2022/02/01/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

クリニックで大規模ワクチン接種を実施するためには?

コンサルティング事業部 コンサルタント 山田翔太

はじめに

2020年の1月15日に、国内初の新型コロナウイルス感染者が確認され、瞬く間に日本国全土に感染は広まり、医療機関だけでなく社会情勢を大きく変えるパンデミックとなりました。2021年8月には、都内だけでも新規感染者数が5,000人を超える日が続き、第5波と呼ばれる感染拡大を乗り越え、感染縮小の兆しが見えたものの、2022年1月10日を堺に都内や各地で感染者数が急激に増加し始め、国内でも3回目ワクチン接種の推進が始まりました。そこで本稿では、感染拡大防止の一助になったであろう、診療所における大規模ワクチン接種に焦点を置き、今後3回目のワクチン接種が全国的に進められることも視野に入れ、実際に運営した私自身の経験談を踏まえて円滑に大規模ワクチン接種を行う方法を述べていきます。

新型コロナウイルスワクチン接種の接種方法

当初は高齢者や基礎疾患患者が優先的に接種され、現在では日本国内のワクチン必要回数接種者数が78%を超えています。これまでに行われてきた主なワクチン接種方法は以下のようになっております。

[主な接種方法(場所)]
・市町村自治体の集団ワクチン接種会場(各自治体で予約し、地域の実施会場で接種)
・各医療機関(個々の医療機関もしくは自治体経由で予約し、各医療機関で接種)
・職域接種(企業、大学など団体ごとに会場や医療従事者を確保し、接種)

医療機関で大規模ワクチン接種を行うメリットとは

前述したように、新型コロナウイルスワクチン接種を行う方法(場所)として、主に3つ挙げられますが、今回は「医療機関」における接種のメリットについて述べていきます。医療機関でワクチン接種を行う場合、通常の営業時間と並行して行ってしまうと、少人数を分散させながら接種する必要が出てくるかと思います。しかしながら、今回の新型コロナウイルスワクチン接種では、いくつかの加算が設けられており、大人数に接種、なおかつ時間外もしくは休日に接種を行うことで利益が見込まれます。下図では、今回の診療所におけるワクチン接種に対する主な加算内容が示されています。

上図に記載されているように、時間外もしくは休日に接種を行った際の加算に加えて、100回もしくは150回以上の接種を超える週が4週間以上ある場合の加算が追加されるため、診療所で新型コロナウイルスワクチン接種を行う場合、時間外・休日に大規模接種を行う際のメリットが大きいことがわかります。

◯地域医療機関におけるワクチン接種収益最大化について

本稿では、私が運営支援させて頂いている診療所(以下当院)での経験を基に、診療所における接種実態について述べていきます。前述した支援策のうち、診療所が最も収益最大化を図ることができるのは、「休日接種150回を4週間行う」場合になります。

上の表では、極端な例にはなりますが、①平日営業時間内に12人ずつ接種を行う場合と、②休診日に集団接種(300人)を行った場合に分け、粗利益でどれほどの差が生じるのかを表にしています。平日営業時間内に行う場合は、コスト(人件費)は0円とし、休日の集団接種の場合は、当院で集団接種を行った際に実際に発生したコストでそれぞれの場合における粗利益を算出しています。表から分かるように、営業時間内に少人数ずつ接種を行うよりも、集団接種(300人)を週1回、4週間以上行った方が総収益に大きな差が生じ、接種回数に伴う支援加算が無かったとしても、休日加算があるだけで総収益は大きく変わるため、営業時間内に少人数ずつ接種を行うよりも休日に大規模接種として行うほうが最終収益は大きくなります。

診療所における大規模接種の難しさ

前述したように、休日加算と接種回数に伴う加算が大きく収益に係る事を示しましたが、実際に診療所が大規模接種を行うためには「多大な労力と人件費」を伴います。加えて、当院ではデイサービスを併設していたため、短い時間内で多くの接種を行うことが出来るスペースを設けることができましたが、実際には「時間的・空間的制約」が多く孕んでいる事業であると実感しました。

また、今回の新型コロナウイルスワクチン接種において、特に大きな人件費となるのが「事務」スタッフでした。当院では、問診する医師は1名、看護師は2名+見守り誘導2名、充填薬剤師1-2名体制で20名/15分間のペースで接種を行ったのですが、事務スタッフに関しては平均8名体制が必須となりました。

今回の接種において、予診票および接種券が自治体から個人に配布されており、ワクチンのロッドシール貼り付け作業や各種事務作業に加えて、円滑な接種体制を維持するためには最低でもこの人数が必要となります。当院の人件費詳細については、医師が16,000円/時、看護師・薬剤師が5,000円/時、事務が4,000円/時としていたのですが、休日に合計約300人/2時間のペースで接種を行った場合、これだけの人件費を費やしたとしても休日加算+接種回数に伴う加算が入る場合、売上総利益は大きく黒字となります。

そのため、診療所において新型コロナウイルスワクチン接種を行う場合は、人件費を気にするよりも当日の接種運営体制を盤石にし、週4回以上の150回以上休日にワクチン接種を行う形が望ましいと考えられます。

診療所で大規模接種を円滑に進めるための知恵

ここで、当院における大規模接種で取り入れたいくつかの工夫を紹介します。

1つは、「待ち時間の有効活用」です。新型コロナウイルスワクチン接種では、接種後15分から30分間の見守り時間が義務付けられます。前述したように、個々人に配布されている予診票や接種券に係る事務作業をこの見守り時間後に行ってしまうと、退出のための長蛇の列が出来てしまいます。当院では、接種者の見守り時間前に予診票と接種券を回収しておくことで、見守り終了した接種者がスムーズに退院できる体制を作ることに成功しました。これによって、業務分担も明確になり、「多大な労力と人件費」、「時間的・空間的制約」が大きく解消されます。

2つ目は、「スプレッドシートを用いたワクチン在庫の共有化」です。これは接種現場の裏側の話になりますが、当院で使用したファイザー製の新型コロナウイルスワクチンは1瓶で6人分接種が可能なのですが、開封してシリンジに分注後6時間が消費期限とされております。ワクチンの供給に限りがある中で廃棄を出すことは確実に避けるため、事前のロッド番号管理と使用するワクチン量の確認が非常に重要となります。そのために、当院の薬剤師と協力しながら大規模接種後のワクチン使用状況と残っているロッド番号などを毎週確認し、必要最低限のワクチンを発注できるようにすることで、当院のワクチン廃棄量は数本であったと記憶しております。このように、いくつかのちょっとした工夫、仕組みを整えることが来院された方の安全と安心にも繋がり、なおかつ効率的な接種運営が可能となることでスタッフの業務負担軽減にもなります。

まとめ

現在(12月19日現在)、新たな変異株が世界各国で流行しつつある中で、新型コロナウイルスワクチン接種は国内でも3回目実施が議題に上がり始め、実際に医療関係者や高齢者など自治体によっては接種を進め始めています。3回目のワクチン接種に関しても国は前述した加算や支援体制は継続する意向を示しているため、今後ワクチンの供給量にもよるとは思いますが、多くの医療機関がワクチン接種実施に手を挙げると考えられます。今回の接種実施体制のノウハウや、加算を上手に上乗せする知識を活用しながら、私自身も支援先の診療所で引き続き運営支援に邁進するつもりではありますが、1番は地域住民のニーズに医療機関スタッフ全体として貢献できる良い機会であると感じましたので、またスタッフ一丸となって地域医療に貢献できる日々を楽しんでいきたいと思っております。