2018/03/09/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

地域包括ケア病棟(病床)のベッドコントロールについて

コンサルティング事業部 コンサルタント 楠井寛和

はじめに

 地域包括ケア病棟(病床)の制度ができて約4年、病院の経営改善を図る上でよく検討されているのではないでしょうか。しかし、一般病棟や療養病棟とは異なるベッドコントロールが必要になると感じており、それについて書きたいと思います。

地域包括ケア病棟(病床)とは

 地域包括ケア病棟(病床)の役割・イメージについては下図のように定義されています。
 地域包括ケア病棟は急性期病院からの入院受入に加え、介護施設等からの緊急入院受入を行い、その後在宅復帰支援を行うことが求められています。急性期一般病棟と比べると、病院と介護施設、在宅との橋渡しをする役割を担っている病棟となっています。様々な入院ニーズ(軽症、バイタルチェックのみ、医療依存度が高い患者のレスパイト入院など)には柔軟に応えつつ、在宅復帰支援は強く実施していく病棟と考えるべきではないでしょうか。
また、地域包括ケア病棟は診療報酬制度上も一般病棟や療養病棟とはかなり異なっています

一般病棟との違い

・大部分の診療行為が包括範囲内。
・平均在院日数の施設基準要件はない。
・重症度、医療・看護必要度や在宅復帰率の施設基準要件も7対1一般病棟より緩やか。
重症度、医療・看護必要度 (7対1)25%→(包括1,2)10%
在宅復帰率 (7対1)75%→(包括1)70%
※H30年3月まで
・当病棟(病床)の患者は他病棟の施設基準要件(重症度、医療・看護必要度など)に含めなくて良い。
※7対1病棟などの基準を維持するために導入することも検討されることもある。
・入院料の算定上限日数(60日)があり、それを超えるとかなり低い単価(特別入院基本料)となる。
・リハビリを要する患者には1日2単位以上の提供が必要。

療養病棟との違い

・医療区分割合の施設基準要件がない。
・入院料の算定上限日数(60日)があり、それを超えるとかなり低い単価(特別入院基本料)となる。
・リハビリも包括範囲内。
・リハビリを要する患者には1日2単位以上の提供が必要。
まずは求められる役割に即して柔軟に運用することが当然に重要ですが、併せて診療報酬制度上の特徴にも留意する必要があります。

地域包括ケア病棟(病床)の稼働率を上げるために

 地域包括ケア病棟(病床)の稼働率を高めていくためには下記の入院ニーズに対応していくことが重要です。
1  自院内の急性期病棟からの転棟
2  他病院の急性期病棟からの転棟(転院)
3  介護施設等からの緊急入院受入

1  自院内の急性期病棟からの転棟

 自院内の急性期病棟から転棟を促すためにはどのような患者が対象になるか議論を深めることが不可欠です。ただし、患者に関する定性的な情報だけで議論しても、転棟という判断がなかなかできない事例が多いように感じています。
 ある病院では、地域包括ケア病棟の看護師長が他病棟患者の中から対象になりそうな方をピックアップしてその患者について週1回の判定会議で議論するという運用を行っていましたが、主治医から転棟を拒否されることも多くあり、稼働率が非常に低い状態となっていました。
 一方、別の病院では経営企画室の方が診療単価の面で対象になりそうな患者をスクリーニングし、看護師長や主治医と日々協議しながら転棟判定を行う運用とし、ほぼ満床の稼働を実現していました。

 地域包括ケア病棟の対象患者を明確に定義することは容易ではありませんが、定量的なデータでのスクリーニングによって議論の間口を広げる工夫はできるのではないでしょうか。

2  他病院の急性期病棟からの転棟(転院)

 他病院からの転棟(転院)についても、対象患者像は自院内病棟からの転棟とほぼ同様です。しかし、転院であるがために患者情報が分かりにくいという特徴があります。
 ある病院では、急性期病院からの紹介患者をまず一般病棟で受け、患者の状態を確認した上で地域包括ケア病棟への転棟などを検討する運用となっていました。この場合、急性期病院からすると一般病棟入院基本料7対1での在宅復帰先としてカウントできず、診療報酬改定の影響次第では紹介をされにくくなる可能性があります。また、別の病院では60日以上の長期入院になる可能性があるために受入を断らざるを得ない患者の紹介が少なからずありました。
 これらの事例から紹介の際に十分な情報を得られることや事前の症例カンファレンスなどで対象患者について事前に磨り合わせておくことが重要と考えられます。また、関係の深い退院先となるような施設があれば、長期入院になる患者を減らす事ができるかもしれません。このような活動を通じて紹介患者の100%受入れは不可能ですが、少なくとも今より多くの受入ができる可能性はあるのではないしょうか。

3  介護施設等からの緊急入院受入

 介護施設等からの緊急入院受入について、2018年度の診療報酬改定では200床未満で在宅医療や訪問系事業で一定数の実績がある病院を手厚く評価する改定がなされます。該当するような病院ではこれまで以上に直接入院を受け入れやすくなるのではないかと考えています。
 一方で、この経路は緊急入院となるため、迅速な主治医決定や時間外の入院対応など院内体制の充実が求められることになります。
実際、この経路での受入数は全国的に見ても少なくなっています。しかし、患者の高齢化が進むに連れて、最も需要が大きくなるのはこの部分ではないでしょうか。
 もし地域の中に、軽症の緊急入院を受入れてくれる病院がなければ、夜に肺炎による発熱などが現れた患者は朝まで十分な治療を受けられませんし、そのような患者が高度急性期機能を有する病院に殺到すればそのような病院の医師・看護師が疲弊することにつながります。地域包括ケア病棟を持つ病院にとっても、この経路の受入が十分にできれば競合する病院と大きな差別化になる可能性があります。
 なお、診療報酬改定後の地域包括ケア病棟1の主な要件は下記の通りです。
・自宅等(自宅、介護医療院、特養、軽費老人ホーム、グループホーム、有料老人ホーム等)から入棟した患者が10%以上、かつ緊急入院患者が3ヶ月で3人以上
・在宅復帰率が70%以上(※今回から院内の在宅復帰型の療養病棟や老健への退院が含まれなくなりました)
・在宅医療や訪問看護、介護に関する4つの要件のうち2つ以上
これらの要件は在宅医療の提供、入院から在宅への移行、在宅医療を支えるバックベッドに関連する内容です。
 普段は訪問診療や訪問看護を提供し、登録患者が急変した際には地域包括ケア病棟で受入れるという運用で上記の要件を満たせることが最も望ましいのではないかと思います。そのような運用が実現できれば、調整に労力を要する緊急入院でも明確にルールを設定することができます。また、入退院をくり返す患者や患者家族にとっても、よく知る職員の看護を受けられるので大きな安心に繋がるのではないでしょうか。

地域包括ケア病棟(病床)のベッドコントロールで重要なこと

 個別には様々な注意が必要となる地域包括ケア病棟(病床)のベッドコントロールですが、最も重要なことは院内および院外のコミュニケーションを円滑にすることではないかと考えています。
 1~3の経路に対応するには、主治医・病棟管理者・事務職員・リハビリ・地域連携室・当直職員、さらに他病院の医師・地域連携室・介護施設職員など多くの関係者がコミュニケーションを取ることが必要になります。どなたに置かれましても日々の業務で非常に忙しくされているとは思いますが、今一度コミュニケーションを少しずつでも改善することに着目されてはいかがでしょうか。

執筆者:楠井寛和 │ Hirokazu KUSUI
三重県出身。東京工業大学理学部卒業。病院建替えを中心とする医療コンサルティング会社に入社し、基本構想、基本計画、事業収支計画、運営計画の策定支援等に携わる。医療・介護における日常活動の改善に寄与したいと考え、メディヴァに入社。以降は事業DD、経営モニタリング、経営改善の現場支援などに従事。

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