2016/06/15/水

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

戦略としての健康経営

 こんにちは。梅雨になってしまいましたね。今日も雨ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 今日は改めて「健康経営」について考えてみたいと思います。
 当社ではかねてより前から、健保組合向けのコンサルティングの延長上で産業保健分野に関わってきました。ここ数年は人員体制も強化し、もっと本格的に取り組もうとその道のプロを雇い、提携先の産業医大やパートナー会社のイーウェルとともに講演なども開催してきました。
 また、昨年は経済産業省の事業にも参加し、「健康経営銘柄」企業をはじめとし、多くの企業トップをインタビューさせていただきました。
 しかしながら実は、私自身、まだ「健康経営」とは何か?どう取り組むべきか?メディヴァが付加すべき価値は?が、完全に腑に落ちては居ませんでした(こういうと、その間にコンサルさせて頂いた企業様には怒られますよね、、。すみません)。
 それがここ一ヶ月ぐらい、当社や非常勤取締役をしている会社の健康経営に携わる中で、「見えてきた!」という気持ちになったので、共有させて頂きます。

戦略としての健康経営
 「健康経営」というと、社内にフォットネススタジオを作って運動する会社がイメージに浮かびます。もちろんこれも「健康経営」の一施策として有効です。しかし、これだけではなんか不十分な気もしますよね。「健康経営」というのは、健康に投資し、成果として業績を上げる「戦略」です。
「戦略」である以上は重要なのは、
(1)キチンとしたファクトベースの議論、
(2)重要性や投資効果を見据えた優先順位付け、
(3)その会社らしさ(唯一性)
です。

(1)ファクトベースの議論
 「健康経営」に取り組むときに、まずやるべきことは、ファクトに基づいた現状把握です。社員の健康状態はどうなのか?どういう取り組みがされているのか?どの程度のヒト、モノ、カネが投資されているのか?その効果はあったのか?
 社員の健康状態は法定健診結果がデータ化されていれば、十分に分析できます。加えて、健保組合とコラボできていて、レセプトデータ等も使うこともできれば、より充実した現状把握が可能です。健康状態の良い悪いは、検査結果の基準からも判定できますが、同業他社との比較が出来れば、説得力が増すでしょう。

(2)優先順位付け
 施策の優先順位付けは課題の重大性や、投資対効果を見て判断します。産業保健の内容は法律で決められていますので、まずはコンプライアンスに気をくばることも求められます。一方、制度自体がやや古く、時代のニーズに対応できてないところもあるので、金科玉条のように守るだけでは、意味のある優先順位付けはできません。
 上記(1)で明らかになった現状を踏まえ、健康改善から生活習慣病の予防、疾病管理、治療における定石的も踏まえながら、その会社にとって意味のある施策を決定します。このプロセスは、健保組合に求められているデータヘルス計画づくりに酷似しています。

(3)その会社らしさ(唯一性)
 「健康経営」の第一歩は、「健康宣言」から始まります。
 そこには何故、健康に力を入れるのか、どういう会社を実現したいのか、またそれを通してどういう社会を目指すのか、を掲げます。「健康宣言」やそれに基づく方針には、その会社の文化を感じさせるものであることが、トップ及び従業員が本気で取り組む上では必須でしょう。
 以上、健康経営実現の要素を掲げました。ここでさらに、上記を進める上で気になるポイントを3つ追記します。

健康経営を実現する3つのポイント
1つ目は、組織体制についてです。
 「健康経営」を進めるに当たって、推進する組織体制を構築します。できればChief Health Officer (CHO)は、社長や人事担当の役員等、企業のトップが担うのが望ましいです。
 実際の運営に当たるスタッフは、従業員の個人情報を扱うため、専門職(医師、保健師、看護師等)が中核にいることが必要になってきますが、かなり分析作業も伴い、戦略的な考え方も要するため、そのようなことに長けている人材の確保も必要になってきます。分析をするにしても、方針、施策を考えるにしても、プロの産業医が常にアドバイスできる立場にいることは有効です。
 また、企画実行の組織体制だけでなく、その成果をどうモニターし、改善していくのか、ということと、どうマネジメントにフィードバックし、意思決定に繋げていくのか、というプロセスも設計しなくてはなりません。

2つ目は、働き方の改善についてです。
 健康に投資をすることにより業績を改善するには、a.健康に関するリスクを減らすこと、と、b.結果として健康になるよう働き方を改善することの2つの方策があります。リスクを減らすことには当然取り組むべきですが、企業経営者にとっては、直接的に従業員の健康を改善するより、働き方を改善する方が手が付けやすいです。
 「働き方を改善する」というと、「残業を減らす」ことにすぐ結びつきますが、「残業が減る」ことは結果にしか過ぎず、どうやったら減らせるかが問題です。日本はホワイトカラーの生産性が先進国の中でも低いと言われていますが、仕事の整理、コミュニケーションの円滑化等を行い、仕事自体を見直すことが必要でしょう。

3つ目は、トップの健康です。
 「健康経営」というと「従業員の健康」にばかり焦点が当たりますが、企業にとってのリスクを考えるなら、トップを含む経営層の健康維持・増進は最重要課題になります。トップが健康に興味を持っている会社は、健康経営に力を入れる傾向にあり、結果として成果を出していることも分かっていますので、「隗より始めよ」で、まずはトップの健康づくりと働き方の改善から始めたいものです。

執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)