2023/08/25/金

医療・ヘルスケア事業の現場から

医療機関における情報システム活用 

コンサルタント 福田 浩之 

1.はじめに 

昨今、DXやAIなど医療業界においてもデジタル技術を用いたビジネスモデルの変革や新しい価値の創造、業務効率化の推進は積極的に取り組まれています。 

医療DXやデジタル化の身近な例では、その先駆けとなったレセコン、オーダリング、そして今や多くの医療機関が導入している電子カルテシステム(以下、電子カルテ)が挙げられます。さらには、診断補助へのAI活用なども積極的に進み、飛躍的に進歩している一方、診療業務面でのIT・DXは、新しいシステムやサービスの登場にあわせて業務効率や生産性が飛躍的に向上しているかといえば、そうなっていないものも多く、DX、デジタル化の動きと大きく乖離しているのも事実です。そこで今回は、システム活用のよくある失敗例とこれからデジタル化を進める医療機関が注意すべきポイントをご紹介し、システムを有効活用するためには何が重要かをご説明します。 

2.本来目指すべきシステム活用の姿 

 電子カルテをはじめ、医療機関には大小様々なシステムが存在しています。各部門システム、統合ビューア、文書作成システム、さらにはバックオフィス関連である勤怠管理システムや給与システムも医療機関には必要なシステムです。それらの導入の目的としては、デジタルの利便性を活かし、業務の効率化や生産性を高めることであり、そのゴールはDX化によって新しい価値を生み出すことであるべきだと考えます。実際に多くの医療機関では、システム導入をはじめとするデジタル化から業務改善を行い、生産性を向上させることで得た余力を集患活動や質の向上のために活用しています。または、入力されたデータの二次利用によって経営戦略の立案をし、先々の方針決定に繋げる医療機関もあります。それらの医療機関は、十分にシステムを活用ができている、と言えるのではないでしょうか。 

一方で、デジタル化のためにシステム導入したのは良いものの、生産性の向上や業務の効率化ができておらず、従来の紙運用をシステムに置き換えただけや業務を見直さずに不要となるべき運用を継続することで却って負担を増加させてしまっている、所謂システムをうまく活用できていない医療機関があるのも事実です。ここからは、その「活用できていない」の具体例をお示しします。 

3. 活用がうまくいっていない事例とその原因 

①入力作業に関する事例(同じ内容の繰り返し入力、入力場所が制限されているなど) 

実態:同じ内容の繰り返し入力については、電子カルテで入力した詳細な診察記録を、 退院サマリや診療情報提供書、症状詳記に記載する際に同じ入力内容を再度入力し直している状況であり、その結果、入力回数分の不要な作業時間が発生しています。入力場所の制限については、わざわざ入力のために自身が移動する必要が生じ、結果として移動時間という不要な時間が発生します。 

原因:導入を優先するあまり、システム導入時に連携についての設計や相談をしていないこと、導入時期が異なるシステムの場合に既存システムとの相乗りを含めた運用を検討せず、専用端末として導入してしまうことなどが考えられます。機能が存在しない場合には連携ができないという言葉のみを受け取ってしまい、運用面で代替え案の検討ができなかった可能性も高いです。 

対応案:システム導入時に必ず担当ベンダーに他社システムとの連携を含めた運用について相談することをお勧めします。連携機能が実装されていない場合は、その機能の代替え案を提案して貰うことが望ましいです。入力作業そのものについても音声入力やシステムからの自動入力などの検討も有用です。場所の制限が生じる場合は、スマホやタブレットでの入力連携を含めた機能強化の相談もお勧めです。有償対応の場合でも、生産性向上で得るメリットを考慮し、検討頂くことが重要です。単独の削減効果は小さいですが、診療に関わる記録業務の全てが対象と考えると大きな不要時間の削減効果が期待できます。 

②データの二次利用に関する事例 

実態:システムの導入によってデータの可視化が実現したものの、 そのデータ集計や経営指標の抽出をする作業に半日以上の時間を要す、またはシステムに入力されているデータであっても限られた一部のデータのみ二次利用することができる環境ではないということも多いです。その結果、システムとは別にローカル環境で個別にexcelデータなどを蓄積続けるという状況が発生する医療機関があります。これらは、データを利用するために多くの不要な時間が発生するだけでなく、作業自体の属人化や二重のデータ管理業務が発生させてしまいます。 

原因:導入準備期間は、安定的に稼働させること、運用が問題なくシステム化されることに注力しがちです。特にデータの二次利用などのオプション的機能は後回しにされることが多いです。また、データ抽出や利用はシステム機能で容易にできるという説明を聞いただけで話を進め、実際のデータ活用関連は稼働後のベンダー立ち合いなども終了した後に初めて見るという医療機関も少なくありません。その結果、システムからのデータ活用は進まず、一部の職員だけがごく限られた機能を操作可能という状況になるのです。 

対応案:システム導入時から実際の運用を想定した経営指標や必要データについての相談、さらにデータが容易に活用可能な環境の構築の相談をお勧めします。システムに専用機能が備わっていない場合はDWH導入や医療機関が容易にデータを抽出・出力可能な環境構築に向けた提案をして貰うことをお勧めします。 

4. これからの医療機関にとってシステム活用には何が重要か 

デジタル化に向けた院内システムを活用できている医療機関とそうでない医療機関の差は非常に大きく、経営にも大きく影響すると考えられます。その差というのは業務の見直しをする余力がない、中心となるシステム管理者の不在、などの理由が多く挙げられる一方で、技術・費用面において他社間での連携が容易ではない仕様のシステムが多く存在している、ということも格差を生む背景となっているのではないでしょうか。 

今後の地域医療ニーズに柔軟に対応するためには、低コストで自由に機能を付加できる経済性、幅広い医療機関の運用にも対応できる汎用性、接続機器やシステムを選ばないアクセス容易性、さらには医療機関の財産とも言えるデータを容易に二次利用できる環境が重要であり、そのためにはAPIの開放がキーになると考えられます。API開放によって以下のようなことが実現可能になると考えられます。 

  • 電子カルテを含む複数システムの入力データが1つにまとまったDB(汎用DB) 
  • 本来機能では抽出が難しい記録などの文字データ、文書データの容易な抽出環境 
  • 電子カルテから多くの画面を呼び出す必要がない一元的な情報閲覧画面 
  • カスタマイズに多額な投資が不要なシステム・機器連携の検討 
  • 経営、診療の両面で日々変化するデータニーズへの柔軟な対応 

これらが実現すれば、本来の意味でのシステム活用が可能となり、より一層、医療機関における診療と管理業務の効率化に繋がると考えます。ですので、医療機関が今後何かしらのシステム導入を進める際には、APIの開放や他社システムとの連携に積極的なベンダーまたはそういった機能を備えた製品の導入を目指すべきであると考えます。勿論、そのような考えを持ったベンダーか、そのような機能を持った製品かどうかというのはなかなか判断がしづらいものです。まずは、そのベンダー担当者がいかに医療機関や診療現場での課題感を理解しているかどうかを確かめるために、今課題に感じていることをぶつけてみることをお勧めします。そこからさらに深堀をしていき、ただシステムを導入するのではなく、医療DXに向けた考えについて理解し合うことから初めて頂くことが良いかと思います。勿論、弊社のような医療・介護コンサルティング会社のような企業に知見を求めるのも方法であるため、1つの選択肢としてお考え頂ければと思います。 

5.さいごに 

医療DXを進めるためには、医療機関でのデジタル化を進め、その下地を作り上げることが必要です。各システムの導入と連携により効率化を進めることは、医療従事者が本来の業務に専念できる環境構築のために最も重要だと考えます。API開放をはじめ、データの二次利用、スマホ活用による自由度引き上げ、そしてデータと業務改善を絡めたDXを実現することができれば、汎用的なシステム連携や医療従事者の業務効率化だけでなく、医療機関の現状分析、戦略立案を含めた経営改善・強化に繋がり、医療DXとして新たな価値の創造と発展に寄与していくものだと考えます。