2016/02/28/日

医療・ヘルスケア事業の現場から

平成28年度診療報酬改定 在宅医療編

企業・行政コンサルティングチーム 荒木庸輔

 平成28年度診療報酬改定の答申が発表されました。在宅医療においては、外来応需の義務を負わない在宅医療専門の診療所の制度化や、患者の重症度、訪問回数に応じた医学管理料のさらなる細分化などが図られました。
 今回は診療報酬改定の概要について投稿させていただきます。

1.重症度や訪問回数に応じて医学管理料を細分化。居宅でも軽症者の多い医療機関は減収に

 今回の改定のポイントとしてはまず、これまで画一的だった医学管理料が、患者の居住場所だけでなく重症度や訪問回数によっても細分化されたことが挙げられます。
特定施設入居時等医学総合管理料は、施設入居時等医学総合管理料へ改名され、特定施設入居者と患者像が同じという理由から、新たにグループホームやサービス付高齢者向け住宅、特定施設以外の有料老人ホームが対象に追加されました。
さらに「同一建物居住者」は「単一建物診療患者の人数」となり、これまでの「同一日に訪問診療を行う人数」から「単一建物内で医学管理を行っている人数」へと定義が見直されました。これにより4月以降はこれまでの個別訪問によるより高い管理料の算定はできなくなります。
また、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料は、共に軽度者に対する月1回の訪問診療による点数が新設され、これまでの月2回の訪問診療の中でも患者の状態によって「別に定める状態の患者**」とそれ以外とに分かれました。その中でさらに、単一建物患者の人数(「1名の場合」、「2~9名の場合」、「その他の場合」)により切り分けられるという複雑なマトリクスとなりました。

【図表1.】

*ただし、在宅時医学総合管理料に限り、医学管理を行う患者数が当該建築物(マンション、団地等)の戸数の 10%以下の場合には単一建物診療患者が1人としてみなす。

**別に定める状態の患者【平成28年2月10日中医協答申より抜粋】
1.以下の疾病等に罹患している状態
末期の悪性腫瘍、スモン、難病の患者に対する医療等に関する方売り津に規定する指定難病、後天性免疫不全症候群、脊椎損傷、真皮を超える褥瘡
2. 以下の処置等を実施している状態
人口呼吸器の使用、気管切開の管理、気管カニューレの使用、ドレーンチューブ又は留置カテーテルの使用、人工肛門・人工膀胱の管理、在宅自己腹膜灌流、在宅血液透析、酸素療法、在宅中心静脈栄養法、在宅成分栄養経管栄養法、在宅自己導尿の実施、植え込み型脳・脊髄電気刺激装置による疼痛管理、携帯型精密輸液ポンプによるプロスタグランジンl2製剤の投与

個別点数をみると減算となった点数(オレンジ)自体は少ないことが分かりますが、在宅時医学総合管理料では重症度の高い「別に定める状態x単一建物1名」で400点上がったのに対して、最も対象患者の多いと思われる「別に定める状態以外x単一建物1名」がこれまでより400点下がりました。

平成26年度改定で一律に4分の1まで減算された施設入居時等医学総合管理料は点数こそ改善されましたが、個別訪問で高い点数を算定していた医療機関は減収となります。前述の通りグループホームや特定施設以外の有料老人ホーム等は今改定から施設入居時等医学総合管理料の対象となるため、減額の幅はさらに大きくなります。たとえば、機能強化型(病床なし)の医療機関があるグループホームの定員20名全員に対して、これまで個別訪問で高い管理料を算定していた場合、別に定める疾患の場合で約4割減(4,600点→2,640点)、別に定める疾患以外の場合で約4分の1(4,600点→1,300点)にまで減少することになります。

これらの改定内容を踏まえると、居宅でがん末期など重症者を中心に診療していた医療機関は増収となる一方で、軽症者を中心に診療していた医療機関は減収になることが予想されます。
施設中心の医療機関では、まとめて診療を行っていた医療機関は増収、個別訪問を行って高い管理料を算定していたところは減収、特にグループホームなどこれまで在医総管だった施設については大幅な減収が予想されます。  

2. 充実した緩和ケアを提供する医療機関をさらに評価

今回の改定では充実した緩和ケアを提供する医療機関に対する加算も設けられました。

新設された在宅緩和ケア充実診療所・病院加算では、機能強化型の在宅療養支援診療所の中で過去1年間の緊急往診件数15件以上、自宅看取り件数20件以上、PCA導入2件以上などの施設基準を満たした医療機関が評価の対象となりました。この加算は往診料やターミナル加算も対象となり、医学管理料においては「別に定める状態以外x単一建物患者1名」の減額分を相殺できるだけのインパクトがあります。オピオイド系鎮痛薬のPCA導入については、地域によっては注射麻薬を取り扱う薬局がないなどの課題もあり、今回の改定を期に、地域での取り組みが進むことが期待されます。

また、機能強化型以外の在宅療養支援診療所を対象とした在宅療養実績加算の算定要件にも「緩和ケア研修の修了」が盛り込まれるなど、在宅医療において緩和ケアを重視する傾向が伺えます。

3. 在宅医療専門の医療機関が新設。在宅患者比率0.95を境界にした医療機関の整理は全体に影響

今回の改定で最も注目されているのが「在宅医療専門の医療機関の新設とその全体への影響」です。

まず在宅患者比率*95%という新たな基準によって、在宅患者比率95%以上の場合は「在宅医療を専門とする在宅療養支援診療所」、95%未満の場合は「(新基準の)在宅療養支援診療所」と定義されました。
具体的には、在宅患者比率が95%以上の場合は自動的に「在宅医療を専門とする」と見なされ、機能強化型の要件に加えて、在宅患者全体に占める施設患者の割合が70%以下であること、要介護3以上又は「別に定める状態の患者」の割合が50%以上であることなど、厳しい施設基準の対象となります。
一方、施設基準を満たせない実質在宅専門の医療機関は措置期限の平成29年3月31日までに、下記の3つから対応を選択しなくてはなりません。
*在宅医療を提供した患者数/在宅医療及び外来医療を提供した患者数
(1)在宅専門の開設基準および施設基準を満たす
(2)外来を開始し、在宅患者比率を95%未満にする
(3)医学管理料の減算(20%)を受け入れる

在宅医療専門の施設基準は、居宅の重症者を中心に診療を行ってきた医療機関であれば不可能な水準ではないと考えられます。ただ、機能強化型以上の厳しい施設基準が求められながら診療報酬上の優遇はなく、点数は機能強化型と同等であることを考慮すると、外来診療をはじめて在宅患者比率を95%未満にし、在宅専門の定義から外れる方が医療機関にとっては負担が少なく済みそうです。在宅患者比率95%未満にするための外来患者数も実際にはそれほど多くありません。

【図表2.】

今後の疑義解釈で明らかになる在宅患者率の算出方法によっては、外来診療のための移転やその他の設備投資が検討されたり、在宅専門のクリニックの新規開業にあたっても一定の外来機能が想定されることが予想されます。在宅専門医療機関も一つの在り方ですが、在宅医が早期から地域の患者との関わりを持つことは、医療機関、患者双方にとってメリットがあります。今回の改定を期に、それぞれの医療機関の実情にあわせた外来診療のありかたを再考する価値はあるかもしれません。外来も行う在宅療養支援診療所が増えることは、地域医療の質向上に大きく貢献すると思われます。

【参考】
平成28年度診療報酬改定答申【中央社会保険医療協議会(平成28年2月10日)】

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◆在宅医療専門の在宅療養支援診療所

【開設基準】
(1) 無床診療所であること。
(2) 在宅医療を提供する地域をあらかじめ規定していること。
(3) 外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、地域医師会(歯科医療機関にあっては地域歯科医師会)から協力の同意を得ている又は(2)の地域内に協力医療機関を2か所以上確保していること。
(4) 規定した地域内において在宅医療を提供していること、在宅医療導入に係る相談に随時応じていること、及び医療機関の連絡先等を広く周知していること。
(5) 往診や訪問診療を求められた場合、医学的に正当な理由等なく断ることがないこと。
(6) 診療所において、患者・家族等からの相談に応じる設備・人員等の体制を整えていること。
(7) 緊急時を含め、随時連絡に応じる体制を整えていること。

【施設基準】
 診療所であって、現行の機能強化型の在宅療養支援診療所の施設基準に加え、以下の要件を満たしていること。
(1) 在宅医療を提供した患者数を、在宅医療及び外来医療を提供した患者の合計数で除した値が0.95 以上であること。
(2) 過去1年間に、5か所以上の保険医療機関から初診患者の診療情報提供を受けていること。
(3) 当該診療所において、過去1年間の在宅における看取りの実績を 20 件以上有していること又は重症小児の十分な診療実績(15 歳未満の超・準超重症児に対する総合的な医学管理の実績が過去1年間に 10 件以上)を有して いること。
(4) 施設入居時等医学総合管理料の算定件数を、施設入居時等医学総合管理料及び在宅時医学総合管理料の合計算定件数で除した値が0.7 以下であること。
(5) 在宅時医学総合管理料又は施設入居時等医学総合管理料を算定する患者 のうち、要介護3以上又は当該管理料の「別に定める状態の場合」に該当 する者の割合が50%以上であること。

◆在宅緩和ケア充実診療所・病院加算
【施設基準】
(1) 機能強化型の在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院の届出を行っていること。
(2) 過去 1 年間の緊急往診の実績を15件以上かつ在宅での看取りの実績を20件以上有すること
(3) 緩和ケア病棟又は在宅での1年間の看取り実績が 10件以上の保険医療機関において、3か月以上の勤務歴がある常勤の医師(在宅医療を担当する医師に限る。)がいること。
(4) 末期の悪性腫瘍等の患者であって、鎮痛剤の経口投与では疼痛が改善しないものに、患者が自ら注射によりオピオイド系鎮痛薬の注入を行う鎮痛療法を実施した実績を過去1年間に2件以上有すること。
(5) 「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針に準拠した緩和ケア研修会」又は「緩和ケアの基本教育のための都道府県指導者研修会等」を修了している常勤の医師がいること。
(6) 院内等において、過去 1 年間の看取り実績及び十分な緩和ケアが受けられる旨の掲示をするなど、患者に対して必要な情報提供がなされている。

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