株式会社メディヴァ

REPORT

現場レポート

22.07.28 thu

医療・ヘルスケア事業の現場から

円滑な電子カルテシステム導入のためにキーパーソンが意識するポイント

コンサルタント 福田 浩之

1.はじめに

医療を取り巻くICT化の流れは日々加速しており、診療報酬改定でもサイバーセキュリティ対策やバックアップ体制の構築等、ICT関連の文言が追加されたことは印象的です。

医療機関におけるICT化の身近な例として、電子カルテシステム(以下、電子カルテ)導入が挙げられますが、中小病院においては半数以上が未導入という状況であり、これから導入準備を始める医療機関も多いのではないでしょうか。弊社は電子カルテ導入を支援する会社ではありませんが、筆者の前職での電子カルテ導入と更新の経験および、弊社支援先での実行支援の中で、電子カルテ導入に尽力する支援先の姿を見てきた結果、円滑な電子カルテ導入をする医療機関には共通の特徴が、そうでない医療機関には陥りやすい落とし穴があると気付きました。

2.円滑な導入を進める医療機関の特徴

 経営者、診療現場の皆様は多くの課題意識を持っています。電子カルテ導入の目的は、生産性向上、医療安全強化、採用活動促進、データ管理体制構築等が多い印象です。電子カルテは製品毎の特徴や機能差があるため、導入目的に合った製品選定ができたとしても一定の制約下で費用も考慮しながら導入する必要があります。そのために議論を繰り返していく訳ですが、多職種スタッフ間で様々な想いや考えがぶつかり合うため、全体を管理し、各事案を取りまとめて進行していく「キーパーソン」の存在が必要不可欠です。円滑な導入ができた医療機関の共通の特徴は、キーパーソンが配置され、導入チームがサポートするという組織体制の確立があげられます。そして、キーパーソンには「役割」があり、その役割を理解して動くことが最大のポイントとなります。

3.キーパーソンの「役割」

まず、キーパーソンは次の職種の方が多い傾向にあります。
・事務職員(事務長、システム担当者など)
・メディカルスタッフ(機械に慣れた技師、運用に詳しい看護師など)

重要となる「役割」は、大きく分けて3つあります。
①進捗と課題を整理・把握する舵取り役
②想い、考え、運用などを理解して伝える通訳役
③導入費用を抑えるブレーキ役

運用については、導入チームと検討しますが、各事案はキーパーソンが上記役割を意識して進めることが重要です。

4.医療機関が陥りやすい落とし穴

 弊社支援先では、キーパーソンが適切に配置され、前述した役割を理解して導入を進めた支援先、その役割の不足によって多くの混乱が生じた支援先がありました。ここでは、キーパーソンになる方にご注意頂きたい、陥りやすい3つの落とし穴について実例を交えてご紹介します。

【舵取り役の落とし穴:遅れている本当の理由は?】

 進捗管理は重要です。遅れや問題の有無をメーカーと定期的に確認することは円滑な導入のために必要ですが、その場の状況確認だけではなく、遅れや問題の理由を慎重に深堀していくことが重要です。

【実例】

状況:月1回のメーカーとの進捗確認で、ある部署の運用決めの遅延を確認。メーカーが当該部署長に確認しても改善なし。キーパーソンが部署長と協議。
結果:部署長が作業を理解しておらず、お互い再説明と質問を繰り返すものの、いつも理解できていない状況を改善しないまま、話し合いを中断していたことが判明。
改善点:進捗は2週間程度で確認することをご提案します。その期間程度であれば遅れもリカバーしやすいです。また、メーカーと現場職員の打ち合わせ初回にキーパーソンは極力参加し、相性の良し悪しを判断しておくとリスクヘッジにもなります。

【通訳役の落とし穴: 抽象的な表現に注意】

医療専門職、事務職、メーカー担当者にはそれぞれの知識があり、それぞれの解釈があります。重要事項を抽象的な表現でやり取りすると、結果があらぬ方向に進むこともありますので、情報を伝える際は相手が理解しやすい具体例と表現を用い、双方の理解に齟齬がないか確認することが望ましいです。

【実例】

状況:医師から「わかりやすい」オーダー項目の設定依頼があり、メーカーが検討。メーカーは他施設での使用実績がある内容で設定。
結果:他施設特有の表現や解釈が混乱を生み、支援先での誤入力を誘発し、会計処理にも影響が発生。
改善点:「わかりやすい」は人の感覚です。オーダー項目のように重要な内容は、表現を都度確認しながら検討することをご提案します。本事例のようになると修正や手戻り作業が大量となり、余計な労力が必要となります。

【ブレーキ役の落とし穴:本当の課題は何か?】

 問に対して、できる、できない、の回答があります。答える側はどこまでできないのかという視点があり、問う側はどこまでできれば良いのかという視点で課題の本質の理解が求められます。できない、を言葉通り受け取るだけではなく、本質を理解することで新たな費用の可能性を抑えることが重要です。

【実例】

状況:ある部署の改善要望は、標準の電子カルテ機能で対応できないとメーカーに回答された。改善のためにカスタマイズ前提で話を進め、数百万円の追加費用が検討され、経営者相談まで発展。
結果:改善要望とメーカー回答の深堀をした結果、標準機能による100%の改善はできないものの手作業を併用すれば改善可能なことが判明。
改善点:できない、を鵜呑みせずに、まず深堀して確認することをご提案します。ここまではできる、ここまではできなくて良いという可能性が置き去りにされているケースは少なくありません。課題の本質を見極めるためにも、本当は何ができれば良いのかを考えることが重要です。

このように注意すべきは、電子カルテの機能に関わるシステム的なものよりも、実はコミュニケーションや言葉の解釈という単純なものなのです。混乱のない電子カルテ導入は難しいと思いますが、前述したポイントや落とし穴を意識し、スタッフ全体で電子カルテ導入の目的を共有して取り組むことで、円滑な導入が近づくと言えます。

5.さいごに

 電子カルテ導入のために意識するポイントを説明しましたが、昨今の医療情勢から電子カルテ自体の在り方も変わってきているように感じます。今後の地域医療ニーズに柔軟に対応するためには、現在のような電子カルテメーカーだけがカスタマイズ可能な環境ではなく、様々なメーカーや企業が低コストで自由に機能を付加できるように電子カルテAPIが開放され、システム以外の様々な機器との接続、または医療機関間のシステム連携が容易に行える必要があると考えます。更に、それらのデータが可視化されることで新たに生まれる発想が医療DXの発展に寄与していくものだと考えます。

 急速にICTが進化していく医療業界において、弊社もその動きに対応しながら、医療現場の皆様のお力になれるよう努めていきたいと思っております。