現場レポート

2024/06/24/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

メディヴァの海外現地調査支援:サウジアラビアでの事例を踏まえて

【執筆】コンサルタント 木内/【監修】代表取締役社長 大石佳能子

メディヴァの海外現地調査支援の概要

弊社では、ヘルスケア分野における海外現地調査を支援しています。政策立案、新規事業創出、事業展開のための情報収集と分析を行い、現地の文化や背景を考慮しながら、多角的な視点でヘルスケア分野の動向やニーズを把握します。デスクトップ調査に加え、政府・自治体、医療機関、企業などの現地キープレイヤーへのインタビューを行い、より具体的で最新の情報を収集します。

メディヴァの海外調査の特徴

下記の3つがメディヴァの海外調査の特徴だと自負しています。

トータルコーディネーション
弊社の調査は、クライアントの相談を受けながら、調査の企画・設計、調査実施、アウトプットまで一貫して支援するトータルコーディネーションを行います。これにより、調査の品質を保ちながら、クライアントのニーズに合った結果を提供します

高品質なモデレーター
調査のモデレータは医療職や医療分野に詳しいコンサルンタントが実施します。英語や中国語、ベトナム語による現地関係者とのコミュニケーションが可能で、ヘルスケア分野での多面的な視点を持つモデレーターが調査をリードし、質の高い分析を行います。これにより、現地の状況を的確に把握し、適切なアドバイスを提供します。

洞察に富んだアウトプット
収集したデータを基に、現地の医療セクターへの理解を元に分析を行い、現地のヘルスケア分野の動向やニーズを明確に示し、クライアントが効果的な戦略を立案することが可能になります。

事例紹介:サウジアラビアの医療実状調査

調査の背景

サウジアラビアは中東地域最大の人口を有し、変革と近代化を進めています。2016年に「サウジ・ビジョン2030」を発表し、経済の多様化、原油依存度の削減、競争力強化を目指しています。ヘルスケアはその主要セクターの一つであり、国民の健康寿命の延伸と医療サービスの向上が求められています。

サウジアラビア保健省(医療・ヘルスケアに関わる政策立案する政府機関)

調査手法と対象

調査では、政府・自治体、医療機関、企業など17の組織・個人とのインタビューを調整し、実施することで、現地の医療現状を把握しました。また、公開データを用いたデスクトップ調査も併用し、多面的な視点から分析を行いました。

サウジアラビア保健省での面談の様子

調査から見えてきたこと

「サウジ・ビジョン2030」の達成目標が共通した道標

ムハンマド皇太子の強力なリーダーシップのもち、「サウジ・ビジョン2030」の目標達成に向かって改革が進んでいます。ヘルスケア分野においても、医療サービスの質向上と効率化、健康なライフスタイルの推進、予防医療の推進、民間セクターの参入促進、デジタル化などが主なテーマとして示され、細かな達成目標が設定されています。今回話をした政府関係者は共通してこの達成目標につながる成果を求めており、達成目標と結びついた事業や研究の提案が求められています。政府機関に対して製品やサービスを提案する際には、「サウジ・ビジョン2030」の方向性に合致していて、具体的な成果として可視化できることが鍵となるでしょう。

特徴のある疾患・死因傾向

サウジアラビアの人口は増加傾向にあり、若年層が多くを占めています。ただ高齢化の進行も見込まれ、将来的な医療需要の増加が予測されています。また感染症から非感染症への死因の移行が進んでおり、肥満や糖尿病などの生活習慣病の予防と治療が喫緊の課題となっています。さらに交通事故死が依然として多く、死因の上位に来る傾向が続いています。これまでヘルスケア分野の課題として捉えられてはいませんでしたが、予防可能であり、寿命延伸の目標に直接影響するので、交通事故死を減らすことには大きなニーズがあると考えられます。

医療セクターにおける制度改革

「サウジ・ビジョン2030」とともに様々な制度改革が進行中であり、これまでとは異なる対象への働きかけや対応が求められてきています。主な改革に保健省の役割の変化、クラスター化、国民健康保険制度拡充の3つが挙げられます。

保健省の役割の変化
保健省は、これまでヘルスケア分野において全権(規制監督局、医療サービス提供者、医療費支払者)を担っていました。今後、保健省は規制監督局の役割に特化し、機能を分離することで、ガバナンスを強化し、役割と責任の明確化の促進を目指しています。

クラスター化
保健省がこれまで主に担ってきた医療サービス提供者の役割は民営化され、クラスターと呼ばれる地域の中核医療機関を中心とした単位へ移行していきます。例えば、今回現地でヒアリングをしたカスィーム州のクラスター4は、180万人の人口をカバーし、21の病院、120のプライマリケアのクリニックから構成されています。クラスターは全国に20あり、運営上の自治権を持つ独立した医療サービス提供ネットワークを構築し、地域の予算配分、医療機器調達、人事などの意思決定を行います。また、各クラスターには地域の課題やニーズに合わせてKPIが設定されており、これらを達成していくことが求められていきます。
クラスター化によりこれまでより意思決定の期間が大幅に短縮されると同時に、医療機器や医療資材、医薬品の調達のプロセスも変化します。さらに製品やサービスが、マネジメントや運営において全体の適正化に働くかどうかが注目されており、例えば、放射線などの部門全体、病院全体、地域の医療サービス全体などの適正化につながることが見える踏み込んだ提案が求められています。

国民健康保険制度拡充
これまで公的医療機関は無料で受診できましたが、国民健康保険制度の導入が進められています。現在は外国人と民間企業に勤めるサウジ人まで義務化が進んでいます。政府はこれを公的機関に勤務するサウジ人まで拡大することを目指しています。これにより、医療費適正化と民間医療機関利用促進を狙っています。

デジタルヘルスに対する大きな期待

今回の調査を通して感じられたのは、病床管理等の業務効率化、医療資源偏在解消のための遠隔医療、膨大なデータの自動分析などを担うデジタルヘルスに対する興味・関心と期待の大きさです。

病床管理等の業務効率化
サウジアラビアでは、国民当たりの病床数の不足と医療人材の不足など医療インフラ上の課題があります。加えて、公的医療機関においては無料で受診可能のため医療の過剰利用とそれによる待ち時間の増大、民間医療機関は今後の国民健康保険適用の拡大による受診者増に対する対応の必要性などがあり、テクノロジーを活用した業務効率化は注目されています。例えば、キング・ファイサル・スペシャリスト病院・研究センター では、2022年よりキャパシティ・コマンド・センターを本格運用しており、病院内における受付から退院までの患者フローで、ボトルネックになっている部分を可視化すると共に、救急外来の患者数予想を行うことで人員配置の最適化を行っています。実際、2022年は前年に比べ患者数が20%程度増加した一方で待ち時間は減少したなどの効果が出ているとのことです。

キング・ファイサル・スペシャリスト病院・研究センター のキャパシティ・コマンド・センター

医療資源偏在解消のための遠隔医療
サウジアラビアでは、医療機関や医療人材の都市部の集中が見られ、医療資源の偏在が課題としてあります。地理的な制約を克服し、地方や遠隔地の住民にも必要な医療サービスにタイミングよくアクセスできる環境構築の一環として、遠隔医療テクノロジーの導入に力を入れています。例えば、世界で2番目に大きい「SEHAバーチャルホスピタル_は、保健省傘下にあり、サウジアラビア国内の170の病院に対し、遠隔病理や遠隔読影、遠隔ICUなど15の専門領域及び34以上のサブ専門領域において遠隔医療サービスを提供し、年間40万人以上の患者へサービスを提供できる体制を整えています。継続的に機能の拡大、改善を進めており、デジタルヘルス領域での新しい試みの募集及び実装に向けた検討を行っています。

膨大なデータの自動分析
「サウジ・ビジョン2030」を契機にデジタルヘルス製品の開発と実装が活発化され、新型コロナウイルスのパンデミックでその傾向がさらに加速しています。保健省により開発されたアプリ「Sehatty」は、オンライン診療の実施や対面診療の予約、デジタル処方箋の受け取りだけでなく、妊婦向けの情報管理システムや、デジタル保険証の機能なども備えています。パンデミック時にはワクチン接種の予約を同アプリを通じて受け付けたことでユーザー数が爆発的に増え、現在ではサウジアラビアの人口とほぼ同数が利用しています。これらを含めて、膨大なデータを収集する基盤は整備されており、そのデータを分析して活用する領域に対して大きなニーズがあります。

サウジアラビアへの事業進出における課題

今回の調査で明らかになったこれらの課題は、サウジアラビア以外の国へ進出する際に共通して直面する課題としても参考になります。

各種規制への対応

海外で事業展開する場合、現地の規制に合わせた薬事承認やビジネスライセンスの取得、現地法人の設立等が必要です。サウジアラビアにおいては、現地に地域統括会社(RHQ)を有しない外国企業は政府および関係機関との契約行為ができなくなるという市場参入条件を伴う外資誘致政策が発表されています。

キーパーソンとの接点

キーパーソンとなる政府機関の要人や、進出分野の企業およびパートナーになる得る企業の要人との接点をいかに持つかは重要なポイントになります。政府間イベントへの同行や、展示会などの機会を通して接点を持つことは進出企業にとって有益なものです。サウジアラビアでは人との繋がりを重視する習慣があり、現地において継続的で地道な人間関係づくりが大切になってきます。

価格競争とは別の価値の提供

サウジアラビアは医薬品の90%以上を輸入に依存しており、多くの外国企業が進出しています。近年では中国や韓国の企業が安価な製品を展開しており、現地関係者からは、日本の製品は品質が高く信頼も厚いが、高価格であるとの声がありました。日本製品の高い品質、製品運用まで含めた包括的サービス、手厚いアフターフォローなどは強みになっており、価格以外の価値を認識してもらうことで、価格競争に陥らずに成功した事例もありました。

資金調達・資金確保

サウジアラビアでは、入札案件でも、受注から支払までの期間が長いことが特徴です。大規模な入札案件が多く市場として魅力がある反面、受注から支払いまでの期間が長く、場合によっては1年後のように長期になることがあります。そのような場合、支払いまでの期間のキャッシュフローを保つため、資本金の増資や資金の追資などを準備しておく必要が出てきます。

さいごに

今回はサウジアラビアでの調査を例に弊社の海外現地調査支援について紹介いたしました。サウジアラビアに限らず、各国それぞれに特有の課題がヘルスケア分野にあり、現地のヘルスケア政策や医療ニーズ、キープレイヤーの動向を把握することが、事業機会に繋がってきます。

弊社が実施したサウジアラビアでの調査でも、官民学の様々な分野の現地のキープレイヤーと対面で話す機会を作り、通訳を介さず英語で直接やりとりする積極的なコミュニケーションをしたことが情報の鮮度、信頼性、適切性につながりました。また、弊社がこれまで国内外で進めてきたヘルスケア全般の政策面と運営面の両方の知見を生かし、また現地の医療制度や政策動向、医療情報などの事前調査などを踏まえてインタビューを実施することで、論点を明確にし、深掘りした情報収集を行うことができました。

弊社の海外現地調査の特徴であるトータルコーディネーション、高品質なモデレーション、洞察に富んだアウトプットにより、現地の最新情報を的確に把握でき、効果的な戦略立案に貢献します。また、日本と現地の協力関係を強化し、人的ネットワークを構築することで、それぞれの国でのヘルスケア分野の発展と事業機会創出・拡大に寄与することを目指しています。


監修

大石 佳能子
大阪大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。
医療法人社団プラタナス総事務長。江崎グリコ(株)、 (株)資生堂等の非常勤取締役。一般社団法人 Medical Excellence JAPAN副理事長。
規制改革推進会議委員(医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ座長)、厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」委員等の各委員を歴任。

海外事業開発に強いメディヴァのコンサルティングについて