2024/01/19/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

バックオフィスシステムの導入のポイント

コンサルタント 真鍋文朗

はじめに

昨今の医療業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進み始めています。それに伴い、各種システムの導入を検討されている医療機関も多いでしょう。ただ、システムと言っても、電子カルテのような診療に直接関わるシステムから人事・労務や給与計算、経理などのバックオフィスシステムと様々です。システムのベンダーも多く、どれを選ぶか迷う場面も多いと思います。今回は、弊社支援先での勤怠システムの導入を例にバックオフィスシステム導入のポイントをご説明します。

なぜ導入するのか?

バックオフィスシステムは、医療者にとっては必要性が見えにくいシステムです。加えて、既に紙で運用・管理することに慣れている場合、電子的な管理への変化に対し、現場が抵抗を示すケースがしばしあります。こういうケースでは、導入のメリットを整理し、決裁者及び現場へ丁寧に説明する必要があります。

導入のメリットとして、
①業務効率化(物理的な移動距離の短縮、遠隔での対応)
②業務プロセスの可視化(ミス発見、再発防止)
③コストの削減(対応人件費、紙代、ファイル代、保管スペースの節約)
④内部統制の強化(情報共有、権限管理、ログ管理等)
⑤リスクヘッジ(紙の紛失、情報漏洩)
⑥従業員満足度の向上(雑務や単純作業の減少)
が挙げられます。経営者と従業員の双方にとって導入のメリットは大きいと考えています。

現場にとってインパクトのある現状の課題を提示するとともに、業務削減時間やそれに伴い削減できる人件費のように定量的にメリットを伝えることが望ましいです。システム導入ありきで進めると忘れがちですが、そもそも何のためにシステムを導入するかの視点は常に持っておくことが大切です。

選定にあたりどの機能を重視するか?

システムの選定基準として主に
①コスト(初期・月額)
②機能
③使いやすさ
④既に導入されているシステムとの連携
⑤保守・サポート
が挙げられます。特に②機能はベンダーによって差が大きく、判断に迷うケースが多いです。一般的には高機能・多機能ほど価格が高くなり、ITに慣れていない人にとってはかえって使いにくくなる傾向があります。1つのシステムには複数の機能があり、各システムに強み、弱みがあるので、重視する機能の優先順位をつけます。こうしておくと、デモのときに見るべきポイントが明確になります。たいていのシステムは、トライアル期間が設けられているので、実際に触って機能や使いやすさを確認します。

また、病院に合うシステムを探すというだけでなく、病院の規則や業務手順をシステムに合わせるという視点も大切です。システムは汎用的に作られているので、システムが対応できないものはその組織独特である可能性があり、規則や業務手順の見直しができるチャンスでもあります。

他の注意点

バックオフィスシステムはそれ自体が収益を生まないため、システムを導入するにしても可能な限りコストを抑制したいという考え方もあります。しかし、コスト削減を追い求めた結果、重要な機能が不十分で業務が滞ってしまったり余計な手間がかかるケースがあります。

また、バックオフィスは他システムと連携するケース(例 勤怠システムと給与計算システム)が多くなります。実際に連携をテストして、意図する連携ができているかの確認をします。連携がうまくいかず負担がかかるケースが頻繁に見受けられ、特に各システムのベンダーが異なる場合は連携に注意が必要です。

保守・サポートは見逃されがちですが重要です。日々使っていると、操作が分からない箇所がでてきます。そのようなときに、リアルタイムで質問に答えてくれ、その場で解決できると助かります。特に給与計算等については支払日が決まっているため回答までの速度は事前に確認しておく必要があります。繁忙期には電話がつながりにくくて困ったという声を聞いたこともあります。

事例紹介

弊社支援先病院では、勤怠のリアルタイムでの正確な把握と勤怠の電子データを利用した給与計算効率化を目的に、勤怠システムの導入を検討しました(先行して給与システムは導入済)。システム導入前は、紙で集計した職員の勤怠データを給与計算システムに手入力したため時間がかかるとともに、入力ミスが時折発生していました。

最終的には、月額費用が抑えられかつ、打刻が当直と夜勤に対応可能で、勤務シフトの作成・取込の容易さを重視して選びました。トライアル期間中に給与計算システムとの連携に問題ないのを確認後、本稼働に移行しました。また、並行して就業規則やローカルルール・個別ルールの見直しも実施しました。

当初は、打刻ミスや確認漏れが頻発し、労務担当者と職員のやりとりが増え、双方にストレスも大きかったためシステム導入に否定的な意見も挙がりました。しかし、労務担当者が職員からの質問に丁寧に答え、シフト作成や休暇管理を見直した結果、スムーズな運用を実現できつつあります。

勤怠・給与計算システムの導入、2者の連携により具体的には以下の効果がありました。
●非常勤給与計算で導入前は3日かかっていた作業が現在半日で完了。
●総務課3名のうち1名休職したが、増員なしに2名体制で業務継続を達成。
●時間有給休暇がシステム上で自動計算され(以前は手計算)、有給休暇残の確認が容易。
●給与明細がメール配信になり、紙の配布作業がなくなり半日以上かかっていた印刷・封入作業を削減。

🔳勤怠システム導入前後の比較

バックオフィスシステムの導入にはまだまだ課題がありますが、当該支援先では勤怠システム以外のバックオフィスシステム(例 経理システム)の導入も検討がされているところです。