2023/12/21/木

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

内閣府「規制改革推進会議」②

前回に引き続き、「オンライン診療をデイサービスや公民館で受けることの可否」という議題を例に、規制改革推進会議の説明を行います。 新型コロナ禍によって急速に進んだオンライン診療ですが、コロナが収まった今、急速に規制の巻き返しが起こっています。
オンライン診療に関する規制を完全にコロナ以前に戻すことは国民が納得しないだろう、とだいぶ制限条項が外されました。「初診は条件付きではあるがOK」となり、診療を受ける場所も「個人宅に加えて、職場での受診もOK」となりました。しかしながら、未だ「公民館、デイサービス等で受診することは不可」とされています。

なぜ職場では受診可能であるにもかかわらず、公民館やデイサービスでは不可なのか?公民館やデイサービスで受診することが可能になれば、デジタルに強くない高齢者が、看護師や介護士の支援を受けながらオンライン診療を受診することが可能となります。家族の付き添いが無ければ来院できない高齢者が多い中、ご本人もご家族も格段に楽になります。なのに、なぜダメなのか?

医療界、介護界に居ると何をするにも規制だらけです。法律もしくはそれに準じる通達等で「やっても良い」と定義されているもの以外は不可となるのですが、「やっても良い」ということが、どう定義されているかが問題となります。
法律上、「診療」というものは「医療機関内」でやるものと限定的に定義されていました。元々疾患のメインは感染症だったので、治療を受けるために患者が集まることにより、また治療そのものによって感染源(菌やウイルス)が広まることが懸念されました。また感染症に罹患していない患者であっても、衛生状態が悪い場所で治療をすることにより、別の病気に掛かることも避けなくてはいけませんでした。このため、衛生管理がされている医療機関内でしか、診療はしてはいけないとされていたからです。

上記のように「診療」=「医療機関内」が大前提であったのが、生活習慣病を長期に患う高齢者が増える中、違う枠組みが必要となりました。「患者が療養している場所」は診療の場所として加えても良かろうという議論がされて、新たに「居宅」(患者宅)が追加され、「在宅医療」が可能となりました。
今回のオンライン診療でも論点になっているのは「居宅」の定義です。一般的に患者が自宅に居て、そこからオンライン診療を受ける場合は「居宅」における診療なので可です。「職場」は恒常的にそこにいるという意味では「居宅」と呼んでもいいのではないか、とされています。やや無理があるような気もしますが、そうしないと忙しくて通院を中断する人が救えないとう議論に加え、働いている人(特に若年層)にはかかりつけ医が居ないので、患者を取られて困る診療所も多くないだろう、という政治的配慮も関係しています。

では「デイサービス」や「公民館」は「居宅」と拡大解釈してもいいでしょうか?デイサービスには恒常的に行っている、公民館も居住圏内でいつもではないですが、頻繁に訪れることが可能なので「居宅」でもいいのでは、と思われます。一方、高齢者は既にかかりつけ医を持っています。通院が困難になったからと言ってオンライン診療に切り替えられると困る診療所がありえるでしょう。このため、本件は前年度の規制改革推進会議で押し問答が続いている案件となりました。

今年、厚労省から出てきた案は、条件付きで認める案で、デイサービスや公民館内に診療所の開設届を出した場合は認める、というかなりイマイチな案でした。一般的には診療所の開設には管理者(院長)が開院時間の過半、その場にいなくてはいけないのですが、この場合は巡回診療と同様特例的に医師は不在でも可となります。更には、デイサービスでオンライン診療をやるということを利用する本人以外に広く知らしめてはいけない、という条件もついていました。

このような条件がついているなか、デイサービスでオンライン診療をできるようになるか、ということは甚だ疑問です。オンライン診療をするために、管理者不在の診療所開設まで医療機関側がするか?また診療所開設に必要な届出要件(例えば物件オーナーとの転貸借契約書)が整えられるのか?ご家族にご案内せずに、ご本人がオンライン診療を受けられるのか?「認める」と言いつつ、実質的には「ダメ」とする案のように見えました。

当然、健康医療介護ワーキンググループでは議論騒然で、再審議となりました。次のワーキンググループは既にYouTubeでリアルタイム配信済みなので、展開をご存じの方もいらっしゃると思います。見逃した方は、次回の投稿をご覧ください。