2024/04/16/火

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

生活習慣病の診療報酬 484点から141点へ

今年の報酬改定は、診療、介護、福祉のどの分野の法人にとっても、大きなインパクトがありました。特に介護分野では小規模の訪問介護事業所が立ち行かなくなると反対運動が起きています。医療分野でも厳しい改定であるという見方が一般的です。メディアでは初再診料等の引き上げや新設のベースアップ評価料に焦点が当たっていますが、上がった部分は賃上げにそのまま使われるので、法人には残りません。 

診療所にとって、最大の激震は「特定疾患療養管理料」の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が外れたことではないでしょうか。代わりに「生活習慣病管理料(II)」が新設されましたが、外来管理加算が併算定不可のため実質減算になるのと、療養計画書を作成し、患者の同意も得なくてはいけないので、手間が増えます。 
【改定前】
再診料(73点)+特定疾患療養管理料(225点)+外来管理加算(52点)+処方箋料(68点)+特定疾患処方管理加算(66点)=484点 
【改定後】
再診料(73点)+生活習慣病管理料 II(333点)+処方箋料(68点)=474点 
患者の同意が得られず、もしも生活習慣病管理料IIが取れないとなると、報酬は484点から141点と4分の1に落ち込みます。 
生活習慣病は診療所にとっては、コメの飯のようなもので、「これから白米は食べられない。どうしても、というなら玄米を自分で搗いて食べてくれ」と言われたような感じではないでしょうか。メディヴァの関係している外来診療所でも、「潰れるかも」と大騒ぎでした。 

「突然、何故?」というのが自然な疑問ですが、心当たりがないわけではありません。特定健康診査(いわゆるメタボ健診・指導)制度が始まったのが2008年です。この制度は「未病」の人を対象に、食事や運動指導をし、発症を予防する制度で健康保険組合等の保険者を通して、管理栄養士や保健師が生活改善を促します。メディヴァもこの新しい取り組みに参入しました。指導をすると8割程度の対象者は体重や腹囲が減り、検査結果もよくなり、脱メタボする人も多数いました。 
私はこの制度は片手落ちな気がして、厚生労働省の担当官に質問に行きました。「何故、対象者は未病の人なのか?すでに治療対象となっている患者の方が必要性が高く、効果も見込めるのではないか?」というのが問いでした。その時、担当官は「それはよく分かっている。ただ、治療をしている患者は医療の範疇なので、指導を義務付けることは難しい」ということでした。 

担当官は更に、心なしか遠い目をして付け加えました。「いずれ患者も指導を義務化できる日が来ると思う」と。今回の改定を見たとき、その言葉を思い出しました。新型コロナで保険財政がいよいよ厳しくなった今、漸くその時期が来たのでしょう。漫然と薬を貰うのではなく、患者も自らの行動を変え、生活習慣病から脱することを目指さないといけない。また医療機関は漫然と薬と出すのではなく、患者の生活習慣が変わるよう積極的に支援しないといけない。そのためには、両者が目標とアクションプランを共有し、療養計画書に残さないといけない。 

メディヴァの関連診療所では、メタボ指導のノウハウを活かし、管理栄養士が患者を啓蒙、指導、支援し、療養計画書を作ることにしました。やる気のある患者には手厚くフォローし、「生活習慣病管理料(I)」の取得を目指します。「生活習慣病管理料(II)」自体は経過措置かもしれないので、万が一に備えるという意味もあります。メディヴァの管理栄養士は、オンラインと動画でも対面と同様の成果が上げられることが実証済みで、基本的な流れが出来たら全国でのサポートを考えています。 

厚生労働省「生活習慣病 療養計画書」より

最後にちょっと余談です。3月末ごろ、故郷で高校時代の仲間と飲みました。一人は医師になって大阪の南の方で開業しています。驚いたのは、泉南には診療報酬改定の危機感がまだ伝わっていない様子で、全く知りませんでした。(マジか、、?!) 

心配になったので、後日フォローしたところ、「医師会からFAXが来て、やっと詳しく分かった」そう。彼は医師会から回ってきた療養計画書の雛型を使い、全件「生活習慣病管理料(I)」を狙う予定で、「いい感じでいけそう」と喜んでいました。曰く「医師会は便利。家内の実家が農家だけど、農協と一緒。肥料をやるタイミングや剪定に良い日など、教えてくれる。現在の気候と採算性に最も適した作物も推奨してくれるので、その通りに転作していたら一番うまくいく」とのこと。厚労省の役人はまた遠い目をするかもしれませんが、ほのぼのとした地方の開業医の日常を感じたコメントでした。