2024/02/20/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

コミュニティホスピタルが取り組む採用活動の軌跡(同善病院)

シニアマネージャー 村上典由/草野康弘

はじめに

2022年4月からコミュニティホスピタルへの転換に取り組み始めた同善病院。様々な改革を推し進める中で特に①スタッフの意識改革と教育、そして②コミュニティホスピタルにマッチするスタッフの採用活動について、病院として優先度を高くして戦略的に取り組んできました。

結果からお伝えすると、2023年12月までに下図のように大きく入職者数とともに伸ばすことができました。
 2021年  8名
 2022年  13名
 2023年  23名
病院全体を巻き込んだ試行錯誤の結果であるこの1年9ヶ月の取り組みについて振り返ってみたいと思います。

取り組み前の状態

あらためて集計したところ、2022年4月以前の当院ホームページからの直接応募者は1年間に5名程度。退職者を埋めるために求人媒体や紹介エージェントなどにも頼りながら採用活動をするものの常勤職員の採用には苦戦し、非常勤や派遣でしのいでいる状態でした。元々在籍していた職員にもヒアリングしたのですが、当院を選んだ理由は、通いやすかった、働く時間が合っていたというような、やりがいよりも条件を優先した人が多かった印象です。これは多くの中小病院でも同じような傾向があるように思います。

取り組み1】部署ごとの定数・ペルソナの再設定

はじめの1年間はコミュニティホスピタルへの方針転換が合わないなどの理由で残念ながら退職された方多くいらっしゃいました。
まず行ったことは部署ごとの目標職員数を設定したことです。職員が減っている状態で、新人が多すぎても回らないので、教育体制が組めるよう職務経験年数やマインドセットなどの採用したい人物像のペルソナを部署ごとに再確認するところからはじまりました。

取り組み2】求人広告メッセージの変更

2023年1月ごろにはホームページのミニリニューアルを実施。
TOPページとコミュニティホスピタルの概念を解説するページなど数ページの改定だったのですが、私たちが目指す病院像とはどのようなものか、それが患者さんやそこで働く医療者にとってどんな意義があるのかを発信するとともに、スタッフにも協力してもらって生き生きと働く様子を写真撮影して掲載することにしました。

併せて、求人広告媒体も同様のメッセージにすべて表現を統一したり、掲載写真もすべて変更したりしたのがこの時期です。振り返れば、この2023年1月頃は退職者が多く、少し暗い雰囲気だった病院内が、少しずつではあるものの雰囲気が変わって採用も上向きに変化してきた時期でした。

同善病院のホームページ

【取り組み3】求人広告媒体を増やし、認知を拡げる

数ある求人広告媒体を丁寧に管理すると同時に、幅広く求人媒体に露出させていきました(それほど費用はかけずに)。同時にいくつかの人材紹介エージェントにも我々が取り組んでいる内容をしっかりと伝えるなど工夫をしたのが2023年の前半でした。
採用活動とは別に、日頃のコミュニティホスピタルの取り組みを発信するためにInstagramも活用していましたが、DM経由で応募があったり、応募者がInstagramで当院の取り組みを見て志望動機を高めてくれたことが一定数ありました。当然ではありますが、大病院とは違って知名度が高くない中小病院にとって、病院の存在を知ってもらって、その取り組み姿勢を伝えることがまず重要です。

取り組み4】見学と面接の見直し

せっかく応募してくださった方の面接は、お互いを理解してもらうことや、複数ある候補先の中から私たちを選んでもらうために見学とセットで行いました。
例えば、10時に病院に来ていただき、病院内を紹介して仕事の様子を見ていただく。12時からは若手スタッフと一緒にランチタイム。昼休みのカンファレンス見学もユニフォームに着替えて参加してもらう。そして13:00頃から面接するようなタイムスケジュールを組むことにしました。応募者にとって面接時間は長くなりますし、現場の負担も大きくなるものの、良い人を採用する意義について全員に理解してもらってこのような形に変更しました。
入職者に入職後にヒアリングしたところ、この取り組みは非常に大きな効果があったことがわかりました。同善病院は建物が古く、近隣にある大きく綺麗な病院とはかなり見劣りはするものの、病院の中で生き生きと働く職員の様子を見てもらったり、地域活動を含めた様々な活動をしている様子を見てもらうことで、面接後に辞退されることはほとんどなくなりました。

取り組み5】採用サイトの開設

ホームページのミニ改定は行ったものの、ホームページ自体は古いままで採用情報も少なかったので、採用サイトを開設することにしたのが2023年秋ごろです。同善病院のウリをあらためて考えたときに、職種や部署を跨いでフラットに生き生き働く職員であると考えました。多くの職員に協力してもらい、写真とインタビュー記事に注力したものにしました。

同善病院・同善会クリニックの採用サイト

応募者がその病院の採用サイトを見たときに多くの職員の写真などがある。あるいは見学に来たときに全員で対応してくれるという様子は、応募者にとって歓迎感が伝わり、入職後に大切にあつかってもらえると感じてもらえる大事なポイントです。しかし、実際にこのような表現をするためには、本当に職員が協力的で、職場の雰囲気がよくないと実現できないので、本質的な取り組みが必要であることをあらためて感じます。

採用サイト用の写真撮影風景

まとめ 採用活動改善の結果

採用活動の改善を約2年間にわたって行ってきた結果、入職者数を大きく増やすことができました。同善病院は古い病院ではあるものの、秋葉原や上野駅から電車と徒歩を用いて20分程でアクセスできるという好立地に助けられているという面は少なからずあります。その上であらためて振り返ってみると、いくつかの効果的なポイントがあったと思います。

1つは、「コミュニティホスピタル」というコンセプトが働く人にとって魅力的であったという再発見です。「コミュニティホスピタル」という言葉が響いたわけではなく、シームレスにつながった入院・在宅医療・外来を経験できる、そして患者さんを継続的に長くみていける、多職種でフラットに患者さんのため地域のために働くことができるという仕事の内容に惹かれている人が大勢いました。
2つ目は、これから一緒に働く入職者に対して、見学対応や採用サイトなどを通じて病院全体で歓迎感を提供できたことも大きな要因だったのではないかと思います。
残念ながら、コミュニティホスピタルへの転換が始まった2022年4月から現時点までで、約3分の1の職員が方針の違いなどで退職してしまいました。この点については色々顧みる点がありますが、コミュニティホスピタルを掲げて採用活動を改善し始めてからは、まだ1人も退職者が出てないのは喜ばしいことです。

同善病院/同善会クリニックは地域のかかりつけ医療機関であるため、患者さんと長く付き合い、患者さんのことをよく知って診ていく必要があります。長く働いてくれていて、地域や患者さんのことをよく知っている職員が一人でも多くいることは、コミュニティーホスピタルにとっての大切な要素の1つなのではないかなと思います。

多くの医療機関の中から同善病院を選んでくれた入職者の期待を裏切らないよう良い組織づくりはまだまだ続きます。


執筆者

村上 典由
兵庫県出身。甲南大学経営学部卒業。広告会社、不動産会社、商社、飲食店運営会社を経て、2009年にメディヴァに参画。「質の高い医療サービスの提供」を目指して在宅医療の分野を中心に医療機関等の支援を行なっている。在宅医療・地域包括ケアシステム関連での医療機関支援、製薬会社・医療機器メーカー・不動産事業者の在宅医療・地域包括ケアシステム関連でのコンサルティングなど。2015年度政策研究大学院大学医療政策短期特別研修修了。

草野 康弘
東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学時は医療者と一般市民が相互理解を得るためのヘルスコミュニケーションについてフィールドワークを中心に研究を行う。 大学卒業後、外資系医療機器メーカーでの新規市場開拓営業に従事した後、2014年1月よりメディヴァに参画。病院の経営企画職等の現場実務を経て、医療機関の事業再生を専門としてプロジェクトマネジメントに従事。現在は患者視点の医療を実現すべく、全国の中小病院をコミュニティ・ホスピタルに変革することをミッションとして取り組んでいる

コミュニティホスピタルについて詳しくはこちら

関連サイト

一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会