現場レポート

2025/03/06/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

開業・リフォーム時の工事費抑制方法

【執筆】コンサルタント 酒井/【監修】取締役 小松大介

はじめに

昨今、建築費の高騰でお悩みの事業主様からのご相談が多くなっています。
実際に新棟建て替えが必要な施設でも、建築費高騰により計画が停止になるような事例も増えてきています。今回は、そのような情勢の中で開業時やリフォーム時にどのような工事費抑制方法があるかご紹介します。

建築工事費の推移

国土交通省の公表しているデフレーター指数によると、2015年を基準として2024年10月時点で27%の上昇率となっています。

出典:国土交通省「建築工事費デフレーター」


鉄や木材の材料費高騰や円安の進行も大きな要因となっていますが、中でも職人の労務単価の高騰が顕著です。労務単価については、2015年を基準として41.5%もの上昇となっていて、2024年の上昇率は過去最大の5.9%であり、12年連続の上昇となっています。

出典:国土交通省「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について」


労務単価上昇の流れは今後も継続されると見込まれ、建築費高騰のトレンドはしばらく持続するものと考えられます。
このような背景から、10年前と同水準の価格帯で建築することは非常に困難であると言えます。では現在の状況で建築を進める場合にどうしたら良いのでしょうか。次項からは検討すべき項目や削減の方法についてご紹介していきます。

施設形態ごとの検討事項

新たに施設を建築する場合、構造種別によって工事費は異なります。

出典:国土交通省「建築着工統計調査

統計資料によると、1㎡あたり単価が木造では20.4万円に対し、RC造の場合は31.4万円と、11万円の差となっています。統計データは規模別で分類されてないため注意が必要ですが、構造種別による差は大きいため適切な判断が必要です。

一方テナントやモールに入居する場合、構造躯体にかかる費用は削減できますが、工事区分に注意が必要です。



特に注意が必要なのがB工事です。B工事は業者の選定が建物の所有者となり、発注と費用負担が入居者となります。業者が所有者の指定業者となるため競争原理が働かず、減額交渉が難しいケースが多いです。したがって契約前に、各工事内容を上記区分に分類した「工事区分表」をしっかりと確認することが重要です。

設計事務所選定

設計事務所の選定は、建築規模の大小にかかわらず重要です。
多くの場合はコンペ形式での見積取得となるかと思われますが、提案内容の良し悪しだけでなく、下記の視点での判断も必要です。

  1. レスポンスのスピード感…多くの場合工程に余裕はないため、同意形成がスムーズであることが望ましいです。
  2. 医療施設に関する理解度…診療科によって必要設備や室の広さ、電源の位置等が変わってくるため、経験と理解度がある設計事務所が有利です。
  3. 工事費削減案の提案力…妥当な積算をベースに、こうしたらいくら減額できるといった提案の引き出しをどれだけ持っているかは大きな判断基準となります。

これらを判断するために、見積条件の整理が必要になってきます。
特に工事費については、予定額×0.8~0.9程度の価格を限度額として記載し、その価格で工事するためにどういうことができるかの提案を求めると良いでしょう。基本的には、追加工事が発生して予定よりも金額が高くなるケースがかなり多いので、金額が上振れることも想定して予定することが大切です。

また上記の他、設計事務所の業務形態にも注意が必要です。

A設計事務所が自社で施工も請け負う
B設計事務所が抱えている協力業者が施工する
C設計事務所と別の施工業者に施工を依頼する

設計と施工については、上記3パターンが上げられます。中でもAの場合は、コストコントロールがしやすく、費用も抑えられるケースが多いですが、工事費用については不透明になりがちなので注意が必要です。Bの場合は、施工はスムーズに行えるケースが多いですが、こちらもA同様に工事費用については不透明なことが多いです。Cの場合、複数社に見積依頼をすることで競争原理が働くため、工事費用を安く抑えられるケースが多いですが、設計事務所との連携がスムーズに行えず、工事工程が延びてしまうリスクがあります。一長一短ではありますが、いずれも設計事務所に相談する段階で、どのような形態で施工されているのか確認しておくことが必要となります。

次項からは、依頼する設計事務所の選定後に考えられる費用削減策について、具体例として「材料や工法による削減」「既製品の使用による削減」「建主支給による削減」の3つをご紹介します。

材料や工法による削減

例えば壁に着目してみると、LGSという軽量鉄骨下地を組み、石膏ボードなどの壁材を張る形が一般的で広く採用されています。当然のようにこの工法が採用されるケースが多いですが、例えばスチールパーティション(一般的な事務所などで使用されるパーティションとは異なり、クロスを貼れるため見た目はLGS下地壁とほぼ変わらず施工が可能)を用いた工法を採用することで、壁の施工期間を短縮することが可能です。つまりは高騰している人件費を削減することにつながります。デメリットとして、切断を要する工事の際にとても大きな音が発生するなどが挙げられますが、将来リフォーム時に同じ壁を再利用できるなど、施工時のコスト削減以外のメリットも存在します。

このように材料や工法を見直すことで、一定のコスト削減効果をあげられる可能性が高いです。一方で、見直しによるメリットデメリットもしっかりと確認したうえで施工に入ることで、「こんなはずじゃなかった」を防げるかと思います。

既製品の使用による削減

クリニックを開業する場合など、スペースに合わせて家具を製作するケースが多くありますが、工事の範囲で製作する場合、金額が高くなりがちです。見た目や使い勝手には劣りますが、あくまで機能が担保されていれば良いと割り切り、既製品の棚などを採用することで費用を抑えることが可能です。診察室のドアなども、設計案の通りのサイズで製作する場合よりも既製品を採用した場合の方が安価なケースが多いので、出来るだけ一般的なサイズ・寸法で設計を進めるなど、事前に既製品を使用することを見込んだ設計となるよう依頼すると良いでしょう。

建主支給による削減

照明や水栓などの設備類や前項で触れた家具類等やドアなどについては、建主側で購入の上材料として支給することで、材料費を抑えられるケースも多々あります。ウェブから購入することで、一般的に施工業者が仕入れるよりも安価な材料を購入できるケースが多いですが、納品されるタイミングについては注意する必要があります。工事は現場で材料の入るタイミングなども含めて管理されていますので、搬入に遅れがでると工事自体のスケジュールに影響を及ぼす可能性が高くなります。このようなリスクもあるので、建主支給として材料費を削減する場合は、設計者に工程への影響がないか、しっかりと確認・打合せしたうえで実施されるのが良いでしょう。

おわりに

工事費は事業計画上大きなウエイトを占めています。当記事で記載のように対策をとっていても、やはり昨今の価格情勢から従来の価格感での建築は非常に困難であると言えます。したがって、コスト削減と並行して事業内容の見直しなど収益力強化のための検討も推し進めることをおすすめします。

まずは相談する


監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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