株式会社メディヴァ

REPORT

現場レポート

22.02.28 mon

医療・ヘルスケア事業の現場から

組織の戦略と価値観・組織文化

コンサルタント 益田 晃

よく「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」という考え方でどちらが良いかの議論がありますが、この場はどちらが良いかについては置いたとして、いずれにせよ戦略と組織の2つが整合していることが何より重要だと考えます。

今回は、病院などの医療機関でも戦略と組織の打ち手が整合しないためにうまくいかなかった事例を見ていきたいと思います。

組織を分析する際、マッキンゼーの7Sはよく使われる考え方ですが、これは以下のようにハードの3つのSとソフトの4つのSの視点で組織を分析していくものです。

ハードの3S

・戦略(Strategy):競争優位性を維持するための事業の方向性
・組織構造(Structure):組織の形態や構造
・システム(System):人事評価や報酬、情報の流れ、会計制度など、組織の仕組み

ソフトの4S

・共通理念・価値観(Shared Value):社員で共通認識を持つ会社の価値観
・人材(Staff):社員や経営者など個々の人材の能力
・組織能力(Skills):営業力、技術力、マーケティング力など組織に備わっている能力
・スタイル(Style):社風や、組織の文化

それぞれの特徴

ハードS:経営者の意思や努力で短期間に変更可能

ソフトS:従業員全体の意識や行動に根差しているため慣性が強く、短期間では変更不可能

この7Sの視点で分析した時に、以下の2つの事例はハードSとソフトSが整合していないことが、上手く組織が機能しない一つの原因であることが見えてきました。

事例① すぐに変更可能なハードSのみを変え続け、ソフトSの結果は伴わず職員の不信感を一層募らせてしまった事例

病院や介護施設などを持つ大きな法人で、利益は出ていたものの、経営陣に対する現場の不信感や閉塞感が募っている法人がありました。経営陣はそれらの不信感や現場の保守的な風土を問題視していました。

7Sの視点で現場職員にヒアリングを行ったところ、戦略や組織構造がコロコロ変わることから悪循環が生まれていることが推察されました。

経営陣としては、ミドルマネージャーとなる各部署の部長陣を変え組織図(Structure)を変更すれば、すぐに結果が出る(上手く現場スタッフの不満や閉塞感を解消し、前向きで積極的にチャレンジをする組織になる)と考えていたのだと思いますが、各部署のトップを変えたからと言ってすぐに組織が変わっていくわけではありません。

特に、人事が変わった初期は現場から不満が出やすいものですが、経営陣はその不満の声を現場から拾い上げ、1年もたたないうちに、「成果が出ない、現場からの不満の声が多い」という理由で着任したばかりのミドルマネージャーを交代していました。

そのようなことが繰り返されることで、現場から「ようやく○○さんのことがよく分かってきた、○○さんは頑張ってくれていた」と認識され始めた状況で組織構造ががらりと変わり、「なぜ○○さんが変わるのか理解できない、この組織は役職につくとすぐ飛ばされるから誰も役職につきたがらない」という意見が出ていました。

その結果、ソフトのSである人材(Staff)を育てようにも長い目で育てられる環境ではなく、社風・風土(Style)の面でも、頑張ろうともがいている人が役職を交代させられるという職員の体験から、組織全体に保守的な雰囲気が蔓延するようになったと考えられます。

役職人事などの組織構造は経営陣からすればすぐに変えられるため、変更に伴って人材や社風などもすぐに変えて成果に繋げたいと考えるかもしれませんが、人の意識や行動を変えていくためには長い目で取り組み続ける必要があると再認識させられた事例でした。

また、今回は評価制度などのシステム(System)は目指すべき方向に変更されておらず、積極的な人材を求める割にそのような人材は評価されないという点も問題でした。

この点からも、変えようとする組織の方向に7Sを整合させて様々な施策を打っていくことが、組織を大きく変えるには重要となることが示唆されます。

この事例であれば、現場に求める人材像を明示し、それを実現しているような人材(もしくはそのような人材をサポートできる人材)を部長に据えた上で、求める人材像が評価される制度(System)に変更する。これらのハードSを固めた上で、求める人材像となるための行動目標をスタッフレベルで落とし込み、地道に人材教育(Staff)をしていくことが必要だったと考えます。これを全員が意識して取り組んでいくことで、社風(Style)として習慣化していき、組織能力(Skills)と呼べるまでに変わっていくのだと思います。

事例② ソフトSを活かせるハードSを設計できなかった事例

 循環器の強い急性期病院において、院長のパワー不足が原因で優秀な現場医師を統率できなかった病院があります。

こちらの病院は、特に循環器が有名な病院でしたが、今後がんにも注力し科同士の連係を強め、その他整形領域にも注力をすることを目指していました。複数の病院を持つ大きな法人であり、理事長の権限が大きい組織でしたが、新しい院長を置いて病院の改革を進めようとしました。

しかし、それぞれの医局は統率されているものの、医局同士の連携となると全くうまくいかない状況でした。

その理由として、院長が行おうとしていることが現場に理解されていないことや、院長の指示に職員はあまり従わない、院長自身も職員に対して強い指示をできておらず、トップダウンが効いていない組織となっていることが見えてきました。

この原因を深堀していくと、院長に評価・報酬・採用の権限が少なく、それらの多くを現場にいない理事長が持っているため、現場職員も院長とコミュニケーションをとる必要性がなく、理事長の言うことだけを聞けば良いと感じていることが分かってきました。

この事例からは、現場で良い人材(Staff)が揃っており、それぞれ専門性の高い医局を持つ組織(Skills)だとしても、戦略に従って職員がついてくるように制度(System)を設計し運用していかなければ、上手く組織は回らないと考えさせられました。

理事長は自分が権限を持っていたい、院長に好き勝手されたくない、現場は優秀だから院長が機能しなくても組織は回る、と考えて院長の裁量権を少なくしたのだと推察されますが、

現場の運営を理事長自身で行わないのであれば、もっと院長の指示が通るよう裁量権(System)を与えたり、院長をサポートする人材を側近に置いたりする(Structure)などを行い、院長中心の病院作りをしていけば良かったと思います。

終わりに

 病院の経営改善となると、数字の部分に直結する所に手を付けがちですが、問題が起きている根本的な原因は、長年培ってきた価値観や社風から生まれてきているのではないかと感じることも多く、すぐに結果には結びつかないかもしれませんが、組織文化に対する改善施策を打ち出しても良いかもしれません。

特に、大きく戦略を変えて物事を進めようとする場合は、これまで上手くいっていた組織でも7Sの整合が崩れ、ひずみが生じやすくなるのだと思います。

自院はこれまでの組織文化で過去も成功してきた、という成功体験を持っていると変更することは難しいですが、時代の流れとともに外部環境が変わり、組織の変革が必要になった際には、7Sの視点で改めて組織分析することも良い機会だと考えます。

これを機に、自院の戦略や価値観・組織文化を考えてみるきっかけとなれば幸いです。