2022/11/07/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

医療施設の建替え費用が上昇中

コンサルタント 中小企業診断士 佐々木一弘

最近、事業費が高騰してる

メディヴァでは病院建て替えを見据えた経営改善を、建替え計画の作成と同時に実施することがあります。病院職員と一緒に新病院準備室を立ち上げ、建て替え及びその返済に必要なキャッシュを確保するため、現時点から病床稼働を向上させるプロジェクトとして、救急改善支援や病棟入室ルールの設定、手術室の運用改善による件数増加などの業務改善に取り組んでいます。

業務改善による収益力向上は病院職員一人一人の協力が不可欠であるため、短期間で見事改善!とはなかなかいかず、皆で少しずつ改善を進めていく必要があります。ところが、この改善効果を相当上回るスピードで、建替えに係る病院建設費が上昇しています。

ここでは、病院建替え支援での建築費高騰への対応策について考えてみます。

病院建設費は前年比14%増

独立行政法人福祉医療機構(以下、WAM)では、毎年、貸付先医療機関のデータを基に「福祉・医療施設の建設費について」というレポートを公表しています。

2021年度(令和3年度)は、「平米単価は特養がやや低下も依然高止まり。保育所、病院、老健は上昇傾向が続く」とあります。レポートによると、病院の平米単価は42万円、定員1人当たり建設費は2,400万円となり、2010年度以降で最高額を記録したとのことです。前年度(2020年度)が37万円(平米単価)でしたので、約14%増という増加率です。

医療施設の平米単価の推移 前年比14%増 医療施設の平米単価は42.3万円まで上昇中

上昇の傾向は国土交通省の統計にも表れています。

1㎡当たり建築費用 2021年は約33万円/平米
1棟当たり建築面積
1棟当たり建築費用

最新事例では平米単価49万円

メディヴァの直近事例では、2020年ごろに作成した基本構想での坪単価は120万円程度(平米単価36万円)で設定していました。これはWAM公開レポート「2016~2019年度病院類型別の平米単価の平均値」の平米単価36.6万円に近いものです。ところが、基本計画作成段階で設計会社調査や他病院事例などを参照すると、坪単価が160万円程度(平米単価48万円)に上がっていました。

公開されている直近事例としては、松本市立病院の建て替え計画が進んでいますが、「松本市立病院建設基本計画(令和4年3月)」には、建設工事(病院建設工事費、外構工事費、設計、工事管理費等)として73.4億円が計上されています。180床の計画なので、1床当たり4,000万円、平米単価(延面積15,000㎡)は49万円となっています。

工事費の他にもコスト増の要因が

 工事費が上がっている理由としては、海外の住宅需要増加に伴う資材高騰、ウクライナ情勢、人件費高騰などが挙げられていますが、建設資材物価指数が2020年以降上昇傾向にあり、病院建設費は引き続き高く推移すると推測されます。

 気を付けなければいけないことは、このような物価上昇は建設費だけでなく、医療機器や情報システムの調達コスト、外部委託費も同様に上がっていき、当初計画の事業費を大幅に上回ってしまうということがあるということです。

増大する病院要望

さて、そのような状況にあっても、当社支援先でも基本計画段階になると病院要望が加速し、全室個室病棟、手術室数の増加及び将来増室エリア、外来診察室の増加、将来対応の病棟スペースの確保(当面倉庫利用)などがどんどん出てきます。

要望だけを聞くとぜいたくのように聞こえますが、医療現場の声としては当然のことでもあります。特に全室個室については看護部からも強い要望があります。

要望例理由
全室個室病棟現病院ではコロナ疑い患者を個室に入院させている。
多床室は酸素等の配管設備不足もあり、呼吸器系疾患の対応ができないため。
手術室数の増加及び将来増室エリアの確保現在の手術室数が少なく、手術枠が埋まってしまい、救急の緊急手術対応ができないため。
外来診察室の増加分散している外来機能の集約、●●科や●●外来を増やしたい。
将来対応の病棟スペースの確保当該地域では当面医療需要が増加し、回復期病床が不足するため、将来の病棟増築スペースを事前に整備したい。
病院建て替えの延べ面積が増大する理由

また、手術用ロボットが欲しいという声まで上がっています。これは現在の経営課題でもある新病院に向けた医師の確保策として、手術用ロボットを保有しておきたい、ということです。機器の有無によって医師が来る・来ないが左右されるという理由でした。

すべての病院要望を取り入れた事業の収支シミュレーションをすると、開院直後からキャッシュがない状態がずっと続くことになり、経営に与える影響はとても大きなものでした。

事業費節減にはシビアに取捨選択していくしかない

病院建設費が高騰しているからと言って、現時点でそれを補填するような施策はありません。金融機関も医療機関が返済可能な範囲でしか融資することが出来ません。事業費が適当な価格に落ち着くまで待つのも現実的ではありません。そのため、要望を見直し必要最小限にする必要があります。具体的には、既存の病院事業モデルの中で返済可能な事業費上限を算出し、その中でやりくりする基本ルールの徹底です。

例えば全室個室ではなく多床室を設け個室率を下げる、手術室は将来予測とシェア及び新病院での救急受入件数増加の基本戦略に基づき現状プラス1室とし予備エリアなし、将来病棟スペースも現時点では病院として増床の意思がないのであれば、将来必要になった段階で増築対応(ただしスペースは設計時に考慮)するなどです。

コンストラクション・マネジメント会社の採用も

また、設計や施工の発注方式を見直す必要もあります。中小の民間病院では設計から施工まで決まった業者さんに設計施工一括発注することがあります。病院の建て替えには、普段の病院運営とは別に事務的負担が増えるので、まとめて外部委託してしまえば負担軽減になります。一方で、コスト面で十分に検討が出来ないまま、設計・施工が進んでしまうこともあります。そこで、病院と設計・施工会社の他に、第三者による中立的立場から設計者と施工者の役割分担や意見調整を行い、コスト・品質・スケジュールをマネジメントする機能としてコンストラクション・マネジメント会社の採用も考えられます。

参考:独立行政法人福祉医療機構「2021年度(令和3年度)福祉・医療施設の建設費について」
   国土交通省「建築着工統計調査」
   松本市立病院建設基本計画
   一般社団法人日本コンストラクション・マネジメント協会
   小松大介「病院経営の教科書」

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