現場レポート

2024/06/07/金

医療業界の基礎解説

活発化する病院承継。承継先の種類や失敗しないためのポイント

【監修】取締役 小松大介

経営者の高齢化や経営上の理由などにより、病院承継の第三者承継のご相談が増加しています。

多くの地域では人口減少の局面にあって、病院の新設は認められない場合も多く譲り受ける側にとっても事業拡大の機会になり得ます。一方で、老朽化した設備の更新や修繕費がかさむ場合もあり、また方針の変化を通じ従業員の離職や患者離れが生じる場合もあるため注意が必要です。

そこで今回は病院承継を成功させるために、まずは知っておきたい基礎知識から解説していきます。


病院承継の種類

病院承継には主に「親子間・親族間の承継」「在籍中の医師や知り合いへの承継」「第三者への承継」の3種類があります。

親子・親族間の承継

1つ目の方法は、親子・親族間の承継です。多くの場合、院長の後を子どもや親族が継ぐことになります。経営者のもとで一定期間働き、病院の理念を体現できる後継者なら、経営者の思いを承継し、従業員や患者の共感を得ながら病院経営を続けられるでしょう。

しかし、後継者には医者としてだけでなく経営者としての心構えや知識、スキルが求められるため、経営者としての適性を重視する必要があります。
また、親子・親族間承継だとしても財務状況など重要なリソースを評価し、将来も安定した運営ができるかの確認や計画を立てるなど行うべき事項があります。

在籍中の医師や知り合いへの承継

自院に勤める医師や、以前勤めていた医師に声をかけて引き継ぐ方法もあります。信頼できる相手への譲渡であれば、患者や従業員にも安心してもらえるでしょう。

しかし、病院を引き継ぐというのは譲受側にとっても大きな決断となります。できるだけ時間的な余裕をもって相談しておく必要があります。

第三者への承継

3つ目が、第三者への承継です。経営者の高齢化や後継者不足を背景に、近年は第三者への承継を選択肢に入れる傾向が増えています。

後継者候補は、銀行や税理士、M&Aの仲介会社、事業承継・引継ぎ支援センターなどを通じて探すケースがあります。
特に第三者への承継を成功させるには、承継の目的を明確にしておく必要があります。
たとえば、おもに以下の3つのような目的が想定されます。

  • 大手医療法人の傘下に入り運営の安定や一部機能の統合を目指す
  • 同じ医療圏の病院と協業し地域でグループを形成する
  • 候補者の強みや専門性を活かして新たな診療科や機能を付加する

経営能力や資金力のある後継者を選ぶだけでなく、目的を定め、自院の強みを活かせる承継を目指す姿勢が大切です。

病院承継を行うメリット

ここからは、病院承継を行うメリットを解説していきます。

地域医療を存続できる

病院を承継すれば、地域医療を存続できます。これにより、近隣の患者が通院・入院できる環境を維持できるため、住民の安心・安全を守れます。

従業員の雇用を守ることができる

病院を承継することで、従業員の雇用を維持できます。一緒に働いてきたスタッフの雇用を守ることは経営者の大切にしたいことの一つと言えるでしょう。

しかし、雇用条件の設定は買い手に主導権が移ります。給与や労働時間の変更に伴い従業員が不利益をこうむらないよう、承継前にしっかり条件をすりあわせておきましょう。

資金的見返りを得られる場合もある

病院の経営状況や財務状況により資金的見返りが得られる場合もあります。
見返りが得られる事例としては、黒字が出ていたり、借入が少額であったり、保有不動産が実勢価格で高価値であったりする場合等です。

譲り受ける側にも価値を提供できる

多くの医療圏では病床数の配置に制限があるため、新規開設の場合は上限の範囲内でしか病床を増やせません。またこれから将来の人口動態を鑑みたうえで、新規開設ができる地域でも慎重に考える必要があります。

その意味で以下のような場合は、既存病院を承継する価値があります。

  • 病床規模を大きくすることで効率性の向上や新規機能の付加ができる
  • 診療科の幅を増やすことで医療の質を高められる
  • 急性期に加え回復期や慢性期を持つことで患者の利便性を向上できる
  • 高い質と効率を実現できた病院が他地域でも同様の医療を提供したいと考える


病院承継の方法

病院承継の方法は、売り手が個人事業主か医療法人か、また医療法人の場合は出資持分の有無によって異なります。

以下で、それぞれについて詳細を解説します。

個人事業の場合

個人事業を承継する場合、事業の資産や権利を売り渡す「事業譲渡」の形になります。

事業譲渡では開院許可の資格は承継できないため、譲渡側でいったん病院を閉鎖し、買い手側が新たに開院手続きを行う必要があります。それに伴い、保健所と厚生局に「廃止届」と「開設届」を提出しなければなりません。

閉鎖の手続きによって、従業員や取引先との雇用・取引契約も一度解約になります。開院したら、再雇用・再契約の手続きが必要です。
病院に紐づく資産と負債の引継ぎを行うため、病院に紐づく資産・負債の目録を用意する必要があります。

医療法人の場合

医療法人の場合、出資持分の有無によって、承継の手続きは異なります。
出資持分がある医療法人では、法人格の所有と経営権が分離しているため、譲渡の際には、出資持分の譲渡(法人格の譲渡)と、社員や理事の交代(経営権の譲渡)の両方が必要になります。
一方、出資持分がない医療法人では、所有と経営が一致しているため、社員の交代のみが必要です。譲る側の社員は退社・役員を辞任し、譲り受ける側が新たに社員として入社・役員に就任するのが一般的です。

以下に、出資持分の有無別の方法を記載しております。

医療法人 (出資持分あり)・出資持分譲渡
・事業譲渡
・合併
医療法人 (出資持分なし)・事業譲渡
・合併
※出資持分譲渡…財産権にあたる出資持分や、総会での決議権を譲渡者が売り渡す方法
※事業譲渡…事業の資産や権利、負債を売り渡す方法
※合併…2つ以上の法人を1つの法人に統合する方法

合併には2種類あり、1つが法人のうちの一方が存続し、もう一方が消滅する手法の「吸収合併」。もう1つが法人の異なる会社が合併し、新たな法人を立ちあげる手法の「新設合併」。いずれかの方法を選べますが、主流なのは「吸収合併」です。

病院承継に失敗しないためのポイント

病院承継に失敗しないためには、以下の3つのポイントを抑えておく必要があります。

十分な準備期間を設ける

病院承継は多くの手続きが必要であり、処理をするのに時間がかかります。後継者との条件のすり合わせや引き継ぎにも時間を要する可能性があるため十分な準備期間を設けましょう。

出資持分をもつ親族やスタッフの合意・理解を得ておく

医療法人が出資持分譲渡を行う場合、出資持分をもつ人に必ず合意を得ておきましょう。承継準備を進める中で出資持分を持つ人から反対されたら、交渉が破談するリスクがあるためです。

また承継後のトラブルを避ける意味で出資持分のすべてを出資者から譲り受けする形が望ましいでしょう。

重視する条件をまとめておく

病院の譲渡は、お互いの意見を尊重したうえで進めるものです。引き継いでほしい条件などがあれば、まとめて買い手に伝えましょう。

主な引き継ぎ条件の例として、以下のような項目が挙げられます。

  • 経営理念
  • 医療方針
  • 従業員の雇用条件
  • 取引先との契約条件
  • 承継に係る対価(請求できない場合もあります)

承継後に医療方針や雇用条件が大きく変更されると、従業員や患者が不安を感じて病院を離れる可能性があります。長年大切にしてきた思いや人々を守るためにも、重視する条件の引き継ぎについて、しっかりと意思表示をしていきましょう。

【自社では解決が難しい場合】専門のコンサルタントに相談を

病院承継は非常に専門性の高い分野です。出資持分の有無や個人事業によっても承継の種類や方法が異なり、譲渡額や引き継ぎ条件をすりあわせる際に相手とトラブルになる可能性もあるでしょう。

個人間での交渉に不安を感じる場合は、病院承継の仲介をするコンサルタントに協力してもらう手もあります。専門家のアドバイスを取り入れれば、スムーズかつ適切な承継を実現できるでしょう。

まとめ

病院承継は、地域医療のニーズを守るだけでなく、従業員の雇用や患者の通院環境も維持できるという大きなメリットがあります。ただし、手続きが複雑で両者のトラブルが発生するリスクもあるため、実行する際は慎重に進めていかなくてはなりません。

弊社は経営状況が健全な病院はもちろん、財務的に厳しい状況にある病院に対しても、豊富な支援実績があります。成功事例について詳細を知りたい方や譲渡相場が知りたい方もお気軽にお尋ねください。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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