現場レポート

2024/12/23/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

既存の人員体制でできる、薬剤管理指導料の算定件数増加に向けた取り組み

【執筆】コンサルタント 石川/【監修】取締役 小松大介

はじめに-服薬指導の重要性-

令和2年患者調査によると、入院の推計患者のうち、約55%が75歳以上であると報告されており、平成29年の前回調査よりも2ポイント上昇しています。また、急性期病院の入院症例では、高齢者の6~15%で薬物有害事象が報告されており、60歳未満に比べて70歳以上では、1.5~2倍の出現率となることも報告されています。
他にも、高齢患者では、認知機能低下による服薬アドヒアランスの低下、嚥下障害による服薬困難など、薬物治療上の注意点が多くあり、積極的に服薬指導を行うことで、上記リスクの軽減が期待できます。

また、施設基準を満たしている場合、服薬指導の件数を増やすことで、薬剤管理指導料の算定が可能になるという経営的メリットもあります。
薬剤管理指導料は、薬剤師の必要な人員配置を満たすことができれば算定できる可能性が高く、患者1人につき最大月4回まで算定可能なため、比較的件数を増加させやすいと考えられます。また、算定件数を増やすための新たな投資の必要性も少ないこともメリットの一つです。
今後高齢化がさらに進む中で、医療の質や経営の観点から、薬局業務の効率化、服薬指導の効率化を行い、服薬指導の件数を増やしていくことは非常に重要です。

一方で、調剤業務やその他業務に時間がかかる、服薬指導1件あたりに時間がかかるなどの理由で、十分に服薬指導ができていないケースもあります。
薬剤管理指導料を算定する体制は整備されているものの、十分に取り組めていない医療機関も多くあります。薬剤管理指導料に限らず、他の加算においても、1件の算定に時間がかかってしまい、件数を増やせないということや、様々な加算がある中で、重点的に取り組むべき項目をモニタリングしていないことで、十分な取り組みができていないということは、多くの医療機関で当てはまるのではないでしょうか。

弊社支援先では、薬剤管理指導料を算定していたものの、月6件程度と非常に少ない状況から、服薬指導の件数を増やせない原因と課題を明確にし、現場スタッフと共に重点的に取り組んだ結果、服薬指導の効率が上がり、既存の人員体制で、月55件まで増加し、収益としても年間210万円の増収となりました。

薬剤管理指導料の施設基準、算定要件

薬剤管理指導料の点数や主な施設基準、算定要件は以下の通りです。

点数
(1)特に安全管理が必要な医薬品が投薬又は注射されている患者の場合:380点
(2)(1)の患者以外の患者の場合:325点
主な施設基準
常勤の薬剤師2名以上の配置
DI室の設置(薬剤師の常時配置は不要)
薬剤管理指導記録の作成
主な算定要件
医師の同意を得て薬剤管理指導記録に基づき、薬学的管理指導(処方された薬剤の投与量、投与方法、投与速度、相互作用、重複投薬、配合変化、配合禁忌等に関する確認や、患者の状態を適宜確認することによる効果、副作用等に関する状況把握を含む。)を行った場合に週1回に限り算定
薬剤管理指導料の「1」は、投薬・注射されている患者に対して、これらの薬剤に関する、薬学的管理指導を行った場合に算定する。 ※抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、血液凝固阻止剤(内服薬に限る)、ジギタリス製剤、テオフィリン製剤、カリウム製剤(注射薬に限る)、精神神経用剤、糖尿病用剤、膵臓ホルモン剤、抗HIV薬
薬剤管理指導記録には、次の事項を記載し、最後の記入の日から最低3年間保存する。 患者の氏名、生年月日、性別、入院年月日、退院年月日、診療録の番号、投薬・注射歴、副作用歴、アレルギー歴、薬学的管理指導の内容、患者への指導及び患者からの相談事項、薬剤管理指導等の実施日、記録の作成日及びその他の事項

※算定する際には最新の施設基準、算定要件をご確認ください。

上記施設基準と算定要件より、薬剤管理指導料のポイントとしては以下の通りと考えています。

  1. 常勤薬剤師2名の配置基準を満たすことができれば、それ以外の施設基準は比較的難しいものではない。
  2. 患者1人につき週1回、最大月4回まで算定可能であるため、1人の患者に月4回算定することで、1,300点/月が算定される。
  3. 仮に患者10人に、それぞれ月4回(計40件)算定した場合、年間150万円の増収となる。
  4. 月40件の実施、すなわち1日2件程度の実施であれば、業務の負担は比較的少なく、追加の投資も必要ない可能性が高い。

支援先の事例-取り組む前の課題と対応策-

支援先の病院(ケアミックス、93床)では元々薬剤師が3.5名配置されており、薬剤管理指導料を算定していたものの、月6件程度という状況でした。薬局長にヒアリングしたところ、下記が原因で服薬管理指導ができてない状況でした。

  • それぞれの薬剤師が、空いている時間で指導に入る方針にしていたが、五月雨式に病棟からの処方箋が届くため、調剤業務に追われ、服薬指導の時間が取れない。
    • 紙カルテだったこともあり、入院患者の情報共有がうまくできておらず、どの患者に、どのような指導が必要か、情報収集に時間がかかっていた。
    • 高齢で認知機能が低い患者も多かったため、意思疎通が困難な患者に対する服薬指導への不安があった。

そこで、算定件数の目標を立て、役割分担と服薬指導の効率化を図ることで、月40件を目標に算定件数の増加を目指しました。

①目標の設定

まずは、服薬指導の件数が増えることによる医療の質と、経営的なメリットを薬局長と共有しました。

  • 当院は高齢患者も多いため、副作用の早期発見や多剤併用の解消、最適な剤型への変更など、医学的なメリットが非常に大きい
  • 薬剤管理指導料を月40件算定すると、月に13万円、年間で150万円の増収となる
  • 月40件算定するために必要な服薬指導は、1日2件であり、業務負担は比較的少ない

上記を踏まえ、服薬指導の件数の指標として、薬剤管理指導料算定件数のモニタリングを開始しました。

②業務の役割分担

支援先では、それぞれの薬剤師が空いた時間で服薬指導に入るようにしていたため、各薬剤師が様々な業務に追われて時間が無いという理由で、あまり服薬指導に入ることができていませんでした。
そこで、薬局長に服薬指導の責任を担ってもらい、他の薬剤師にはその他の調剤業務等の責任を担ってもらう形で役割分担をすることとしました。
役割分担の結果、薬局長の調剤業務の負担が減り、服薬指導に入る時間を作り出すことができました。

また、他の薬剤師も調剤業務等に専念でき、調剤業務の効率が良くなったことで、薬局業務全体が円滑に回るようになりました。

③服薬指導の効率化

支援先は紙カルテであったため、病棟に入院患者の情報を取りに行く必要があり、服薬指導の対象患者の抽出、指導内容の検討ための情報収集に時間がかかっていました。

また、認知機能が低く、意思疎通がしづらい患者も多く、そのような患者に対する服薬指導に不安があり、指導内容の検討に時間がかかっていました。

そこで、服薬指導効率化のために、以下3つの取り組みを行いました。

  1. 病棟Nsの申し送りに薬局長が参加することで、入院患者の情報を得る
  2. 新規入院患者の予定や状態を院内で共有できるスプレッドシートを作成することで、入院患者の情報を得る
  3. 同規模の病院へ、認知機能が低い患者に対する服薬指導の実施方法についてヒアリングし、取り組みを真似ることで不安を払拭する

以上の取り組みを進めることで、結果として、入院患者の情報をタイムリーに得やすくなり、対象患者や内容の検討時間が短縮されました。また、認知機能が低い患者に対しても、近隣病院の指導内容を真似ることで、薬局長の不安も払拭することができました。

上記①~③の取り組みを進めたことで、服薬指導の効率が上がり、既存の人員体制のまま、算定件数が月55件まで増加しました。

今回の取り組みにより、具体的に服薬指導1件あたりにかかる時間がどの程度削減できたかは調べることができていませんが、以前までは1日1,2件の服薬指導が目標だったところから、現在は1日5件の服薬指導が目標になっており、1件当たりの負担は確実に減少していると感じています。

まとめ

支援先では、服薬指導の効率化を図ることで、既存の人員体制のまま、薬剤管理指導料を月55件まで増加させることができ、年間210万円の増収に繋がりました。今回の取り組みは、既存の人員体制で算定件数を増加させることができたため、増収額がそのまま利益となっています。
また、服薬指導の件数が増加したことによる副作用の減少などの効果は検証できていませんが、患者さんとのコミュニケーションが増加し、医療の質改善にも確実に繋がっていると実感しています。

今回の取り組みの中で、特に重要だったことは、算定件数増加に関して現場任せにせず、件数を増やせない原因や課題、対策を、現場スタッフと一緒に考えたことだと感じています。現場スタッフと一緒に進めていくことで、前向きに取り組んでもらうことができ、スムーズに改善施策を進めていくことができました。

まずは自院で算定している加算を見直し、件数増加が見込める項目のピックアップ、件数のモニタリングをしていくとともに、何が原因で算定件数を増やせないのか、現場のスタッフと一緒に考えていくことが重要です。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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