2022/09/30/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

オンライン発熱外来の実践から見る運用のポイントとメリット

コンサルタント 加藤真道

日本では類をみないサービスである、検査キット・処方薬の当日配送を可能としたオンライン発熱外来サービスを運営しましたので、報告いたします。

1.新型コロナウイルス感染症(第7波)の医療機関への大きな影響

 2022年7月から8月にかけて新型コロナウイルスの感染者数が拡大し、医療機関では発熱者やかぜ様症状の患者に対応しきれない状況が続きました(いわゆる第7波)。特に発熱外来を実施しているクリニックでは待合室が発熱患者で溢れかえる状況で、新たに来院された患者の診察を断らざるを得ないケースも出るほどでした。
多くのメディアで報道されたように、医療現場では一日に診療可能な患者数の限界を超える日が続き、各医療機関や地方自治体では新たな対策がないかと日々もがいている状況でした。

2.オンライン発熱外来の誕生のきっかけ

 支援先のAクリニックでは、春先から検討を重ねていたオンライン診療を強化する施策を進めている状況でした。対象を急性期疾患とすることは、薬の当日配送のハードルが高いことや様々な検査等ができないことから実施が困難と考え、主に慢性疾患を対象としたオンライン診療を計画していました。7月には慢性疾患の患者を対象にオンライン診療をプレオープンし、運用上の課題への対策を模索している状況でした。しかしこの時期は、対面での発熱外来の患者受け入れが連日限界を超えており、その対策が急務となったため、方針を変更して発熱患者へのオンライン診療について検討を始めました。
 上記の方針変更には、地域単位で医療機関に受診できない患者が発生している状況を目の当たりにしたことも関係しています。オンライン発熱外来の検討を開始したのと同時期に、地方自治体から発熱外来の患者受け入れ施策の相談が入りました。当該地区の保健所への発熱関連相談が一日500件を超えており、またそのうち医療機関を受診できないとの相談が100件を超えていましたが、受け入れ可能な医療機関を紹介することが不可能な状況でした。
発熱患者が医療機関に受診できる環境を整えることは、もはや一医療機関の課題から地域単位の課題へと波及しており、対応が急務な状況でした。上記の背景から、一日あたりに診療可能な患者数を大きく増加させた「オンライン発熱外来」の検討を開始しました。

3.発熱外来をオンラインで実施するためのポイント

 急性期疾患をオンラインで実施する上で下記3つのポイントをクリアする必要があると考え、対応策をそれぞれ検討しました。

(ア) 予約~会計までオンライン上で完結
 強い症状が出ている患者が簡単に診察を受けられるよう、可能な限り登録作業を簡略化し、またすべての作業を患者宅で実施できるように設計をしました。オンライン診療システムを提供している企業と連携し、システムに予約機能、会計機能を搭載させ、見やすい・使いやすいUIを目指して改修を繰り返し、直感的に利用できるようにしました。その結果、登録作業等の煩雑さによるドロップアウトを防ぐために、一つシステムの利用で予約から会計まで完結できるようにしました。
 
(イ) 検査未実施の方には検査キットを当日配送
 新型コロナウイルス抗原検査キットは個人での入手が困難な状況であったため、当院で流通を確保し、検査キットが手に入らない方への配送サービスを実施しました。予約を受けた後に、早ければ当日のうちに患者がキットを受け取れるよう配送業者と調整を行い、実現しました。

(ウ) 院内処方で当日配送を実現
 急性期症状への薬剤は出来るだけ早く患者の手元に届ける必要があるため、当日到着の配送ができるよう配送業者と調整しました。処方薬に関して、解熱鎮痛剤や去痰剤等への流通状況を見越した先手の対応や、また配送の効率を上げる観点から、処方薬セットを作成し、院内からの配送としました。患者の状態によって処方セットでは対応できない場合は院外処方での対応とし、薬局と連携を深めながら当日配送を実現しました。

4.オンライン発熱外来の実績

 8月10日から9月2日の期間で当院のオンライン発熱外来を受診した患者総数は1,589件(うち、陽性者1,294名)で、多いときは一日あたり160人を超えるほどでした。当該地区の保健所が抱えていた医療機関への紹介困難例は7月には一日あたり100件ほどありましたが、オンライン診療開始後に30件弱まで減少しました。これは下記の表にもある通り、20~50代の若い患者がオンライン診療を受診することで対面診療を実施する施設に余力が生まれ、特に対面診療が必要とされる高齢患者が必要な診療を受けられる体制に寄与した可能性があると考えます。
 また受診者からは「断られ続けた中で診察を受けることができて、非常にうれしかった」、「当日に薬を届けてもらって非常に助かった」などの感謝の言葉が寄せられました。

5.オンライン診療のメリット

 当院のオンライン診療の構想初期では、急性期疾患を診ることの難しさや、患者の基礎疾患情報等の把握などのリスクマネジメントの観点、処方薬・処方日数に関わるルールなどの様々な制限から、急性期疾患を対象外としていましたが、今回の経験により、急性期疾患への対応は不可能ではないことが分かりました。そして、オンライン診療には、わずかな投資で早期に診療キャパシティの拡大と患者のアクセス確保を行えるなど、下記のようなメリットを確認できました。

  • 対面診療と比較して場所や広さの制限が少なく、診療ラインの増設がしやすい
  • 医師の在宅勤務が可能で採用条件を広げられる
  • 患者は診療から医薬品の受け取りまでを全て自宅で完結できるため、来院を避けたい患者(今回は感染対策として)に適している
  • 隙間時間に利用できる、院内での拘束時間がないなどの理由から、忙しい働き盛りの世代が利用しやすい

またご存じかとは思いますが、下記のデメリットがあることは念頭に置く必要があります。

  • 聴診や触診などの診察ができないため、対面診療よりも診察の精度が落ちる可能性がある
  • レントゲンや採血等の検査ができないため、診ることのできる疾患に制限がある
  • 急変時の処置対応ができないため、他院紹介などの急変時の対応を検討しておく必要がある
  • ITリテラシーが低い患者層の受診が困難になる  

現在当社へのオンライン診療に関する相談が増えており、さらなるオンライン診療の可能性に関して引き続き検討していきます。