2024/01/10/水

医療・ヘルスケア事業の現場から

リハビリテーション科から始める組織変革3ステップ

コンサルタント 髙橋一樹

はじめに

団塊の世代が75歳以上となる2025年以降には、入院患者の約75%が高齢者になると言われており、治療が奏功しても認知機能低下や廃用症候群により元の住まいに退院できないことも経験します。このような背景より住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるように地域包括ケアシステムの構築が進められており、早期に退院し在宅療養に切り替えることが必要です。
今後、在宅医療ニーズはますます増加し、治療を中心とした“治す医療”から在宅生活を見据えた“治し・支える医療”へ、求められる医療は変化してきています。

組織変革の難しさとリハビリテーション科の活用

医療ニーズの変化に合わせ病院全体を「治し・支える医療」を提供する体制に変革していくことが必要ですが、簡単ではありません。そこで、リハビリテーション科(以下、リハ科)を起点として病院全体の組織改革を行う方法をご紹介します。リハ科を起点とする理由は3つです。

1つ目はリハビリテーション(以下、リハ)が地域包括ケアとの親和性が高いことです。リハは家庭や職場、地域での役割を果たして社会参加していくことが目的であり、「治し・支える医療」に繋がります。

2つ目は理学療法士などのリハビリテーション専門職(以下、リハ専門職)が医療と介護のハブになれることです。リハ専門職は日常生活動作能力の評価と今後を見立てることができます。これらは入退院支援や介護保険領域でケアプランを立案する際に有益な情報です。この機能は入退院支援看護師と重なる部分もありますが、看護師を専従配置できていない病院も多くあると思います。そのような場合にもリハ専門職がその役割の一部を担えます。

3つ目はリハ科が規模の大きい組織であることです。業務特性から多くの患者様にリハを提供するためにはたくさんのスタッフが必要です。また、疾患別リハビリテーション料が一部の病床を除いて出来高で算定可能であることもリハ専門職の雇用を促進しています。つまり、患者様が自分らしく暮らすためのリハが増加し、病院全体が「治し・支える医療」を提供する起点を数多く作ることができます。

リハビリテーション科から始める組織変革3ステップ

リハ科から始める組織変革には①リハ科内の強化、②医療・ケアチームの強化、③病院全体を巻き込んだ全人的対応の強化の3ステップが必要です。

まず、ステップ①「リハ科内の強化」で提供されるリハの品質向上を図り、次にステップ②「医療・ケアチームの強化」では、患者様を中心とした医師・看護師・医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)等で構成される医療・ケアチームに、リハ専門職から患者様の暮らしを支える視点を浸透させます。最後にステップ③「病院全体を巻き込んだ全人的対応の強化」ではリハ科から病院全体に情報や意見発信をし、「治し・支える医療」のマインドを浸透させていきます。

事例紹介

実際の支援先病院での事例をご紹介します。
支援先病院は中小病院で同じ二次医療圏には高度急性期を担う病院が多くあり、「治し・支える医療」が期待される病院です。

まずはステップ①「リハ科内の強化」です。
リハ科の役職者にて病院の役割とリハ科が発揮すべき専門性をミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)として整理し、スタッフ向けに説明することでスタッフは地域から期待されていることの理解を深めました。具体的には「地域の方々の想いに寄り添った専門的なリハで最大限の支援をする」というミッションを掲げ、想いを傾聴する研修やそれらをまとめるツールの作成、リハビリテーション栄養の研修、退院後の生活を具体化するための退院前訪問指導の実施、退院直後の訪問リハの積極導入を行い、リハ科内の強化を図りました。

次にステップ②「医療・ケアチームの強化」です。
臨床場面で実際に医療を提供するのが患者様を中心とした医療・ケアチームです。多職種で構成されるチームの中で患者様の今後の暮らしへの意向や実現のためリハ計画をリハ専門職として意見発信するようにカンファレンスシートを改訂しました。また、退院前訪問指導や退院後の訪問リハの必要性について説明し、これらによって医師や看護師、MSW等もその患者様らしい暮らしが何かを知り、それを実現するための具体的な議論をできるようになりました。その他にもリハ未実施の入院患者様においても状況に応じてリハの必要性を主治医に上申し、協議することで「治し・支える医療」の必要性を伝えられ、医師の理解も深まっていきました。

最後にステップ③「病院全体を巻き込んだ全人的対応の強化」です。
病院幹部が集まる運営会議や医局会、事務部・診療技術部会議、リハ科SNSなどでリハ科のMVVや取り組みを病院全体に周知しました。また、院内勉強会として看護師や看護補助者を対象に「食事」の観点で患者様を支える重要性のその方法を伝える摂食嚥下勉強会も開催しました。

このような取り組みの結果として、病棟の看護師より患者様が自分で食べやすい食器の提案やMSWから退院前訪問指導や訪問リハの提案が増加し、院内に「治し・支える医療」が浸透していっています。

まとめ

大きな変革の時を迎えている医療・介護情勢の中で、期待されている医療も変化してきています。その期待に応えるために地域包括ケアと親和性の高いリハ科を活用して病院全体の組織変革を推進してみてはいかがでしょうか。