2022/09/28/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

事務部門の業務改善について

コンサルタント 小坂 優介

1.はじめに

医療機関が質の高い医療を提供するうえで、事務部門の役割は重要なものです。医師・看護師・薬剤師などの専門職が医療行為に専念できるように、付随する事務的作業のサポートから、経営の管理、労働環境の整備など様々な役割を担う必要があります。

ただその性質上、業務が多岐にわたり、またイレギュラーな業務も多く煩雑化しやすい面があると思います。今回は病院の事務部門における業務改善の進め方と、押さえておきたいポイントを、実例を交えてご紹介します。

2.業務の棚卸、全体の見える化

業務改善を始めるにあたって、まずは業務の棚卸を行う必要があります。具体的には、業務内容や、誰が業務を行っているか、どのくらい業務を行っているか、などを見える化します。本稿ではヒアリングと業務視察によって調査する手法を掘り下げてご説明します。

まずは対象部署の職員にヒアリングを行います。ヒアリングでは、1)どんな業務を担当しているか、2)その中で負担に感じている、または時間がかかっている業務は何か、3)どうすればその問題が解決できると思うか、を聞き取るようにします。ヒアリングの順番は、はじめに部署の責任者から話を聞いて部署全体の課題(残業が多い、人材が定着しないなど)を聞いてから、一般職員の業務について深堀していきます。できる限りスタッフ全員に話を聞くのが望ましいです。

次に実際の業務を視察し、細かな作業の流れを確認します。最優先で見るべきなのは、ヒアリングで職員本人が負担に感じていると答えた業務です。また、非効率的だが本人が気づいていないもしくは慣れてしまっている業務は、ヒアリングでは聞きとれない可能性があるため、そのような業務がないかも確認します。

それではヒアリングの際のポイントを3つに分けてご説明します。

① ヒアリングの意図と目的をあらかじめ伝えること
なぜヒアリングをするのか、最終目的は何であるかを説明しておくことで、聞かれる方も心構えができますし、自分が知りたい情報をより聞き出しやすくなると思います。

② 分かったふりをしないこと
ヒアリングをする際、相手の時間を取るのが申し訳ないという気持ちから本当は聞きたいことが聞けない、または相手に気を遣うあまり何を言っているか分からない(なんとなくしか分からない)のに相槌を打ってしまいがちです。そうすると理解が中途半端になり、後の段階で支障が出てきてしまいます。仮に自分がその分野に精通していなかったとしても、「知識が浅いので一から教えてください」という姿勢で質問することで、相手も端折らずに説明してくれると思います。

③ 現場の職員からも意見や解決案を拾い上げる
ただ業務について質問をするだけでなく、現場の方の考えを教えてもらうことも非常に重要です。その業務について一番知っているのは担当する職員なので、その方なりの意見や解決案を聞き出すことができれば、解決策を考えるうえで大いに参考になると思います。ヒアリング中にこうすれば解決できるのではないかと思いつくことがあれば、その場で質問して意見を聞くようにしましょう。

3.課題の整理と解決方法策定

次に、ヒアリングと業務視察を通して認識した課題を整理し、解決方法を策定します。はじめに部署が抱える課題の中で優先して改善すべき業務を選択します。大小さまざまな課題が出てくるかと思いますが、そのすべてを解決することは難しいので、優先順位をつけて改善インパクトの大きい課題から取り組むことが重要です。

次に個々の課題について解決方法を検討します。ここではフレームワークを用いて考えることで、課題が整理しやすくなります。業務改善のためのフレームワークはいくつか存在しますが、本稿ではECRSというフレームワークをご紹介します。ECRSとは、Eliminate(取り除く)、Combine(結合する)・Rearrange(組み替える)・Simplify(単純化する)の頭文字を並べたものです。業務改善の効果は、E(排除する)が最も大きく、C(結合する)、R(組み替える)、S(単純化する)の順に小さくなっていきます。したがって、棚卸した業務を「なくすことができないか」、「1つにまとめられないか」、「順序や場所などを入れ替えることで、効率が向上しないか」、「より単純にできないか」の順で検討し、改善策を考えていきます。下表のような形式でまとめることで、改善すべき業務と解決策が整理できます。

4.解決策の実行、モニタリング

3.で整理した課題について、検討した方法で本当に改善が可能なのか、担当者とすり合わせを行います。担当者のオペレーションを変えるだけで解決する問題であれば良いのですが、多くの場合は、部署内や他部署の職員が何かしら関わってくると思われます。そのような課題を解決するためには労力を費やしますし、人間関係や部署間の関係性も絡んでくるため、当事者から声を上げて解決していくことが難しい場合があります。そのため管理職または横ぐしを刺せる立場にある人から解決策を提案・指示することが重要です。

解決策を提案・指示したら終わりではなく、実際に業務改善が進んでいるかを経過観察することも重要です。現場職員に任せたままにすると、結局は改善が進まずに費やした時間と労力が無駄になってしまうというケースに陥りがちです。担当者と定期的にコミュニケーションをとりながら、その後の状況を必ず追いかけるようにしましょう。

例として、私が携わった病院で経験した事例をいくつかご紹介します。

「廃止」の例:ある病院の事務部では、終業前に各部署の代表者が部長のデスクに来て、一日の業務報告をすることが習慣になっていました。しかし、実際は特別に報告することはほとんどなく、形骸化していたため、この報告業務は「廃止」し、何かあったときはメールや電話で報告するようルール化しました。

「結合」の例:総務課では採用活動を行う職員が2名おり、採用する職種によって担当者を分けつつ他の業務もそれぞれ行っていましたが、採用業務のみを担当する職員を1名に統一しました(業務の「結合」)。採用業務は、外部業者や院内各部署と連絡・日程調整をすることが多いですが、窓口が統一されたことで連絡がスムーズになり、業務効率も上がりました。一方で、業務を分けるということはその業務が属人化して、担当者の不在時に対応できなかったり、退職時の引継ぎが十分にできなかったりする可能性があります。ある程度は業務を分担して効率化しながらも、定期的に業務ローテーションをするなど、属人化しない仕組みづくりが必要です。

「組み換え」の例:ある病院では医事課→経理課→人事課の順で報告資料が回っていましたが、実際は経理課で資料を確認する必要がなく、ただ過去からの習慣で経理課が間に入っているということがわかりました。この場合は医事課から人事課へ直接資料を送るように報告の流れを「組み換え」ることで経理課の業務を削減することができました。

「単純化」の例:医事課では毎月、経営会議の資料作成のために医事コンからデータを抽出しグラフを作成していましたが、中には看護部や地域連携室で既にデータを集計しているものがありました。このデータを各部署からもらうことで、データ抽出の手間が省かれ、業務の「単純化」ができました。

他にも、病院には「システム化」によって作業効率を上げられる業務がたくさんあると思います。支援先の病院では稟議申請、決裁を電子化したことにより、申請書を提出する、申請書を次に回す、紛失した申請書を探す、といった手間がなくなりましたし、申請がどこまで進んでいるかを確認することも容易になり、大幅に作業時間を短縮できました。

5.おわりに

ここまで事務部における業務改善の進め方とポイントをご説明してきました。日々忙しいと感じている職員からにとっては、業務改善に協力する際は一時的に通常業務が止まってしまうことになるため面倒臭さを感じることと思います。しかし現場の協力なしでは業務改善は進められないので、改善の目的や必要性をよく説明し職員の理解と協力を得て巻き込んでいくことが肝心です。

当社ではこうした定性的アプローチだけでなく、病棟看護師や看護助手、リハビリテーション等の各スタッフの業務時間を測定する「MIERU]というアプリを使ったアプローチも併用しています。詳しくはこちらをご覧ください。