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2026/09/18/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

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「18歳の壁」のその先へ 医療的ケアが必要な方の暮らしを支えるグループホームの開設に向けて

【執筆】コンサルタント武内・小林/【監修】取締役 小松大介

医療的ケア児者の現状と法制度

(1)現状

医療的ケア児者とは、日常的に人工呼吸器の使用、胃ろう・腸ろう、痰の吸引などの医療的ケアが必要な子どもや成人を指します。医学の進歩により、かつては救うことが難しかった命が救われるようになり、医療的ケアを受けながら地域で暮らす人が増えています。こども家庭庁によると、18歳未満の医療的ケア児は2025年時点で2万人を超えると推計され、2008年と比較して約2倍に増加しています1。在宅の医療的ケア児は、NICU等を退院した後、主に家族による医療的ケアを受けながら生活しています。 

(2)支援法の制定と改正

2021年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケア児への支援は、家庭だけではなく社会全体で支えるものとして位置付けられました。学校や保育所等への看護師等の配置、医療・保健・福祉・教育等の連携、相談体制の整備など、必要な支援は徐々に整備されてきました。

一方で、この法律は18歳未満の「児」を対象としており、成人はカバーされていません。18歳になると、それまで利用していた児童福祉サービスは利用できなくなり、成人向けの障害福祉サービスに移行することになりますが、医療的ケア者を受け入れているサービスはごくわずかであるという課題があり、「18歳の壁」と言われています。 

このような背景から、本年(2026年)7月には、この法律の支援対象を成人や重症心身障害者に拡大する等の改正が行われました(法律名:医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」、2027年4月1日施行予定)。 

この法改正により、成人の医療的ケア者が利用できるサービスの整備も徐々に進むことが期待されますが、中でも生活の場・居場所となるグループホームの整備は最優先の課題です。在宅で支えてきた家族の高齢化も進む中、受け皿となるグループホームへのニーズは今後ますます高まると想定されます。

メディヴァの取組

現在、西日本のA市において、医療的ケア対応のグループホームの開設に向けた支援を行っています。取組途中のプロジェクトではありますが、開設実現に向けたメディヴァの取組内容をご紹介します。

(1)グループホーム開設検討の背景

A市の在宅の重度障害児者向け支援を手がける事業者様が、「目の前の人に幸せになってもらいたい」という強い想いで行う日々の支援の中で、地域における医療的ケア対応の受け皿不足を痛感され、グループホーム開設に向けた検討を開始することとなりました。

(2)取組状況と事業化に向けたアプローチ

医療的ケア対応のグループホームは、24時間体制の手厚い看護配置に必要なコストに対し、現行の障害福祉サービス報酬だけでは不足しがちな点や、近年の建築コスト高騰といった構造的な課題があり、全国的にも開設事例が少ない、先進的な取り組みとなります。そのため、先行施設との意見交換を通じたノウハウ収集を進めつつ、事業者様の想いを行政要件や経営計画といった具体的な事業の実現へ落とし込む伴走支援を実施しています。

こうした医療的ケア対応グループホームの事業化に向けた検討において最初に着手すべきが、自治体固有の要件整理です。障害福祉サービスの指定権限は自治体にあり、建築・消防基準や人員配置のローカルルール、独自補助金の有無など行政ごとに適用条件が大きく異なるため、国の共通基準を満たすだけでは開設に至らないリスクがあるためです。

そこで第一段階として、国の共通基準のみならずA市における具体的な開設要件を精査した上で、概算の収支シミュレーションを実施しました。

シミュレーションの結果、本事業は人件費が高くなる一方で売上が利用者数(居室数)の上限に縛られるため、大きな利益を見込みにくい構造であることが明確になりました。だからこそ当社ではその中で「事業として長期的に成り立たせる(経営の安定化)」を目指すために、以下のアプローチが本事業を成功に導く解決策であると考えています。

  1. 収入の適正化・安定化に向けた入居者像の明確化
    医療的ケアに対応するためには、グループホームの中でもより重度な利用者を想定し、24時間の支援ニーズに対応した類型である「日中サービス支援型グループホーム」の設置が望まれます。日中サービス支援型グループホームでは、利用者が日中どこで過ごすかによって国から支払われる基本報酬単価が変わり、入居者が「一日中グループホームで過ごす場合」に比べて、「日中をグループホーム以外で過ごす場合」は約30%低く設定されています。

    例:障害支援区分6、世話人5:1の場合
    ・一日中ホームで過ごす場合:997単位
    ・日中を当該ホーム以外で過ごす場合:765単位

    この報酬体系は、利用者本位の質の高いケアを追求する事業所が、しっかりと安定して運営を続けられるように支えるための仕組みと言えます。もちろん、過ごし方を決めるのはあくまで利用者本人であり、事業所の都合で外部利用を制限することはできません。だからこそ大切なのは、「ここに一日いたい」と自然に選んでいただける環境づくりです。

    明確なターゲット設定(年齢・疾患・入居経緯など)のもと、「退屈せず快適に過ごせる日中支援プログラム」と「安心できる住環境」を丁寧に整えていくことで、利用者が心から満足され、その結果として健全な運営基盤が築かれていくことにつながります。

  2. 持続可能な収益性の確保に向けた自治体運営費補助費等の活用
    医療的ケア対応のグループホームでは、一般的なグループホームと比較して、看護師を中心とした手厚い配置が必要ですが、 (2)で述べたように、これを障害報酬だけでまかなうことは難しい状況にあります。

    このため、重度障害者向けグループホームに対して、独自に運営費補助を行っている自治体があります。医療的ケア対応のグループホームの開設にあたっては、開設予定自治体における既存補助制度の有無の調査はもちろん、制度がない場合には必要性を提示しながら制度化・補助の要請・要望を行うなど、行政との戦略的な連携構築が不可欠となります。

    <自治体独自に行われているグループホーム向け運営費補助の例>
    兵庫県:看護職員の人件費として、利用者1人当たり、
    ・定員10名の場合 2.5万円/人・月​
    ・定員20名以上の場合 7.3万円/人・月  等

    横浜市:介護支援加算(利用者の支援に要する人件費)、介護運営基本費(入居者の援助に要する経費)、建物借上加算 等

    福岡市:生活支援員等の配置に係る人件費として、重度障がい者1人あたり最大810,000円/年
  3. 支出(初期投資・賃料コスト)の抑制に向けた既存物件の活用
    経営面での支出を最小化するため、物件確保のあり方も重要なアプローチとなります。近年の建設コスト上昇に鑑みると、建物の新規建設に限定せず、賃貸物件や既存建物のリノベーション活用を軸とすることで、初期投資および将来的な賃料固定費の大幅な削減を目指すことが可能です。

まとめ

東京商工リサーチの調査によると、2026年上半期における障害福祉サービス事業者の倒産件数は33件に達し、過去15年で最多となりました。報酬改定の影響や物価高騰、人材不足など、現場を取り巻く環境はこれまで以上に厳しくなっています。

どれほど「目の前の人に幸せになってほしい」という温かい想いや切実な社会的意義のある事業でも、経営が破綻してしまえば、利用者様やご家族の安心な暮らしも守り抜くことはできません。
だからこそ当社では、今回の取り組みにおいて「想い」と「経営の安定性」の両立を強く意識しています。

本プロジェクトは今後さらに検討を深め、本格的な調整等を行っていくことになります。構造的な課題に対しても既存の枠組みにとらわれず、未来に必要な形を模索するアプローチを大切に、「一人ひとりが安心してその人らしく暮らせる場所の創出」を実現し、地域社会に不可欠な存在となるよう、引き続きご支援してまいります。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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