2020/06/04/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

「クリニックの移転」 5つのポイント

コンサルタント
山本桂子
2012年8月20日初出
2020年5月31日追加

はじめに

開業する際、最低限必要な設備がそろっていれば十分と思って始められた先生が、クリニック開設から4~5年経つと、当初考えていたよりクリニックが手狭に感じられるようになることも多いようです。それは、クリニック経営がうまくいっているからこその悩みとも言えますが、新たな飛躍の方法の一つとして、次に検討されるのが、クリニックの移転です。今よりも少し広い、新しい物件を探すことになります。

患者さんが増え、二診体制にするために診察室がもう一つ必要になった。駅前にクリニック用のいい物件が出たので競合に入られるよりは、自分たちがそこに移りたい。駅の近くの患者さんの通いやすいところへ。ビル側の都合で立ち退きを求められた等、私たちは、さまざまな事情で、クリニック移転のお手伝いの依頼を受けてきました。
ご相談くださる先生の中には、すぐ現在の場所からすぐ近くへの移転なら、新しい賃貸借契約や内装工事の費用は仕方ないとして、それ以外に大した手間はかからないだろうと思われる方も多いようです。しかし着手してはじめて気づく細かい作業も多く、準備をきちんとしないと、大変面倒になることもあります。
株式会社メディヴァのコンサルタントとして、クリニック移転を何度かお手伝いしてきた経験から、移転の際に気をつける5つのポイントをお伝えします。

1 移転先選定時に留意すること

移転先を選定する際は、基本的には、今いる患者さんにそのまま引き続きご来院いただける場所を!と考えて探されると思います。今のクリニックより広い物件で、駅などから近くなって行きやすい場所で…、という視点で探されると思うのですが、意外な盲点が電話番号です。

近くへの引っ越しの場合、例えば同じ区内なら、今と同じ電話番号を引越し先でも利用できると思っている方も多いのではないでしょうか。たとえ同じ区内の目と鼻の先への引越しでも、引越し前と引越し後のNTTの収容局が異なれば、電話番号が変更となることがあります。電話番号が変更になっても、しばらくは変更案内をしてもらえますが、新しい番号を覚えていただき、登録を変更していただくのは、患者様にとって不便であることには変わりません。また以前通ってくださっていた患者さんが久しぶりにクリニックを訪れようとしたら影も形もなく、電話も通じない…では、申し訳ないですね。電話番号が変わるかどうかは、NTTに問い合わせれば教えてもらえます。物件探索の際に確認することをお勧めします。

2 新クリニック設計時の工夫

ずっと使ってきた受付の棚、診察室のドア…。作り付けだからとあきらめてしまうのはもったいないです。設計段階から相談すれば、それを新しいクリニックに生かして、内装設計していただくことも可能です。多少手間がかかるので、費用との兼ね合いにはなりますが、ごみを減らしてエコなクリニック移転を実施するためにも、検討してみてください。新しいクリニックの中に、以前から慣れ親しんだクリニックの匂いを感じることで、患者様もきっと安心されることでしょう。内装業者の方に事前にクリニックを見ていただき、どの家具がそのまま付け替えて使えるかご提案いただくといいですよ。

3 移転に伴う行政手続き

例えばすぐ隣のビルに引っ越すだけでも、保健所の手続きは、現クリニックの廃止と移転後のクリニックの新規開業になります。新規開業の手続きは、書類なども煩雑ですので、早めからの準備が大切です。新クリニックの図面ができた段階で保健所に相談に行き、その先のスケジュールについて確認してきてください。レントゲンを含めて検査の日程を早めに予約しておくことで、旧クリニックを閉めてから、新クリニックを開業するまでの休診期間を最短にすることができます。厚生局への届け出については、移転先が近隣でクリニックの継続性があることが認められれば、保険診療は遡及できるのでちょっと安心ですね。

4 住所変更の告知、連絡

移転は、気持ちの上で少し間遠になった患者さんや、まだ接点のない地元の方へ、クリニックをアピールするチャンスです。移転が近づくと、色々な雑務に忙殺されて、ついついおざなりな対応になりがちですが、移転のお知らせハガキや、告知チラシなどを新たな患者獲得の重要なツールと考えて、しっかり内容を検討して作成できるといいですね。
忘れがちなのがグーグル等のネットの地図情報サイトへの登録の変更です。忙しさのあまりクリニックのHPのアクセスページの変更を忘れていたという、笑えない話も聞いたことがありますので気を付けてください。税務署や社会保険庁などの行政機関、業者さんなどへの連絡もお忘れなく!

5 医療法人の移転

医療法人の場合、クリニック移転は定款の変更事項になります。定款変更手続きが必要になるわけですが、これが思いのほか時間がかかります。都道府県に定款変更の認可を申請し、認可が下りた時点で法務局に登記し、新しい登記事項証明書を添付して初めて、保健所に開設届を提出できます。
クリニックの移転による定款変更手続きの場合、新しいクリニックの事業計画等かなり精緻な資料の添付が求められますので、その作成にもそれなりの時間がかかります。移転先が決まったら、定款変更に必要な期間、登記の完了までの日程を計算した上で、移転の日を決定する必要があります。

最後に

クリニックの開業と違い、クリニックの移転は、通常の診察を行いながらの作業となりますので、その負担はかなりのものです。通ってくださっている患者様のことを考えれば、休診する期間は短ければ短いほどいいわけですから、時間と費用をいかに圧縮するか、綿密な計算が求められます。しかし、実際にクリニックを運営した経験、今の設備の長所・短所を踏まえて、より良いクリニックを作り上げるための、この上なく幸せな挑戦でもあります。

「うちもそろそろステップアップを検討しようかな」と思われた方がおられましたら、ぜひご相談ください。物件の探索から行政手続きまで、すべてをお手伝いさせていただくことが可能です。

関連記事: 第16回 「クリニック物件探索」
関連ページ: 株式会社メディヴァのコンサルティング実績

執筆者:山本桂子│Keiko Yamamoto
大阪府出身。大阪大学法学部卒業後、生保会社、シンクタンクにて業界調査及びコンサルティングの仕事に従事。出産を機に子育てと地域ボランティア活動に注力。夫の転勤で4年半インドネシア・ジャカルタで暮らす。帰国後、子育て情報誌の編集に携わり、取材で多くのドクター達の話を聞くなかで、母親達の医療に対する期待とドクター達の理想をうまくつなげたいと思うようになり(株)メディヴァに参画。
▼2020年5月追加▼
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