2016/04/27/水

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

メディヴァの商品開発・マーケティング、世田谷中町プロジェクト

 前回、メディヴァで最近増えている高齢化社会を見据えた事業や商品の開発について書かせて頂きました。今回はその一例として、5月1日にオープンする(タイムリーな!)「世田谷中町プロジェクト」と「ナースケア・リビング世田谷中町」について紹介します。

「世田谷中町プロジェクト」と「ナースケア・リビング世田谷中町」
2017.04.27
 「ナースケア・リビング世田谷中町」は、桜新町アーバンクリニックが運営する看護小規多機能事業所です。看護小規模多機能(通称:カンタキ)は、「通い」、「訪問介護」、「訪問看護・リハビリ」、 「泊まり」、「ケアプラン」の5つのサービスを提供します。機能としては小規模多機能事業所に訪問看護の機能を付加したもので、医療依存度の高い方にもご利用頂けます。カンタキは2012年に始まった新しい介護保険サービスで、その開設・運営のハードルの高さから、まだ全国に300件ほどしかありません。
 メディヴァでは、このカンタキの開設とともに、カンタキが立地する「世田谷中町プロジェクト」の開発、コンセプト・メーキングもお手伝いしました。
「世田谷中町プロジェクト」は、NTTが保有する1万坪の社宅跡地に東急不動産が開発した、若い世代から高齢者まで全ての世帯が共生できる新しいタイプの街です。ここには分譲マンション(ブランズシティ)とシニア住宅(グンラクレール・グランケア)がともに約250戸が建てられ、双方の住民が集う場所としてコミュニティプラザができました。コミュニティプラザの3階にはカンタキ、2階には保育園、1階には高齢者のライフコミュニティサロン(ホームクレール)と都市大学と共同した多世代交流の学びの場が入っています。
 東急不動産は、田園都市線沿線に高級シニアレジデンスを11個所15施設、合計約1000戸を運営しています。いずれも自立から終末期まで終身利用を前提とし、手厚い介護が人気の施設です。ただ、地域包括ケアシステムが促進される中、一般的にシニアレジデンス(有料老人ホーム、サービス付き高齢者施設、各種高齢者施設)は、地域から隔絶されていることが課題となっていました。また今後、増加する認知症患者さんへの対応は国家的な課題です。
 メディヴァでは、東急不動産が「世田谷中町プロジェクト」の開発コンセプトを作るに際し、地域包括ケアに向かう国内の政策を紐解いたり、海外の事例を調査し発想をひろげるお手伝いをしました。シカゴでは、マザーズカフェというシニア向けのコミュニティカフェ、サンフランシスコではオン・ロック、セコイヤ、ウォルナットクリーク等のシニアレジデンスやシニアタウン、イギリスではスターリング大学による認知症に特化したデザイン等を東急不動産の方々と見学しました。
 特にスターリング大学の認知症サービス開発センター(DSDC)とは、東急不動産、メディヴァの3社で業務提携の契約を結び、共同して建設を進めました。DSDCは、25年以上にわたり認知症の人々に適した環境デザインに関して研究、教育、アドバイスをしてきた国際的なリーダーです。
 高齢者、特に認知症の患者さんは視覚、聴覚が衰え、認識能力が落ちるので環境デザインにも配慮が必要となります。例えば、居室と廊下が違う色の床になっていて、廊下の方が濃いいと、穴のように見えて怖くて居室に閉じこもりがちになります。お風呂の縁やトイレの便座も見えにくくなります。音も識別ができにくくなるので、大きな居間でテレビを鑑賞している人の横で体操をされると、音が混ざって混乱します。このような高齢者の状況を鑑み、居室と廊下の色は統一するとか、便座に色を付けるとか、居間の仕切りとしてカーテンを吊るとか、様々な環境デザインを施します。
 「世田谷中町プロジェクト」では、シニアレジデンスとカンタキの両方にDSDC方式を取り入れました。例えばカンタキの居室の壁はそれぞれ違う色に塗り分けて、部屋を位置、番号、名前ではなく、色で識別し、覚えやすくしました。壁の色は、高齢者に馴染みがある朱、深緑、薄紫等キモノ等に使われている日本古来の懐かしい色を使っています。トイレの扉は、目につきやすいよう黄色にし、グラフィックで便器の絵を描きました。風呂の手すりは、手を伸ばして掴みやすいよう真っ赤です。シニアレジデンスも同様のデザイン上の工夫がなされています。両施設ともDSDCによる日本初の「認知症に優しい環境デザインの認証」を取得しました。デザインだけではなく、認知症ケアの教育や人材育成プログラムの提供、認知症への対応方針やサービス向上の支援もお願いしています。
 カンタキの入ったコミュニティプラザは、閉ざされがちなシニアレジデンスと地域を結ぶ架け橋となります。カンタキは、シニアレジデンスだけではなく、地域への医療・看護・介護のサービス提供を行います。2階に入る保育園には、地域の子供たちが来るでしょう。1階のコミュニティサロンにあるホームクレールは、地域の高齢者がいろいろな相談やフレイル予防の体操や様々なアクティビティをしに来る場です。モデルはシカゴにあったマザーズカフェという、高齢者の学びや体操をする場が会員制カフェに併設されている店舗でした。
 個人的には、1階に高齢者が運営する「駄菓子屋」を作りたいと思っていました。店舗の前方ではおじいちゃん、おばあちゃんが近所の子供たちに駄菓子を売り、後方ではお好み焼きやもんじゃ焼きを焼いてオヤツに食べさせる。子供たちだけではなく、地域の高齢者も集い、カンタキからは医師や看護師が顔を出し、自然と「街の保健室」が運営されます。こういう場所を作りたかったのですが、残念ながら物件が第一種住専地域で飲食・物販が不可だったので、早々に却下されました。漫画でパースのようなものも作ったのに残念でした。
どなたか、「駄菓子屋のある街」を作りたい方がいらっしゃったら、ぜひメディヴァまでお声がけください!

執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)