2017/06/21/水
医療・ヘルスケア事業の現場から
株式会社メディヴァ コンサルティング事業部長 小松大介
目次
マスコミや当該医療法人のホームページ等でリリースされていますが、当社は、医療法人誠広会の民事再生にあたり、スポンサーとして経営支援をさせていただくことになりました。
誠広会は昭和45年に岐阜市黒野地区にて平野医院を開業し、その後、平野総合病院の設立、岐阜中央病院の設立を続けて、現在は病院2箇所、老人保健施設1箇所と介護事業所3箇所を手がける岐阜県を代表する医療・介護グループです。新病院建設時等における多額の負債の返済目処がたたず民事再生を選択されたのですが、岐阜の代表的な医療機関であること、また関連法人として看護学校や社会福祉法人もあることから、経営の再生が必須のグループとなっています。
当社として、誠広会の再生をご支援することで、継続的な医療・介護の提供と従業員の雇用維持を行い、地域に貢献することを強く意識してスポンサーの名乗りを上げさせていただきました。再生の道筋作りはこれからになりますが、できるだけ迅速な再生を目指して精一杯尽力してまいります。
ここでまず、当社の病院経営再生の取り組みについて簡潔に説明させていただきます。当社の病院経営再生の実績は、10年以上・50件以上となります。病院経営再生と一口に申しましても、実際の再生手法は様々です。主たる手法は次のとおりです。
(1)業務改善
(2)資産売却
(3)私的整理やDDS
(4)民事再生
一時的な売上減等により赤字に転落した病院の経営改善です。財務上深刻な状況では無いため、資金繰りや資産等には大きく手を付けず、患者確保のための施策や施設基準の変更、コストカット等を組みあわせて早期の黒字化を目指します。
また業績が厳しい時こそ金融機関との関係強化は大事になるため、実現可能性の高い事業計画策定、定期的な情報共有としてのバンクミーティングの開催、返済条件の変更交渉等を通じて、業績改善までの時間を稼ぐことも行っています。
赤字とはいかなくても、借入金の返済が重くて資金繰りに苦しんでいる病院の場合に用いる手法です。遊休資産があればそれを売却して返済にあてるのはシンプルですが、将来の移転や買取を視野に入れながら、活用中の施設(病棟、駐車場、社員寮)を売却し、一時的に賃貸借で乗り切る場合もあります。
ただし気をつけなければならないのは、資産売却は一時的に財務や資金繰りを改善するだけで、将来にわたっての継続的な経営改善は必須であるということです。あくまで時間稼ぎの一つになります。
赤字が長年続き、債務超過に陥ってしまったり、それによって新規の資金調達が不可能となってしまっている場合、金融機関との調整によって私的整理やDDSを実行します。
私的整理の場合は、金融機関と相対で一定の経営責任等を示しつつ、借入金の減免を行います。DDSの場合は、一定期間(5年程度)、一部の債務を資本勘定に劣後し金、金利も抑えた形で据え置く手法になります。ただし、DDSの場合は私的整理と異なり、将来(10年後)には劣後した債務が復活しますので、こちらも時間稼ぎの一つとなり、継続的な業務改善が必須です。
また金融機関経由で私的整理を相談すると、手法の一つとしてREVIC(地域経済活性化支援機構)の活用を進められることが多いです。REVIC自体は期間限定法人のため、現時点では今年で新規取組を停止する予定ですが、継続して似たような政府系組織が出てくる。
病院の再生手法として最近増えてきているのが、民事再生という法的な再生スキームです。民事再生申し立てとともにそれまでの資産と債権が保全され、以後、裁判所の管理下におかれながら資産査定や再生計画等を進めていきます。
裁判所が入るコトで、資産査定や再生計画が公に認可され、それにもとづいて一定の債権カットや経営者責任が果たされます。この手法のポイントは、申し立て後も通常通りの営業を続けることができ、顧客(患者)や従業員に大きな迷惑をかけずに進められます。当然、銀行を始めとした債権者は厳しい立場におかれますが、できるかぎりの弁済をおこないつつ、地域医療を守るために徐々に協力関係に転じていただけることが多いです。
以上が、病院経営再生における主たる手法となります。経営に与えるインパクトや銀行との関係上も、できる限り業務改善や資産売却のレベルで再生をはかることが前提にはなりますし、実際、過去の7-8割の案件は業務改善と資産売却で再生の道筋をつけることができました。
とはいえ、それでも長年の経営不振によって復活できないほど財務が傷んでいるケースは少なくなく、その場合は、やむを得ず私的整理、DDS、民事再生といった手法を検討することになります。こうした手法は非常に厳しい交渉ややり取りが発生しますが、それでも関係者の同意が得られて道筋ができると、継続した医療・介護の提供や雇用の維持が守られるため、経営再生の手法としてはありえる考え方になります。
執筆者:小松大介│Daisuke KOMATSU
株式会社メディヴァ 取締役。神奈川県出身。東京大学教養学部大学院修了。 広域システム専攻。人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任、コンサルティング事業部長。100か所以上のクリニック新規開業・経営支援、150箇以上の病院コンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。