2024/02/28/水

診療報酬改定

2024年度介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定

執筆・江原/監修・取締役 小松大介

はじめに

2024年度介護報酬改定に伴う審議が厚生労働省から公表されました。
今回は2024年度介護報酬及び障害福祉サービス等報酬の改定ポイントを解説します。

介護報酬が医療機関に与える主な影響

2024年度の介護報酬改定では、地域包括ケアシステムの推進と医療機関との連携強化、特に協力医療機関の設定と役割強化、感染対策機能の強化といった医療的対応が掲載されています。
また、看取り対応や認知症対応などの個別事項の強化、医療・介護連携における情報共有の促進が求められます。
さらに、介護保険施設等でのICT利用や生産性向上策の評価進展が、医療機関にも参考とされる新たな仕組みとして導入されています。

介護報酬改定ポイント1:地域包括ケアシステムの深化・推進

  • 看取り対応、中山間地域、地域共生強化等に向けて居宅介護支援、訪問介護の特定事業所加算、定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の総合マネジメント体制加算の見直し
  • 【新設】専門性の高い看護師による訪問看護の評価
  • 老健の短期入所療養介護における総合医学管理加算の要件緩和(計画的もOK)
  • 訪問リハ、通所リハにおける退院時リハビリテーション計画書の受け取りの義務化
  • 特定施設入居者生活介護の入居継続支援加算の対象患者の拡充(尿道カテーテル留置、在宅酸素療法、インスリン注射)
  • 介護老人福祉施設(特養)の配置医師緊急時対応加算の適用時間拡充
  • 協力医療機関との連携体制構築義務化(特養、老健、介護医療院、特定施設、GH)
    緊急時相談・入院対応、医療体制常時確保、1年に1度のカンファ、再入所の円滑化
  • 看取り対応強化(老健、介護医療院、訪問看護、訪問入浴介護、居宅介護支援等)
  • 【新設】新興感染症発生時等に向けた第二種協定指定医療機関等との連携体制協力医療機関との感染対策連携、定期的な研修や指導を評価:高齢者施設等感染対策向上加算
  • 全サービスに対して、業務継続計画未策定減算、高齢者虐待防止措置未実施減算の設定
  • 認知症対応強化(小多機、看多機、GH、特養、老健、介護医療院)

介護報酬改定ポイント2:自立支援・重度化防止に向けた対応

  • リハビリテーションマネジメント加算におけるリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組の評価(通所リハ、介護医療院、老健、特養)
  • 通所リハビリテーションの事業所規模別基本報酬(大規模Ⅰ、Ⅱ)の見直し
  • 居宅療養管理指導の算定対象を「通院又は通所が困難な者」⇒「通院が困難な者」へ
  • 【新設】訪問系・短期入所系における口腔管理の評価(口腔連携強化加算)
  • 【新設】介護保険施設(特養、老健、介護医療院)からの退所時における栄養管理情報提供を評価(退所時栄養情報連携加算)
  • 通所介護、通所リハの入浴介助加算に対して研修の要件化や医師の遠隔指導も可
  • 老健の施設基準厳格化(入所前後訪問指導、退所前後訪問指導、支援相談員配置)
  • 科学的介護推進体制加算(ほぼ全サービス)、自立支援促進加算(特養、老健、介護医療院)の事務負担軽減
  • ADL維持等加算の厳格化(通所介護、特養、特定施設)
  • 排せつ支援加算の拡充(看多機、特養、老健、介護医療院)
  • 褥瘡マネジメント加算等の褥瘡再発なし⇒治癒(看多機、特養、老健、介護医療院)

介護報酬改定ポイント3:良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり

  • 介護職員等処遇改善加算の一本化(全サービス)
  • 質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会設置の義務付け
  • 【新設】見守り機器等テクノロジー導入評価:生産性向上推進体制加算(全サービス)
  • 特定施設における生産性向上に先進的に取り組む施設の人員配置基準柔軟化
  • 居宅介護支援の介護支援専門員1人当たりの取扱件数増加

介護報酬改訂ポイント4:制度の安定性・持続可能性の確保

  • 訪問介護における同一敷地内または隣接の同一建物における減算幅の拡大
  • 短期入所生活介護における長期利用の減算拡大
  • 【新設】居宅介護支援の同一建物に居住する利用者へのケアマネジメント減算
  • 短期入所療養介護、介護老人保健施設、介護医療院の多床室に室料負担を導入
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の基本報酬に新区分(夜間のみ)を導入
  • 運動器機能向上加算の基本報酬への包括化(介護予防通所リハ)
  • 認知症情報提供加算、地域連携診療計画情報提供加算、長期療養生活移行加算の廃止

介護報酬改定ポイント5:その他

  • 「書面掲示」規制をウェブサイト掲載・公表へ
  • 通所系サービスにおける送迎取り扱いの明確化(自宅以外可能、他事業所同乗可等)
  • 基準費用額(居住費)の引き上げ(1日60円)
  • 一部の老健・介護医療院の多床室で室料負担(月額8,000円)の導入

医療機関に関係する障害福祉サービス等報酬改定

  • 【新設】障害者支援施設等[障害者支援施設、グループホーム、(福祉型)障害児入所施設]について、協定締結医療機関と連携し、新興感染症発生時等の対応取り決めを努力義務化。協定締結医療機関との連携体制構築協力医療機関等との感染症発生時対応の取り決め、定期的研修参加等を要件に新設(障害者支援施設等感染対策向上加算Ⅰ:10単位、Ⅱ:5単位)
    ※協定締結医療機関…都道府県感染症に係る協定を締結した医療機関
  • 入院中に特別なコミュニケーション支援を行うための重度訪問介護の利用について、対象を障害支援区分6⇒4,5,6に拡大
  • 【新設】重度訪問介護利用者が重度訪問介護従業者の付添いにより入院する際、その入院前に、重度訪問介護事業所の職員と医療機関の職員が事前調整を行った場合を評価する(入院時支援連携加算300単位)
  • 生活介護、障害者支援施設、短期入所において、医療的ケア児の成人期への移行にも対応した医療的ケアの体制を充実
  • 医療等の多機関連携のための各種加算について、加算の対象となる場面や業務、算定回数などの評価の見直しを行う

医療・保育・教育機関等連携加算
面談・会議:100単位 ⇒ 200単位(モニタリング月:300単位)
・【新設】通院同行: 300単位
・【新設】情報提供: 150単位

障害福祉サービス等報酬改定における主な改定ポイント

  • 感染症発生時に備えた医療機関との連携強化(施設等)
    <障害者支援施設等感染症対策向上加算(Ⅰ)【新設】10単位/月 等>
  • 居宅介護の特定事業所加算に算定にあたり、重度障害児への対応を評価
    <特定事業所加算の算定要件に重症心身障害児及び医療的ケア児への支援を追加>
  • 入院中の重度訪問介護の利用について特別なコミュニケーション支援を必要とする障害支援区分4及び5の利用者も対象に追加
    <入院中の重度訪問介護利用の対象 区分6⇒区分4以上>
  • 医療的ケアが必要な者へ対応の評価(生活介護・施設・短期入所)
    <人員配置体制加算(Ⅰ)利用定員20人以下 321単位/日、咳痰吸引等実施加算【新設】30単位/ 日など>
  • 福祉型短期入所サービスにおける医療的ケア児者の受入れを促進
    <医療型ケア対応支援加算【新設】120単位/日 等>

おわりに

医療・介護・障がい福祉の同時改定を生かし、垣根を超えた事業者間連携の在り方を再定義するなど様々な点で大きな変化がありました。
介護分野では、将来を見据え認知症や看取り対応の評価、働き手確保のための処遇改善強化、少数精鋭での運用を実現するためのテクノロジーの活用を一段深堀りしています。また制度の本質とも言える自立支援やADLの維持向上を目指す改定も随所に盛り込まれました。
障がい福祉分野では、報酬体系に大幅な変化が加えられました。障がいを持つ方が地域で生活するための自立支援を促進しつつ、重度者や医療的ケアが必要な方への支援が強く意識されています。限りある保険財源の中で、自ずからメリハリのある内容となったようです。

事業者の皆様にとっては、現状に満足することなく、改定の意図・背景への理解を深め、将来を見据えた積極的な取り組みや変革が求められると感じます。


監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他