2025/02/28/金
大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」
皆様、2月も終わりに近づきました。まだまだ寒く、風も強く、あちこちで大雪が降っていますが、たまに春の訪れを予感する暖かい日がありますね。
このたび女性専用健診センター「イーク」の5つ目となるイーク渋谷が開設します。場所は、東急不動産の再開発ビル群、渋谷サクラステージの1階。新しく出来たJR新南口すぐの好立地です。開設日の2月26日。偶然うちの息子の誕生日でもあります。
女性専用健診センター「イーク」の1号店は2007年に丸の内で発足しました。元々は、再生案件です。九州の病院の出先機関として、東京丸の内の一等地TOKIAビルに開設し、大型投資をしたにもかかわらず、わずか2年で民事再生になりました。オーナーの理事長が知り合いで、泣き付かれて引き受けた、いわくつきの物件です。
乳腺科が強い理事長だったので、自由診療の乳腺科で開設していたのですが、患者は健診を入れても毎日数名。毎月の赤字が2000万円。引き受けたのはいいけど、どうしよう、という感じでした。しかもその理事長は、「ボクも頑張ります!!」と言っていたのに、さっさと消えてしまい、、、。
丸の内なので、当然一般保険診療には向きません。賃料も高い。広さが150坪しかありません。そこで考えたのが「女性専用の健診センター」です。今では、いろいろなところに女性専用健診や女性専用の健診曜日がありますが、当時はありませんでした。
元理事長(男性)が逃げたのも、災い転じて福となすです。院長以下医師も、技師も、看護師も、事務も全員女性にしました。事務長は男性ですが、日中は事務スペースにいます。
女性に特化した健診センターには、個人的な思いもあります。昔から女性の健診受診率は男性より低いことは問題になっていました。男性の方が企業の健診や人間ドックがあるから。女性は子育てで家を離れにくいから。いろいろな原因はあります。ただ、「ペラペラの健診着を着て、すね毛のおじさんの隣に座って順番待つのが嫌」という声や「男性の医師による婦人科内診が嫌」、「男性技師によるマンモグラフィが嫌」という声も多々聞こえてきます。(私自身も嫌だもんね、、、。)
一方、男性のガン好発年齢は50代以降ですが、女性の場合は働き盛り、子育て盛りの2~30代から。健診を受けないことは非常に大きな課題です。
まずは医療の整備です。例えば、乳腺科は日本最高峰の聖路加国際病院にヘルプを求め、医師も出して頂き、連携バックアップもお願いしました。
健診、人間ドックは主として健保組合からの紹介で受診者が来るので、契約が必要です。先生たちと一緒に私も健保を回り「女性のガン好発年齢」の啓もう活動もしながら、「女性専用」のコンセプトを売り込みました。
幸い業界初だったのもあり、契約はしてもらえたのですが、次は院内の立て直しが大変でした。なんせ、一日に数人しか患者が来ないクリニックだったので、スタッフからは「5人以上来ると、医療の質が下がる。受けるべきではない」との大ブーイング。これをメディヴァからの派遣された事務長の白根さん(現メディヴァ取締役)が、丁寧に説明し、プロセスを設計し、システムを入れ替え、解きほぐしていきました。
受診者は来るようになり、スタッフも頑張る気にはなったのですが、混むにつれ、結構苦情が来るようになりました。とうとう主要顧客であるビルオーナーの三菱地所からも苦情が来て、、、。「契約切るぞ」とまで言われる大ピンチです。
そこで導入したのが受診者満足度調査です。何曜日のどの行為、どの検査に満足度が高いか低いかを細かく、答えてもらい、集計した内容は同日にフィードバックし、皆で集まって対策会議を開催します。どうしても改善しない場合は、医師であっても去って頂くこともありました。PDCAサイクルを徹底的に回したことにより、医療もサービスも格段にレベルが上がりました。
そのうち更に受診者が増えて、今度は「予約が取れない」という嬉しい(?)苦情がくるようになりました。そうして2013年に開設したのが、イーク表参道院です。クリスマスには真下にイルミネーションが見えます。更に、2019年にイーク有楽町、2020年にはイーク紀尾井町を開設します。
イーク紀尾井町は元々大手健保の肝いりで開設され、別の法人が運営していたのですが、健診ノウハウがなく、イークに移管されました。このため、紀尾井町院だけは男性受診者も曜日別に受け入れています。
渋谷は競合となる大きな健診センターが無いので、以前より出店したかったのですが、良い物件がありませんでした。健診センターはある程度の広さが無いと成り立ちません。水や電気を大量に使うので、配管等も整備しなくてはいけません。保険診療もするので、外部から自由に入れることが必須で、オートロックのオフィスフロアは不可です。しかも、飲食やアパレルに比べると賃料負担能力は高くない、、、。
様々な制約条件をクリアして、漸く渋谷サクラステージに場所を見つけました。東急不動産の再開発ですが、地主が持っている物件です。幼稚園とかも経営されている方で、イークのコンセプトに共感して、貸してくださいました。
実はイークの特色は「女性専用」というコンセプトとともに、仕組みに有ります。先ほど満足度調査とPDCAのことを書きましたが、スタッフ全員が一丸となってビジョンを実現するための仕組みを作りこんでいます。
「ビジョン」を実現するものとして、「コンセプト」があり、その行動指針であり、組織風土を作るものとして「クレド」を定めました。「ビジョン」は法人がトップダウンで創るものですが、「クレド」はスタッフが中心となって作ります。「クレド」つくりに1年の期間を掛けて討議しました。
日々の行動が「クレド」に則ったものであるかを、自己確認するための「クレドカード」を作りました。それに合わせて評価、昇給昇格の仕組みを作り、研修・育成も実施しています。全てが連動していることが重要です。受診者の満足度を測ると同時に、従業員の満足度も測り、PDCAが回ります。
今回の渋谷院の開設に当たっては、イークらしい医療とサービスが提供できるよう、1年も前から早めに採用し、トレーニングし、価値観の共有を図りました。新人はそれぞれの分院に残り、渋谷院の開設には、一番のベテラン勢を集結させました。ベテラン勢の活躍により立ち上がりが早いことを期待しています。
2022年の人間ドック学会では招かれて、イークの再生を話しました。当初の苦労話とともに、一連の仕組を語りました。医療機関の経営は、一般的には構造化されていません。イークは構造化し、必ず一定の医療的、サービス的レベルに上げる仕組みになっています。
メディヴァは多くの医療機関の経営支援を行っています。また、多くの医療機関とお付き合いがあります。医療機関の経営は、「医師だからできる」わけではなく、「MBAを取っているからできる」わけでもなく、「出来る仕組み」を作りこめたら「出来る」ものだと思います。
メディヴァの中でもイークはそれに最も成功した例で、そういう意味でも念願の渋谷院を開設できたことに、関係者は感無量です。
また機会があれば、見学にいらして下さい。160坪の小さい健診センターですが、広々と見える工夫もしています。
🔳女性のための統合ヘルスクリニック
https://www.ihc.or.jp/