現場レポート

2025/02/27/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

高齢化が進むASEAN諸国-日本の知見を活かし、介護の未来を支える-

【執筆】海外事業部・マネージャー 小倉

はじめに

近年、ASEAN諸国では高齢化が急速に進んでいます。かつては「若者の多い成長市場」として注目されていたこの地域も、経済発展とともに出生率が低下し、平均寿命が延びたことで、高齢者人口の割合が増加しています。

弊社でも、昨年あたりから介護関連の相談が急増しており、この問題に対する関心の高まりを実感しています。本記事では、ASEAN諸国における高齢化の現状、各国の対応策、そして今後の展望について、現地での視察を通じて得た知見も交えながら考察します。

ASEAN諸国の高齢化の現状

ASEAN諸国(タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア)の2000年から2050年までの高齢化率の推移(推計を含む)を以下のグラフに示しました。

※経産省カントリーレポートデータをもとにメディヴァ作成

推移をみると、特にタイとベトナムで急速な高齢化が進行していることが分かります。タイでは、2000年に6.1%だった高齢化率が2050年には31.6%に達すると予測され、先進国並みの水準に近づいています。ベトナムも2050年には20.4%に達し、高齢社会への移行が顕著です。一方、インドネシア、マレーシア、フィリピンは比較的緩やかな上昇を示しており、特にフィリピンは2050年時点でも10.8%に留まり、ASEANの中では依然として若年層の割合が高い国となる見込みです。このように、ASEAN諸国内でも高齢化の進行速度には顕著な違いが見られます。これらの違いは、経済発展のペースや医療の向上、出生率の変化などに起因していると考えられます。

さらに、上記のグラフに日本の高齢化の推移を30年、40年ずらしてプロットしました。

※経産省カントリーレポートデータをもとにメディヴァ作成


タイとベトナムの高齢化の進行は、日本と類似した軌跡を描いています。タイは日本の約30年遅れで高齢化が進んでおり、2000年の6.1%から2050年には31.6%に達すると予測されています。この推移は、日本が1970年から2020年にかけて経験した高齢化のペースと重なります。これを踏まえると、現在のタイの状況は1990年代中盤ごろの日本と近いと考えられます。当時の日本では、家族だけでお年寄りを支えることが困難になり、介護が社会問題化し、本格的に介護保険制度の検討が始まった時期でした。

同様に、ベトナムは日本の約40年遅れで高齢化が進行しており、2010年の6.4%から2050年には20.4%に上昇する見込みです。この推移は、日本の1970年から2010年の変化と類似しています。現在のベトナムの状況は、日本の1980年代中盤に近いと考えられ、高齢化率が10%を超えたことで、政府や社会が本格的に高齢化対策に乗り出し始めた時期にあたります。

もちろん、テクノロジーの進化など社会環境の違いがあるため、単純に日本の過去と同じとは言えません。しかし、日本が直面した高齢化問題(医療・介護・制度の整備等)は、ASEAN諸国においても今後の重要な課題となる可能性が高く、日本の経験が政策や産業面での参考になると考えられます。

これまで海外チームで現地をみた実情や経験の共有

タイの現状

先日、バンコクにて、ある大手企業とタイの介護について意見交換する機会がありました。タイでは、顕在化しつつある介護問題に加え、将来の急速な高齢化を見据え、政府主導で介護施設の整備が進められています。その企業も政府の要請を受け、介護施設事業への参入を本格的に検討しており、日本の経験を学びながら共同で事業を進めたいという強い関心を示していました。

タイでは伝統的に、高齢者は地方に住み、大家族の中で家族が介護を担うのが一般的でした。しかし、都市部では核家族化が進み、介護施設の必要性が徐々に認識され始めています。タイの企業は総じて介護事業に真摯に取り組む姿勢が見られ、事業を共にする可能性は十分にあると感じました。一方で、タイ国内では要介護高齢者の存在があまり認識されておらず、介護の具体的なイメージが共有されていない様子もありました。介護施設のコンセプト設計やサービス構築においては、まずは介護に対する理解を深めることが重要になりそうです。

ベトナムの介護施設の現状

ベトナムでは、いくつかの介護施設を視察しましたが、日本の基準からすると、十分な環境とは言えませんでした。施設の衛生面には改善の余地があり、設備面でも、エレベーターが車椅子の利用を想定しておらず、移動に大きな制約が生じるケースも見られました。また、介護の質についても、日本の基準と比較すると大幅に低く、入居者へのケアが十分に行き届いているとは言い難い状況でした。

それにもかかわらず、一定数の入居者が集まっていることから、介護サービスに対する需要の高さがうかがえます。施設の利用料は決して安価ではなく、ベトナムの経済状況を考えると、多くの家庭にとって大きな負担になっていると推察されます。それでも介護施設の需要が高まっている背景には、都市部の核家族化の進行や、在宅介護の困難さが影響していると考えられます。

日本の介護の知見を活かす余地は大きいものの、単に日本のモデルを導入するのではなく、現地の経済事情や社会背景を考慮し、持続可能な介護サービスのあり方を模索することが求められます。

今後の展望 日本事業者の活躍

タイやベトナムなどのASEAN諸国では、日本の介護技術やノウハウへの関心が高く、日本の事業者にとって新たなビジネスチャンスが広がっています。しかし、これらの国では介護に関する経験がまだ少なく、どのような支援が必要なのか明確にイメージしづらい状況も見受けられます。そのため、介護施設の整備においては、先進的な設備やテクノロジーに関心が集まりがちです。

一方で、日本の介護が重視する「自立支援介護」の概念は、現地ではまだ十分に理解されていません。相手国のニーズと日本の強みの間にあるギャップをどのように埋めるかが、今後の日本企業が事業を成功させる鍵となるでしょう。

今後も、ASEAN諸国の高齢化や介護事情について最新の情報を発信していきますので、興味のある方はぜひ引き続きご覧ください。

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執筆者

A.Ogura
神戸大学を卒業の後、日本オラクル(株)にてソフトウェアのコンサルティング営業に従事。さらなる営業の経験を求め(株)リクルートに転職。その後、医療機関の立ち上げに携わる。その時の経験から、医療業界への思いが強まりメディヴァに参画。医療の世界に新しい価値を生むべく、日々奮闘中。

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