現場レポート

2022/11/09/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

医療機関でのクレーム対応について

コンサルタント 村上範久

はじめに

医療機関で事務系の管理職として働いている方にとって大きな悩みの一つにクレーム対応があると思います。
受付や外来、電話交換手から、「クレーム対応をお願いします」と連絡が来ると気持ちが落ち込むことも多いと思います。
私もいくつかの医療機関で事務の管理職として勤務した際に数々のクレームに対応してきました。
その経験と受講したセミナーを基に私なりにクレーム対応についての考え方やコツをまとめてみました。
一つとして同じクレームは無いので対応の仕方に正解はありませんが困った時に参考になれば嬉しいです。

1)それってクレーム?

まずクレームとは何でしょう?私は理不尽な要求や苦情と考えています。
こちらに非があるケースについては必要な謝罪を行い、患者様にご理解頂き解決すべきだと思います。何でもかんでも怒っていたらクレーマー、と言う考え方は間違っているので職員にもその点はしっかり理解してもらう必要があります。
クレームかどうかをきちんと見分けて、クレームだと判断した瞬間からクレーム対応は始まります。

2)初期対応

一番大事なのは初期対応です。拗れるクレームの多くは初期対応に問題があります。
現場で最初の対応をもう少し上手くやってくれればこんなに炎上しなかったのに…と思うことは多くあります。
結果として怒り心頭の患者様と話をすることがほとんどですが、対応前に情報収集をしっかりしておくことがとても大事です。

必要な情報は、
・クレームの原因になった出来事とそれまでの経緯
・こちら側に非があるのか無いのか(医療の問題や接遇の問題等)
・相手の希望(返金なのか、謝罪なのか、丁寧な説明なのか誠意を見せろ!なのか)
これらを聞いた上で一旦の落しどころを思い浮かべて現場に向かいます。

この時に即決できる対応の範囲を院長等と相談の上決めておくとより良いです。
例)診察代は負担いただかない、順番を飛ばして先に診てもらう、先生を変える等
上記準備をした上で会いますが、最初に対面した時の印象はとても大事です。
こちらに非がない、いわゆる言いがかりのようなクレームに対しては隙を見せない、強気な態度で挑む必要があります。怒らせる必要はありませんが、言っても無駄だなと思わせることが大事です。

一方でこちらに非がある場合や微妙な場合は慎重に対応する必要があります。
大事なことは相手の訴えをじっくり聞くことです。途中で話を遮ったり、否定したりしないことです。
特に相手が話しているのに被せて大きな声で話し続けたり、声を荒げたりしてはいけません。
じっくり聞いて何度も同じ話になったな、と思った頃に話を整理していきます。

例えば職員の接遇についてのクレームの場合ですと、ご指摘いただきありがとうございます。私からも厳しく指導していきますし、患者様の声については院内で定期的に会議を開いて検討しているので〇〇様のご意見も議題に挙げて改善策を検討させていただきます、等伝えます。
フィードバックが欲しい、と言われたらきちんと後日お返事します。
ある程度丁寧に対応しても話が堂々巡りで長時間解決しないときは次の手を考えます。

3)犯罪行為と応召義務

しっかり丁寧に話をしても理解してもらえず、不当な要求をしてくる、納得せず帰らない、大声を上げる、暴力を振るう(振るおうとする)、と言うような流れの時はこちらも強硬手段を検討しなければなりません。過剰なクレームは犯罪行為にあたるので、どこかでそれを相手にも意識させる必要があります。そこでどういう行為がクレームを超えて犯罪行為に該当するかを知っておく必要があります。

良くある該当する犯罪行為は
・強要罪…謝罪や土下座、担当者の退職要求等の「過度な」強要する行為
・脅迫罪…大声を出して威嚇する、モノを壊す、反社会的勢力を想像させるようなことを言う行為
・恐喝罪…ネットに書かれてもいいのか?誠意を見せろ等を言い、暗に金品を要求する行為
・威力業務妨害罪…大声を出す、机を叩く、蹴るなどをして周りの人を怖がらせる行為
・不退去罪…正当な理由なく他人の敷地内に居座る行為。要求を受け入れるまで帰らない等の行為
です。

長時間不当に居座って帰らない、誠意を見せろと暗に金品を要求する、謝罪を強要する行為は病院で多く見受けられます。
このようなケースは上記の罪に該当する可能性があるので臆することなく対応すべきです。
ただすぐに罪名などを伝えるとさらに激高する方もいるので伝えるタイミングは慎重にした方が良いです。どちらかと言うと罪名を伝えるのではなく、これ以上同様の行為(言動)を続けると警察を呼びますよ、と伝えたほうが効果的です。

職員に暴力をふるうケースや診察室や待合に居座って全く帰る気配がない時などは躊躇なく通報することも必要です。

例えば、診察室や会計前で医師や受付、看護師などへの不満を言い続けて帰らない、大声で職員に対する文句や病院に対する不満を叫び続ける、と言った場合はまずは丁寧に時間をかけて対応しますが、それでもだめだと判断したら警察を呼びますよ、とかこれ以上帰らないと不退去罪と言う罪になるので警察に対応してもらいますよと伝え、それでも帰らなければ躊躇なく電話します。

今時は直接的に金銭を要求するケースは少ないと思いますが、例えば駐車場に停めた車の(いつのかもわからない)傷を見せて修理代をよこせ、とか病院側の不手際で検査を受けられず別日に来ることになった際にお詫びの交通費などを支払っても、余計に休みを取ったのだからその分も補填しろ、と言うような、必要以上に謝罪や金品を要求してくるのであれば毅然とした態度で拒否し、それでも収まらなかったときは強要罪や恐喝罪に当たるので、これ以上同様の訴えが続くようでしたら警察に相談します、と伝えて良いと思います。

また、警察を呼ばなくても以後出入り禁止にしたいケースもあると思います。
その際に気になるのは医師法の応召義務です。
応召義務に関しては、令和元年7月18日の第67回社会保障審議会医療部会で下記の報告が発表されました。

上記を受けて「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」
(医政発1225第4号令和元年12月25日)が発出されました。
この通知の中で、診療拒否を行う正当な理由について記載があります。

犯罪に該当するかどうか、診療拒否を伝えられるかどうかを頭に入れて対応することで気持ちにも余裕が出来、最悪のケースにならずに解決できる可能性も高くなりますので常に頭に入れて対応することが大切です。

4)クレーム対応のゴール

理想のクレーム対応のゴールは該当の患者様を出入り禁止にすることではなく、患者様も納得していただいて今後も診療に来てもらうことだと考えています。

職員の中には、安直に出入り禁止を望む人もいると思いますがそれは最後の手段です。常にお互いが納得できる形でクレームをが終わらせることが大事だと考えております。

最後に

クレーム対応に正解は無く、内容や状況によって対応は違ってきます。時には誠心誠意謝罪が必要なケースもありますし、強硬に対応するケースもあります。

またクレームは個人で対応するものではありません。事務長といえども一人で抱えるのではなく、常に状況を共有して病院として対応していくことが大事です。

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