2026/07/17/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
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【執筆】コンサルタント眞部/【監修】取締役 小松大介
目次
弊社がご支援に入る際、「過去に経営方針や事業計画を立てて改善を進めようとしたことはあるが、実行段階で頓挫してしまった」というお声をよく伺います。
医療機関の経営改善が進まない最大の理由は、「正しい戦略(あるべき姿)がないから」ではありません。決まった戦略を、多職種がひしめく「複雑な医療現場で形にする」ということが難しいからです。
どれほど正確な数字が並んだ改善提案書も、現場が動かなければ絵に描いた餅にすぎません。本記事では、提案だけで終わらせず、医療機関の皆様と共に現場を動かす弊社の実行支援について、その具体的な手法とステップを詳しく解説します。
皆様が抱かれるコンサルへの一般的なイメージは、「あるべき姿の提案(現状分析と戦略提案)」ではないでしょうか。
「収益を改善する為には、病床稼働率を〇%にし、〇〇加算を取得する必要がある。その為に、〇件紹介患者数を獲得する為に地域連携活動を強化する。加算が取れるような体制を整備する」という改善提案をすることは重要です。しかし、医療現場は医師、看護師、コメディカル、事務職など、それぞれ独自の専門性と価値観を持ったプロフェッショナルがひしめいています。方針を示すだけでは、日々の診療など優先すべき業務がある現場においては、新たな取り組みへのハードルは高く、組織は硬直してしまいます。
弊社のコンサルタントが行う「実行支援」は、提案の先にある「多職種を巻き込み、実際に現場に深く入り込み、組織を動かす伴走」に本質があります。
【一般的なコンサルのイメージ】 経営層に「何をすべきか(What)」を提案
【実行支援のコンサル】 現場へ入り込み、「何を(What)+どうやって実現するか(How)」を一緒に悩み、調整し、実行
実行支援とは、単なる助言や指導ではありません。病院の理念や方針を現場の皆様へ理解していただいた上で「日々の業務」へと落とし込み、組織の行動そのものを変える支援です。
実行支援の最終的な目的は、コンサルタントが支援に入り続けることではありません。「コンサルタントが去った後も、医療機関が自らの力で課題を発見し、部署を超えて協調し、自走して実行できる組織(風土)を作ること」にあります。
この目的を達成するため、私たちは以下の「4つのフェーズ・7つのステップ」に沿って、段階的に組織へ介入していきます。

プロジェクトの成否は、この「事前調整」で決まります。現場の皆様へ目的を浸透させ、コンサルタントとの信頼関係を構築する期間です。
①下準備
院内のキーパーソン(医師、看護部長、中堅リーダーなど)と個別に面談を行い、「実は何に困っているか」を徹底的にヒアリングし数字上からは見えない組織の課題を抽出します。
その課題を踏まえ、改善の方針や取組みを決定します。
また、必要に応じ、現場の不満や疑問に客観的に答える為、稼働実績や業務フローの可視化も同時に進めます。
②現場への説明(キーパーソンの巻き込み)
なぜこの取り組みが必要なのかという「目的」を、経営上の数字だけでなく、現場の言葉に言い換えて伝えます。
「収益を改善するため」だけではなく、「職員がより働きやすい病院にするため」「地域の患者様に選ばれ、地域医療に貢献し続けていくため」という、職員の目線に立った丁寧な説明をします。その上で、キーパーソンとして推進派になってもらうための個別アプローチを行い、気軽に相談しても良いのだという安心感をもっていただける関係性を構築していきます。
決定した方針を、誰が見ても迷わない具体的なタスクへと落とし込む期間です。
③改善施策の実行
「地域連携を強化する」といった抽象的な目標のままでは現場は動けません。「誰が、いつまでに、どの医療機関へ、どのような目的でどのようなツールを持って訪問するのか」までタスクを具体化しなければなりません。
その為に、管理職が参加する会議やベッドコントロール会議の再整備を進め、ファシリテートを行い、検討を進め、実行に移します。
新しい施策を実行すると、多くの場合、現場の不満や予期せぬトラブルが発生します。ここからが実行支援の真骨頂です。
④進捗の確認
定期的な会議体(管理職会議やベッドコントロール会議など)をファシリテーションし、決まったタスクの進捗を客観的にチェックします。上手く進んでいなければ、誰かを責めるのではなく、「どこがボトルネックか」を参加者全員で共有します。
⑤状況に応じた修正
現場の運用の実態に合わないルールや、一部の職員からの強い反発などが生じた場合、計画に固執せず柔軟に修正します。「長年培われた性質」を変えるのではなく、「組織としてのルールや仕組み」を現場に合わせて微調整することが大切です。
⑥再実行
修正した計画で再度アプローチをかけます。小さな成功体験を現場と積み重ねることで、職員のなかに「自分たちの行動で組織が変わった」という自信が芽生えていきます。
コンサルタントが徐々に手を引き、病院の自走力を確認する仕上げの期間です。
⑦見守り(自走化)
院内のメンバー主体でPDCAサイクルが回るよう、コンサルタントは一歩引いた位置から見守ります。会議のファシリテートやタスク管理も徐々に院内スタッフへ移譲し、必要な時にだけ助言を行う黒衣に徹します。
病床数:300床未満
機能:急性期・慢性期の精神科病院
長年、理事長のトップダウン経営で成り立ってきた医療法人。時代の変化とともに慢性的な赤字に陥り、組織には「現場主体で動く」という風土が生まれにくい状況でした。弊社が実行支援で段階的に支援、単なる数値改善(病床単価向上)に留まらず、現場のキーパーソンを巻き込みながら職員が自ら考え、行動するボトムアップ組織へと変化した事例を前述の流れに沿ってご紹介します。
【フェーズA:事前調整・合意形成期】
①下準備
まずは、経営状況について理事長へ正しく現状認識をしていただけるよう働きかけました。現在の経営状態では、数年後に病院運営が非常に厳しくなる可能性があることを丁寧に説明し、3年後に黒字化を達成する事業計画を作成。
その後、この事業計画を基にした経営方針や達成に向けた改善施策に関する職員説明会を開催しました。改善施策の大きな柱として精神科医療が入院治療から地域生活への移行という大きな方針転換がなされる中、求められる役割に応じた在院日数のコントロールによる「病棟単価向上」の重要性について説明し、理解を促しました。
②現場への説明(キーパーソンの巻き込み)
同院では、患者様やご家族の「できる限り長く入院をさせて欲しい」という希望を尊重するあまり、退院支援を積極的に行わず平均在院日数が長期化していたことが課題となっていました。患者様やご家族は安心できる反面、病床単価が下がり経営悪化の大きな要因となっていたのです。この方針を見直し、地域生活への移行を支援する体制への段階的な転換の必要性を職員の皆様に正しく理解していただく必要がありました。
職員説明会後に、部署長や常勤医師などのキーパーソン20名以上へヒアリングを実施しました。説明会の受け止めや自院の強み・弱みをお一人お一人から伺いながら、「収益改善のためにベッドの回転率を上げ、単価を向上する」という経営上の目的だけではなく、「治療を必要とされない患者様を生活の場である地域へお返しする」という精神科医療に求められる本来の役割を丁寧に説明しました。
患者様の経済的負担を心配される方や、「最期までお世話をしてくれる病院」という従来のイメージを払拭するのは困難だと考える方がいる一方、「退院支援を進めることで職員の専門性が向上し、地域貢献ができる」と前向きに捉えて下さる方もいました。
その後、経営陣と部署長が参加する会議を整備し、弊社もファシリテーターとして参加しました。会議内でも、退院支援への方針転換に対し疑問の声は上がりましたが、1つ1つの意見に対し丁寧にお答えしながら、弊社から繰り返し必要性を説明。理事長からも病院の方針として退院支援を進めることを改めて発信していただきました。
これまでは単にトップダウンで組織が動いていましたが、現場の意見を踏まえつつも、経営者として理事長が取り組むべき理由を説明した上で決断を下すという「あるべき姿」を示して下さった場面でした。
【フェーズB:実行期】
③改善施策の実行
「退院支援を促進する」と言っても、誰が何をするかルールもない状況でした。そのため、地域連携室のソーシャルワーカーの皆様と共に、入院直後からの退院支援をフローとして整理・どの職種がどのタイミングで支援に関わるのか、どのような説明を患者様やご家族へ行うのか明文化し、退院支援の枠組みを整備しました。各担当者へ退院支援を行う意義について繰り返し丁寧に説明し、協力を働きかけていきました。
【フェーズC:定着期】
④進捗の確認
入院時に医師より退院支援に関する説明を行い、早期よりソーシャルワーカーが介入する流れができました。退院を見据えたリハビリ計画が作成され、リハビリ職だけではなく、病棟看護師も離床を促すなど、病院全体で取り組みが始まりました。
開始から3ヶ月が経過した頃には、これまで行われなかった「お試し外泊」が病棟看護師の発案で実施される等、前向きな変化が生まれ、毎月の会議で進捗を共有してもらうようになりました。この時点ではまだ単価の上昇など目に見える成果は出ていませんでしたが、進捗を全員で確認することで、一歩一歩前に進んでいることを実感できるよう会議体の見直しも進めました。
⑤状況に応じた修正
取組み開始から4ヶ月目、退院者が増え地域生活の橋渡しができていることに「やりがいを感じる」との声が上がる一方、新たな壁に直面しました。退院支援に積極的な医師と、長期入院を容認する医師との間で意識の差が生まれ、現場のソーシャルワーカーが板挟みになってしまったのです。
現場の担当者が医師へ直接意見するのは難しいと判断し、弊社が会議の場をコントロールする形で話し合いの場を設けました。患者様やご家族への配慮を前提としつつも、「適切な退院支援を行わない場合の医業収益へのマイナス影響」を客観的な数値で示しました。医師によっては、完全に納得とまではいかない方もおられましたが、最終的には病院の方針を共通認識として再確認することができました。
役職や職種によっては、客観的な数字を前面にだしてご説明をした方が納得を得られるケースもあります。「決まったことだから実行すべき」と頑なに進めるのではなく、協力を得られるよう皆様の考えを尊重しながら、次のアクションに繋げていく働きかけが重要になります。
⑥再実行
6ヶ月が経過した頃より、医業収益が目に見えて改善をしてきました。退院支援による単価向上だけではなく、収益改善を意識した計画値以上の病床稼働や、自発的な費用削減努力等、複合的な要因が実を結んだ結果です。取組みが確実に実を結んでいることへ謝意をお伝えし、引き続き協力いただけるよう働きかけを続けました。
この頃になると新規入院患者様だけではなく、既存の入院患者様へも退院支援の取組みが広がり、地域の介護事業所や他の医療機関からの当院に対するイメージも変化していくのを感じるようになりました。職員の皆様も退院支援による業務負担も感じつつも、「やりがい」を口にされる意見が多くなり、成果を実感していただけるようになりました。
【フェーズD:伴走期】
⑦見守り(自走化)
業績は計画値を越える水準まで向上し、実行支援開始から1年が経過したタイミングで、再度職員説明会を開催しました。事業計画値を達成し、後半の半年間は単月黒字を維持するなど好調な状況ではありましたが、次年度に向けて引き続き退院支援や各改善施策に取り組んでいただくことへの理解を求めました。
そこで驚く変化がありました。前回の職員説明会とは比べられない程、参加される職員の皆様から活発な意見が上がったのです。
「収益黒字化には更に〇〇の取り組みが必要だと思う。」「すぐには難しいだろうが、職員確保の為の待遇改善を進めてほしい」など、以前はトップダウンの風土が染みつき、発言を躊躇していた方が大半だった組織が、自発的に意見を発信できるボトムアップ型の組織へ変化した瞬間でした。
2年目以降も引き続き支援をさせていただいているものの、現場への直接的な実行支援のフェーズは終了し、現在では一歩引いた視点で見守りながら、適宜アドバイスをさせていただくフェーズへ移行しています。
今回の実行支援で特に意識した点は、経営陣・現場どちらにも偏りすぎず第三者の立場として職員の皆様の1つ1つの意見に丁寧に向き合うことでした。資金や人員には限りがある為、すべての意見が通るわけではないことは職員の皆様も理解されています。現場の思いを丁寧に汲み取りながらも、データや他院事例等の客観的な根拠を揃え、理事長に客観的な判断を下していただき、その理由や優先順位を会議等できちんとフィードバックする仕組みを構築しました。
このように組織の意思決定フローの客観性・透明性を高めると、職員の皆様の多くが納得感を持って働いて下さるようになります。ただし、こうした組織変革は内部の力だけでは進めることが難しい部分でもあり、弊社の実行支援を有効にご活用いただいた成果だと考えています。
実行支援は、単なる「作業の代行」ではありません。
第三者であるコンサルタントが深く現場に入り込み、改善策が定着するまで、皆さまと対話を重ねながら伴走する。それが組織を変えることにつながります。組織が変われば、医療の質が上がり、結果として経営も健全化し、将来にわたって地域医療を支え続けられる持続可能な体制構築につながります。
これこそが医療機関にとって実行支援コンサルの「費用」が「投資」である証左です。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他