2026/09/29/火
事例紹介
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【執筆】コンサルタント佐藤/【監修】取締役 小松大介 ・ マネージャー江原修司
目次
課題:
準過疎地域で複数の医療機関・介護施設を展開する医療法人。理事長の急逝をきっかけに事業承継が必要となった一方、多額の借入金や管理医師の確保など複数の課題を抱えていた。
支援内容:
●150社以上へのお声掛けとM&Aマッチングプラットフォームへの登録で承継先探索
●承継先候補や金融機関、行政との協議・交渉
●再生計画の策定
など
結果:
約3年にわたる伴走支援によって、地域に必要な医療・介護を維持しながら、別法人への事業承継を実現。
医療業界では、医師の高齢化や後継者不足を背景に、事業承継が重要な課題となっています。
当社でも昨年、後継者や管理医師の確保に加え、借入金の負担に課題を抱えていた北関東に拠点を構える医療法人の事業承継をサポートしました。
本事例は、3年にわたる長期間のプロジェクトとなりましたが、最終的には同エリアの別法人への事業譲渡に成功しました。
初めに案件概要書を作成し、説明のために法人の本部に向かった日は嵐のような大雨。今思うと、この承継が苦難の道のりであることを予見させるかのような天候でした。
今回は、本事例を通して、複雑な課題を抱える法人において、どのように関係者と調整しながら承継を実現していったのかをご紹介します。
同医療法人は、医療機関や複数の介護施設を展開し、医療・介護の両面で地域を支える重要なインフラとしての機能を担っていましたが、理事長の急逝をきっかけに事業承継を進めることとなりました。
法人は約11億円の借入金を抱え、経常利益も年間数百~数千万円の赤字となるなど、経営上の苦戦が続いている状況でした。
また、もう一つ考慮する必要があったのが、急逝した理事長の相続財産です。相続すると、法人の借入金に対する連帯保証債務も引き継ぐ必要があるので、ご親族は全員、相続放棄を選択。相続放棄された資産類については、「相続財産清算人」として弁護士が選任され、その弁護士が相続財産を整理する必要がありました。
買い手候補として求められる要件は以下のとおりでした。
比較的ハードルが高い要件に加えて、人口は1万人程度の準過疎地域。高齢化率も高く、人口減少により駅からのアクセスも良くないということもあり、積極的に手を挙げる法人はなかなか現れませんでした。
多くの候補は、借入金の負担に難色を示しました。また、常勤医師を確保することも含め、借入金を返済できるだけのキャッシュフローを生み出すことは困難と判断されるケースがほとんどでした。
借入金の一部を免除してもらうことや、超長期でのリファイナンスの話も出ましたが、金融機関側ではすぐにはそのような判断に至りませんでした。
法人には前理事長の死亡保険金がある程度入っていたため、当面借入金の元本返済を止めている限り資金が枯渇する心配はなく、金融機関としても当該法人の取り扱いを決めきれなかったためです。
買い手探しでは、声を掛けた法人・企業は150社に上りました。加えて、M&Aのマッチングプラットフォームにも登録し、候補先の探索を進めました。
プラットフォーム経由で寄せられる問い合わせは、まさに玉石混交。真剣に検討してくださる候補がいる一方で、冷やかしと思われる問い合わせもありました。そうした中、いくつかの医療法人が関心を示し、トップ面談まで進むケースもありましたが、意向表明※の提出に至る先は見つかりませんでした。
※意向表明:M&Aプロセスで買い手が売り手に買収意向を示す法的には非拘束的な書面)
買い手候補が見つからない中、金融機関含む関係各所と、
など、多岐にわたる相談と交渉をしてきました。
1に関しては、当初想定した法人単位での承継でなく、借入金を引き継がず、事業に利用する資産のみを移転する事業譲渡という考え方です。その場合、金融機関に一部債務免除が生じる場合があります。金融機関にとってはどこまでの範囲で債権放棄できるかという点が論点となります(詳細は後述)。
最低譲渡価格を設定するには、担保に入れている不動産の鑑定が必要でした。
2に関しては、探索の結果、関心を示す法人は現れたものの、意向表明には至らず、3に関しても、行政との話し合いの場を設けましたが、議会のコンセンサスを得ることは難しく、かつ長期的な検討を要することから、具体的な進展にはつながりませんでした。
そうした状況の中、東日本地域で医療を展開する法人が買い手候補として現れました。
理事長が個人的に縁のある場所で医療・介護を展開したいというお考えで、事業への想いも明確で、ぜひ進めたいという話になりました。
数か月程度検討を重ね、最低譲渡価格での意向表明を提出してもらえました。
しかしながら最終的に買収資金を準備できず、当社から別の金融機関(ノンバンク含む)を紹介したり、返済イメージをシミュレーションしたりしましたが、撤退との結論に至りました。
少し話は戻りますが、ここで金融機関と相談する際にあらかじめ理解したい点を整理します。
保全債権(担保設定されている債権で強制執行が可能)と非保全債権(担保されていない債権で強制執行不可)を合わせた総額について、①仮に譲渡先が見つからず破産した際に金融機関へ弁済できる金額と、②最低譲渡価格で譲渡した場合に弁済できる金額を比較し、②が①を上回るかが、一つの判断指標となります(図1参照)。
図1

前述したように、期待していた候補が撤退したため、以前関心を示していたものの、借入金の引継ぎ含む譲渡対価が見合わないとして候補から外れていた法人に改めて声をかけました。
やがてその中の一法人が具体的な検討を希望し、意向表明を提出してくれました。しかし、その表明金額は、最低譲渡価格を1億円以上、下回っていました。
この条件では金融機関との交渉が難しいと判断し、譲渡価格の引き上げを求めました。
再度トップ面談を重ねて、承継によるシナジー、常勤医師の継続勤務、キーパーソンの離職回避について確約を得た結果、譲渡対価を引き上げてもらうことができました。
私的整理は、活性化協議会主導のもと、行われました。私的整理を進めるにあたって、顧問弁護士と一緒に再生計画案を作成し、その経済合理性と蓋然性について、第三者機関の検証を受けました。
再生計画案には、現在の窮境の原因、提供する医療・介護が地域の重要なインフラとなっている点、そして買い手から受け取る金額を金融機関への弁済に充てる方が、破産するよりも経済合理性に優れている点を記載。その計画案を協議会が選定する弁護士、会計士が検証するという流れです。具体的には承継候補のクロージングを半年後に設定し、それまでの予測PL/BS/CFを作成し、承継対価を含む現預金から弁済するシミュレーションをしました。
優先的に弁済する金額(公租公課、行政への補助金の返還、従業員の給与、売掛金の少額弁済、弁護士報酬、FA報酬、破産時の裁判所費用)などを差し引いて、残りの金額で担保解除を行い(保全債権弁済)、残額をプロラタで返済(非保全債権弁済)する計画です(図2参照)。
第三者機関の検証を経て、金融機関から実質的に一部減免を伴う私的整理の合意を得ることができました。
こうして、承継活動を開始してから約3年を経て、無事にクロージングを迎えました。
図2

約3年を要した承継でしたが、無事に引き継ぐことができ、地域のインフラとして必要不可欠な医療・介護を存続できたことは大きな成果でした。今後も、日本においては高齢化や人口減少により、地域の医療は存続の危機に直面するケースは少なくないでしょう。一方で、地域の医療・介護を守る立場の方たちは、並々ならぬ想いで事業の継続を願っています。
今後、後継者不在や借入金の負担が重くのしかかり、存続が危ぶまれる医療法人が増えてくることが予想されますが、地域にとって必要不可欠なインフラを守るべく、当社としても微力ながら貢献していきたいと考えています。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他