2024/12/02/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 眞部/【監修】取締役 小松大介
目次
病院経営の安定化の為に、入院収益の向上に取り組まれている病院は多いかと思います。その際、病床稼働を上げる為に入院患者を積極的に受け入れた結果、下記のように現場へ負担をかけてしまうケースがあります。
そういったケースでは、ベッドコントロール会議の機能が発揮しきれていない、そもそも会議がないことが考えられます。
ベッドコントロール会議は、患者の入院、転棟、退院を計画的に行い、必要に応じフローの見直しや対応策を検討する病院経営にとって最も重要な病床管理の役割を果たす会議です。
今回は、ベッドコントロール会議の目的と目的を達成する手段を整理した上で、2つの支援事例をご紹介させていただきます。
ベッドコントロール会議を開催する目的は大きく2つあります。
(1)稼働向上の為の受入れ強化
(2)平均在院日数や各種施設基準等の安定的運用
この目的を掲げ多くの病院でベッドコントロール会議が行われていますが、上手く運営できず悩まれている病院も多いのではないでしょうか。
ベッドコントロール会議を目的に添った会議体へ整えていく為には、2つの手段が必要となります。
会議が数字の報告会と形骸化しているケースをよく見かけますが、参加者が議論し決定できる場でなければ意味がありません。
多職種が集い、共有された情報を基に入退院や転棟を調整する中、ボトルネックになっている点を議論し解決することで意思決定のプロセスが整っていきます。
その為にも、参加者の選定は重要なポイントであり、特に入院決定ができる医師の参加が必須となります。
参加者例
・医師(入院の決定ができる)
・看護部長
・病棟看護師長
・外来看護師長
・地域連携室
・事務長
・事務員(施設基準の管理を行っている)
そして、意思決定する為には、判断できる材料が重要です。判断材料となるように資料を整えていく中で必要な情報が見える化し、院内で共有できるようになります。
情報例
・病床推移(新規入院患者・転棟患者・退院患者の情報含み先の推移が見通せる形式)
・相談情報(相談件数と内訳、お断り・キャンセルの件数や理由)
・営業モニタリング情報(近隣の病院やクリニック、介護施設などが連携先へ求めるニーズや当院の対応への不満)
・入院基本料の施設基準(医療・看護必要度や平均在院日数など)
会議で決定しても、いざ実行してみると上手くいかないことは往々にしてあります。
例えば、入院受入を改善するとなれば、病棟看護部、外来看護部、連携室と複数の部署を跨り実行しなければならず、実行してみて初めて見える課題もあります。
担当者は明確にしながらも、進捗状況を毎回報告してもらい、上手くいかない理由があれば会議参加者全員で再検討、再実行しくことで、部署の垣根を超え病院としてPDCAサイクルを回すことに繋がります。
その為には、タスク管理表を作成し、「言いっぱなし」にならないようチェックできる仕組みも重要です。
ベッドコントロール会議で➀②の手段が定着することで、目的に添った下記のような効果が期待できます。
・受入体制の強化・・・入院相談への回答時間短縮やお断りの減少、救急対応の見直し
・病床稼働の向上・・・一般病床から回復期病床や慢性期病床への円滑な転棟
・入院単価の向上・・・一般病床での在院日数の短縮
・安定した施設基準の維持・・・重症度や医療・看護必要度、直入・在宅復帰率等の各種基準を踏まえた入院・転棟・退院等の調整
・営業戦術の見直し・・・営業先に応じた営業計画の作成と実行
それでは、実際の支援事例をご紹介させていただきます。
🔳概要紹介
病床数100床未満 病床機能:急性期病床・回復期病床
病床稼働が低迷され、弊社へ経営改善の支援依頼をいただきました。医業収益の6割強を占める入院収益が改善できるよう入院受入のフローを見直し、受入れの意思決定の場として機能するベッドコントロール会議を再整備しています。
🔳会議の導入前
入院の調整は連携室や外来看護師が個別に医師や病棟に受入れを相談、転棟は看護部長が個々の患者毎に調整、退院日も主治医と看護部長・連携室が患者や家族と個々に話し決定と担当者毎に個別で対応されている状況でした。
🔳会議未開催の理由
以前は会議を行っていたものの医師の参加はなく、参加者間での報告会と形骸化していた上、コロナ禍以降、中断されたままでした。その為、病院全体を俯瞰した計画的なベッドコントロールができず、病床稼働低迷の一因となっていました。
🔳会議の構築と進め方
会議を開催しない中、担当者個人の力量に任せた情報共有と意思決定に課題を感じ、「①スムーズな情報共有と意思決定」ができていない状況がみられ、地域連携室と病棟間での連携不足の要因になっていました。
「病院としての仕組化」ができ誰が参加しても同じような結果とできるよう弊社が主導し稼働目標の設定や参加者、会議資料を提案しファシリテーターとして週1回の定例会議として再開しました。
🔳会議の導入後
当初は「資料を揃えるだけで手一杯」「人手が足りず受け入れできない」と喧々諤々とした雰囲気で会議は進行されていました。
しかし、医師を加えた営業先でのヒアリングの内容や相談リストでキャンセル・お断りの要因を1つ1つ分析することで課題を紐解き、改善する為に取り組むべき具体策を検討し決定していきました。
例)入院決定者(医師)の選定
退院日決定者(看護部長)の選定
入院可能基準の作成
緊急入院の受入体制の整備
受入不可病床の理由の精査
施設基準の共有体制の構築
決定した内容は担当者を選定した上、タスク管理表で進捗を確認し、次回会議で報告、必要に応じた再検討という「②PDCAサイクルを回す」支援を徹底しました。
決定事項が実行されることで、相談を受ける地域連携室と入院を受ける病棟間で必要な情報が整理でき、多職種間で議論できる会議体へ徐々に変革しました。
🔳結果・現場の反応
院内でコンセンサスが得られたことで地域連携室の動きはスムーズになりました。判断基準が明確となりお断りの件数は減少、日々の入退院決定者の選定で受入判断も迅速化し病床稼働は向上していきました。
結果、3ヶ月後には損益分岐点として掲げていた目標値に到達でき、一次的に稼働が低下することはあるも、平均値では目標をクリアされ経営状態は改善していきました。
また、従来は医師へ個別に相談しながら調整していた各種施設基準を会議で共有することで、医療・看護必要度や直入割合に応じた調整ができるようになりました。
「議論をしても決めれない組織の為、会議は時間の無駄」と発言のあった参加者から「建設的な議論ができ実行できるようになり、会議が楽しみになった」と声が上がり、稼働低下時も、「季節的に仕方ない」で済ましていた以前とは異なり、「稼働を高める為の方策はないか」「営業をどのように進めたらよいか」と地域連携室を中心として、自発的に議論されるまでに参加者の意識が高まったことは大きな成果です。
🔳概要紹介
病床数100床前後 病床機能:急性期・回復期・慢性期
入院患者数の減少が続き、経営状態が悪化されていました。早急に経営の安定化を図る必要があり、収益の柱である入院収益を高める議論や決定ができるベッドコントロール会議へ再構築する為、弊社が実行支援に入りました。
🔳支援前の会議の状態
看護部長・病棟看護師長・外来看護師長や地域連携室、医事課、リハビリ部が参加し、相談患者や新規入院者の情報共有、介入の必要性を検討しながら、週間の入退院者や転棟患者の報告をされていました。
弊社からみても、参加者の意識は高く意見は活発でしたが病床稼働の推移は共有されておらず、入院患者を増やす議論は少ない症例報告を主とした会議となっていました。また、地域連携室は日常業務に追われ営業まで手が回らない状況でした。
🔳会議の改善の必要性
相談を断らないことを前提とした受入調整は既にされていました。しかし、決定権のある医師が不参加な上、相談を増やす為の営業担当者がいないことにより増患の具体策の検討ができず、抜本的な改善の決定は難しい状況でした。
加えて、救急受入の体制も不十分となっており、件数も減少傾向が続き、病院経営は厳しくなっていました。
🔳会議の見直しと進め方
病院経営を改善する為には、ベッドコントロール会議を「➀スムーズな情報共有と意思決定」ができる会議体への変革することが必要と判断しました。その為、下記のように参加者や資料を整えていきました。
・参加者・・・診療部長の医師・新たに選任した営業担当者を追加
・病床推移管理表の作成・・・目標稼働と現状の推移との差異を確認
・相談対応の精査・・・回答遅れでのキャンセル削減の為、回答迄に要した時間の分析
・入院可能基準・救急受入基準の作成・・・受入判断の迅速化と営業資料として活用
・営業計画の作成・・・ターゲットとする患者層を定めた営業の戦術化
資料が整い会議が進む中で、営業の不足を強く認識された診療部長から「新しく入局した整形外科医の診療可能な疾患や手術を近隣の開業医や施設への発信を強化することで、従来とは異なる患者層を獲得できるのでは」と発案がありました。
当の整形外科医も「手術を増やしたい」と意欲的で、新任の営業担当者の営業に医師も同行されニーズの掘り起こしをしていきました。医師の同行は、開業医・施設側の反応もよく、これまで無かった手術相談依頼も見られるようになりました
また、病院に対しては必要に応じ院長・地域連携室も同行し、関係性をより高めれるよう努めていき、救急隊へも、搬送依頼時のミスマッチを無くせるよう情報共有を進めていく等、計画的な営業を行えるようになっていきました。
🔳結果・現場からの反応
入院決定者の医師が参加したことで、「受入体制の課題の議論をできるようになり決定が早まった」との声が上がる一方、「更に営業を強化していく必要があるのでは」と声も上がるようになりました。
従来は参加者のみで回していたPDCAサイクルを、参加者の見直しや資料を整えることで病院全体を見て不足している部分を補おうという意識が高まり、病院の決定事項として実行できる組織へ変革していきました。
ベッドコントロール会議が機能することで、施設基準を安定的に維持しながら病床稼働が向上できるので、病院経営の安定化が期待できます。
その為には、先ずはベッドコントロールの会議体を整える為に、下記の3点を行って下さい。
結果として、病院としての対応力の強化も図れていきます。
本稿を最後まで読んで下さり誠にありがとうございます。こちらの内容が皆様の病院経営におけるベッドコントロール会議に少しでもお役に立てれば幸いです。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他