言ったときに、その目的に照し合わせれば、コミュニケーション能力をどう捉えるのが有益なのか？という個人的な考えです。

私が思う、仕事の場面でのコミュニケーションの目的は、

　（１）こちらの伝えたい事実やアイディアを相手が正しく理解してくれること
　（２）考えた内容、提示されている事柄について賛同してくれること
　（３）意欲的に取り組む気持ちになってくれること

などであると思います。

そのために必要な能力を挙げると、

　【理解力・把握力】
　・テーマとなる内容を正しく理解する力
　・相手の知識レベル、馴染んでいる内容、関心事を理解する力
　・質問や対話を通じて相手の考え、気持ち、理解度を把握する力

　【内容を考える力】
　・伝える内容を正しく、分かりやすく整える力
　・目的、相手の状況、関心事、気持ちに則した内容を考える力
　・聴く人の気持ちを動かす内容を考える力

　【表現力・デリバリー力】
　・目的を果たすために適切な言葉や表現を選択する力
　・相手や状況に合わせたスピード、強さなどを選択する力
　・その場と目的に適切な表情、声の抑揚などを使って表現する力

といったことになるでしょうか。

私の持った違和感の中身は、
「流暢であることとコミュニケーションの成否にそれほど関係があるのだろうか？」とか、

「仮にぎこちない話し方であっても、つっかえながらであっても、中身次第では相手の心を捉えて動かせる場合もあるのではないか？」

などであったように思います。

　考えてみれば最初の部分で私が上げた「コミュニケーション能力」の中身は、場を和ませることや、誰かと親しくなることを目的としたものであり、内容としては、主に表現力・デリバリー力に着目しているように思います。目的の違いや、着目点の範囲が中身の違いにつながっている部分もありそうです。

　いずれにしても、どんなコミュニケーションであっても、目的を想定して、内容、状況、相手を理解し、適切な伝達内容を考え、適切にデリバリーする、という枠組みで捉えることが重要ではないかと思います。

　仕事においてもパーソナルな場面においても、コミュニケーションの重要性は言うまでもなく、仕事の成否を左右する場面も多くあると思われますので、目的を踏まえ、その能力を広く捉えてその力を磨くことが大切であることは確かです。

　多くの方が、目的を果たすためのコミュニケーション能力を高める視点を持ち、流暢にフレンドリーに話すのが苦手でも、やり方によっては成果を出せるのではないかと思うことが、何か良いことに繋がれば良いと思っています。（岩崎克治）

筆者プロフィール
岩崎克治　Katsuji Iwasaki　株式会社メディヴァ取締役
大阪大学大学院・情報工学分野　修士課程修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て、1997年に（株）インクス入社。ITによる高速金型事業の立上げ、クライアント企業の製品開発プロセス改革等に従事。2002年メディヴァに参画。

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