2020/08/18/火
大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」
長かった梅雨が明けて、急に暑くなりましたね。我が家は私が冷房嫌いで、息子の部屋しかつけていません。扇風機が合計6台回っているのですが、さすが暑さに参ってきました。良く考えたら、昨年までは日中の一番暑い時間は会社で涼んでいたんですね。毎日オンライン会議だと、家に閉じこもっているので堪えます。
さて、私が座長を務める規制改革推進会議の医療介護WGも第二ラウンドに入ります。2年の任期なので後半戦に入り、今テーマ決めをしているところです。第一ラウンドの答申は、7月2日に出されました。第一ラウンドで最も注目を浴びたのは、オンライン診療に関する臨時的・時限的な規制改革でしょう。本規制緩和は厳密にいうと規制改革推進会議で討議されたものではなく、未来投資会議等と連携し、最終的には政治的決着によって実現したものです。主として医師会が反対する中、新型コロナが落ち着くまで、3か月ごとに見直すこととなっています。
8月6日に「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」が開催され、今後についての検討が行われました。私は本検討会の関係者ではないのですが、公開されているので今後のためにフォローしています。
厚労省から提示された資料によると、まず今回の措置に参加した医療機関は、1万6000件程度、全医療機関の15%に当たります。参加数は4月末に約1万1000件、5月には約4000件が加わり、その後は微増です。そのうち、初診より電話・オンラインで対応するのは7000件で、約4割です。初診のうち、電話かオンラインかの別は、56%がオンライン(LINE、FaceTime等を含むと推定)、29%が電話で残りが不明でした。オンライン診療の患者層はやはり若く、37%が10歳以下の小児、38%が11~40歳、41~50歳が13%、50歳以上が12%で70歳を越える人は3%程です。
不適切事例も報告されていました。大きく分けると不適切事例は2つあり、1つは処方について。麻薬・向精神薬等今回処方が不可とされた薬が処方されたケースが88件ありました。また処方は7日以上とされているにも関わらず、8日以上処方されているケースが電話で約300件、オンラインで約200件、全体の8%に当たります。これらのケースは指導対象となります。
もう一つの不適切事例は、連携先のない越境です。今回の臨時措置を決めるにあたって、「2次医療圏等に限定した方がいいのではないか?」という議論があったのですが、あえてそれも外して、その代わり「対面受診に切り替えた時に紹介でできる医療機関を予め確保すること」との条件が付けられています。紹介先が確保されていなかったにも関わらず、診た例としては、東京の診療所が岩手県のてんかん患者を診たという、いかにも危なそうな例から、東京の診療所が石川県の副鼻炎の患者を診たという危なくなさそうな例まで挙げられています。いずれも紹介先が現地になく、対応としては自宅にて経過観察となっています。これらの事例に関しては、事情聴取が入ることになっています。
検討会の最大の論点は「初診から診ることの適切性」であるように見受けられます。これは、緊急措置決定時も最大の争点となりました。「初診を診ることは医療的に可能か?受診勧奨でいいのではないか?」私自身も、どちらかというと「受診勧奨でいいのでは?」と思っていたのですが、患者さんにとって分かりにくい、医療機関の収入になりにくい等の理由で、「初診からOK」になりました。
上記のような不適切事例ではないですが、「初診から診るのが適切ではない事例」についても議論がされています。吐血等の明らかにオンライン・電話では診られないだろうというものに交じって「発熱」が挙げられていました。良く見ると日本プライマリケア連合学会の 「プライマリ・ケアにおけるオンライン診療ガイド」でも発熱は、「オンライン診療に適していない症状」とされています。検討会では、日本医師会の委員が、「発熱など重症化する可能性のある症状について、初診から電話・オンラインでの診療を行っていることに危機感を覚える」と発言されています。
今回の新型コロナ禍の中で、「発熱を診る」はオンライン診療が最も役立った場面の一つではないか、と思っていたので、驚きを禁じえませんでした。未知のウイルスに対応する方法が分からず防護物資も足らず、かかりつけ医ですら「発熱した患者さんはお断わり」と門前払いをする中、オンライン診療に助けられた医療機関、患者さんは多かったと思います。PCR検査もキャパが足らず、医療機関からオンライン診療にて「新型コロナの疑いあり、PCR検査を要請」としてもらい検査にたどり着いた患者さんも多かったでしょう。
確かに、「新型コロナの可能性のある発熱患者さんをオンラインで診るのにリスクが無いか」と言われれば「有り」だと思います。ただ、全ての医療機関が新型コロナ対策を万全に整え、粛々と発熱外来を運営するか、行政や医師会による発熱外来、PCR検査が地域で十分な数開設されるかなどの代替手段がない中、一概に「適切ではない」とするのは無謀ではないでしょうか。
患者側の有識者として出席されている委員の「このままなし崩し的に当該措置が続き、恒久的な制度となるようなことが無いよう、期間については慎重な検討が必要」という発言は、本当に患者の声を代弁しているのでしょうか?未来投資会議を代表している金丸委員の「この検討会に患者サイドの委員に入っていただくなど、検討会の拡大も検討すべき」は、まさしくその通りと感じました。