現場レポート

2024/06/03/月

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

台湾訪問記「在宅医療とICT」

我去了台湾!(台湾に行きました!)

台北における介護の展示会に合わせたサミット(第八回日台照護産業高峰会)にご招待いただきました。オープニングの日に総統就任予定の頼清徳氏ともお話をさせていただく予定でしたが、新政権の発足前の金曜日でお会いできなくなったのは残念でした。ただ、一週間もいたので、次期厚労大臣とお茶する等、色々な方とお話しすることができました。

私の演題は「在宅医療とICT」。高齢化が日本よりさらに急速に進む中、在宅医療はまだ黎明期で、台北にも在宅医療専門のクリニックは1カ所しかありません。地方を含め、訪問看護は先行して始まっていて、医師ではなく看護師が中心になってケアを行うイギリス型モデルのような印象を受けました。とは言いつつ、日本同様、新型コロナ期を経て「hospital at home」へのニーズは高まっているとのこと。ただ、介護保険もようやく始まったばかりで、在宅医療も介護も担い手に十分な報酬がつくわけでなく、自費との組み合わせとのこと。

台北唯一の在宅療養支援診療所「行一診所」の張院長にお話を伺うと、患者の殆どは高齢に伴う疾患(非がん)ですが、胃ろうの交換等の高度処置も在宅で担っているそう。ただ、収入の半分は自費だそうです。訪問看護師を複数雇い、担当患者は50人。一人医師体制なので、ある程度限界があるなかで頑張っていて、ACPの普及にも務めているそう。

この先生の話で興味深かったのは、2つ。一つは在宅医療の質を測るために、結構ちゃんとした研究を目指していること。コントロールを設定して良し悪しを判断する研究計画を立てています。日本はきちんとした在宅医療の質を測る研究がまだまだ発展段階なので、台湾が先行している気がします。

もう一つは、介護体制について。介護保険も不十分なので、介護人材は育っておらず、コストも問題もあるのか外国人が多数入っていて、担当患者の60%は外国人お手伝いさんを使い、殆どはインドネシア人だと言っていました。介護の質の問題は深刻だ、とのことです。

在宅医療、訪問看護・介護が黎明期なので、メディヴァと医療法人社団プラタナス(アーバンクリニック)の取組みや、日本の事業者が進めているICT化については、かなり興味を持って聞いてもらえました。一方、台湾の訪問看護ステーションの演題発表では、国の方針もあり一気にペーパーレスでオペレーションができるよう整備されつつあるとのこと。元々台湾は、電子カルテが普及し、患者データの共有化と連携が進んでいることで有名です。訪問看護ステーションの発表者の中には「原住民」と呼ばれる地方の山岳民族出身の方もいらしたので、台湾全土でペーパーレス訪問看護に向けて動き出しているのではないか、と羨ましくなりました。

DX化が国主導で進む一方、台湾大学医学部総合診療科の許准教授からは、台湾のお家芸とも言える「電子的な患者情報共有が最近は陰りが見えてきた」と気になる発言も。昨今は患者の個人情報保護が厳しくなって、予め患者の同意がないと他院でデータが見られなかったり、匿名化しているデータですら研究目的でも使えなくなったり、色々と支障が出始めています。台湾での悩みは日本でも大きな問題で、規制改革推進会議でも扱って進めているところです。在宅医療、介護、ペーパーレス、データの利活用、いずれも日台で先を行ったり、後戻りしたり、一長一短でお互い学べるところが多々あり、非常に興味深いです。

余談ですが、電子カルテ情報の共有・利活用、新型コロナ期のオードリー・タン(元デジタル発展部長)の大活躍などを聞いていて、台湾=DXと頭にありましたが、入国して驚いたことが幾つかあります。

まず、すごい名刺交換文化です。というか、「名刺&LINEコレクション」文化でした。ちょっと会った偉い人にも、「ニーハオ」、「ニーハオ」と名刺を交換します。中国本土では名刺交換は既に死に絶え、wechatに置き換わっているので、驚きました。名刺は様々なサイズで、偉い人の名刺は金文字で刻印されています。その結果、皆お互いの名刺を束にして持っています。そして少し喋るとLINE交換。暫くするとLINEに名刺の写真が送られてきます。これは、きっとお互い「誰だっけ?」になるからでは、と思っています。

更に驚きかつ困ったのが、「現金」(キャッシュ)が未だ幅を利かせていること。夜市の屋台やB級グルメ食堂は分かるにしても、普通のレストラン、地下鉄の切符、タクシー、美容院等、全て現金。キャッシュフル度合いは日本を越えていています。「きっとカードばかりだろう」との先入観で、空港で換金し損ねた私は痛い目に遭いました。人に会うのに忙しくて換金もできず、台湾料理を堪能し損ねたのか悔しいのと、そもそも日台でコラボすることで面白いことが出来そうなので、再度の訪台を誓って週末に帰国しました。